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可可豆見聞録

Vol. 65  タンザニア カカオと米の名産地2011/12/27

様々なカカオ生産地を旅してきましたが、アフリカ大陸に足を踏み入れたのは人生の中で今回が初めてでした。5年前に2度訪れたマダガスカルは島国であるためアフリカ大陸から離れていて、歴史的にもアジアやインドとの交流の痕跡や、かつての宗主国フランスの文化的名残が印象深く感じられる国でした。

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一方タンザニアはザンジバルやダル・エス・サーラムに今でも強く残るアラブ文化やイスラム文化、内陸や北部の様々なアフリカの民族文化が入り交じった国。実際最初に降り立ったダル・エス・サーラムの雰囲気と、南西部の国境付近に位置するカカオ生産地域では、人々や文化から感じられる雰囲気が全く異なります。
 

「タンザニア」という名前から私たちがイメージするのは、サハラに生息する野生動物達や、キリマンジャロ登山、あるいはその山の名の付いたキリマンジャロコーヒーなどでは無いでしょうか?
 

多分タンザニアにカカオがあるの?と思われる人の方が多いと思います。カカオ豆の生産量は同じアフリカ大陸で世界トップの生産量を誇るコートジボアール(アイボリーコースト)と比較すると100分の1以下。マダガスカル同様、本当にわずかな量しか生産されていないのです。
 

それでもここ数年、タンザニアの知名度がカカオ・チョコレート業界で話題になって来ているのは、特徴的なカカオ豆のアロマ。やさしく焼き上げチョコレートに仕上げると,
コクのあるカカオの香りとワイン、フルーツ、スパイスをミックスしたスペインのカクテル「サングリア」のような甘い香りが口の中に広がります。
 

魅惑のカカオが栽培されている、タンザニアの旅について今回はご紹介いたします。


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c-65-2.jpgアフリカの主食と聞いて、「お米」を思い浮かべる人は少ないかも知れません。以前訪れたマダガスカルも米を栽培・消費する文化が根付いている国でしたが、タンザニアでも同様に自国で栽培した米を主食として消費します。街の市場では竹籠に山の様に盛られた米が計り売りされている姿が良く見かけられ、他の農作物と異なり、米に関しては品種・品質に応じた価格が設定されていました(芋や野菜類に関しては、このような傾向は殆ど見られません)。
 

タンザニアで消費されている米は、もともとアジアから伝来したものらしく、日本米のように水分を多く含むものの、長細い形状が一般的。牛肉やチキンを焼いたもの、豆をトマトソースで煮たものに添えてソースを絡めて頂いたりしますが、インド文化も入り交じっている地域では、カレーのお供としてナン以外にご飯を選ぶことも出来ます。
 

c-65-3.jpg米の他に良く食べられる主食はトウモロコシ(あるいはキャッサバ)の粉を湯で練った「ウガリ」。こんもりとお皿に盛られたウガリを片手でちぎり、その手でボール状に丸めてスープに浸して食べます。
 

基本的に澱粉質をそのまま手で丸めるので、慣れないと指先に澱粉の固まりが付いて、次第にカピカピに乾燥してきます。またスープに付ける塩梅が難しく、私の場合は付け過ぎてポタポタとウガリからスープが滴り落ちて、テーブルの周りを汚してしまいました。
 

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 さて、もう一度お米の話しに戻ります。タンザニアに来るまで全く知らなかったことなのですが、実はこちらのカカオ生産地域は米の生産地としても知られているそうです。しかもその品質はこの国の中でも「絶品」と呼ばれる程。国内ではむしろ、“カカオの生産地”としてよりも“米の名産地”として知られています。
 

それもそのはず「カカオ」はあくまで国外に輸出される“換金作物”。しかもコートジボアールやガーナのように、カカオ生産が国の基幹産業を担っている訳ではありません。一般のタンザニアの人々にとっては毎日の生活に密着した「米」の方が重要です。
 

この地域で栽培されている米は一般的に食されている米と比較すると、形状が日本米のように短く、少しふっくらとしています。水分をより多く含むようで、やや多めの水で炊き上げると現地の方が説明してくれました。
 

温かい炊きたてのご飯を口に含むと、まるで日本のお米のように甘い香り。噛めば噛む程甘さが広がり、ほのかにもっちりとした食感も口の中で感じられます。
 

タンザニアでも“良質の米”として知られているのはやはりこの甘い香りのようで、日本人のみならず現地の人々も、その違いを鼻腔の奥で感じるようです。

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この米が栽培されているのはタンザニア南西部のKyela。タンザニアと言ってもマラウィとの国境沿いに位置し、直ぐ近くにはまるで海のような景観を抱くマラウィ湖が広がっています。


 

c-65-7.jpg今回セスナで最寄りの飛行場まで行くことが出来ましたが、途中野生動物の棲息地帯を飛び越え、乾燥した大地も飛び越え、そこから更に車で2時間半移動し、そうしてやっと着くことができました。
 

80以上の農村の集落から形成されるKyelaの基幹産業は「米」と「カカオ」。この2つが全く同じ環境で育つことはないので、“カカオの隣に米がある”何て状況に巡り会うことはありませんでしたが、それでも多くの農民がカカオ栽培に携わっています。
 

カカオの栽培地と一言で言っても国により状況は異なります。今まで訪れた農家や農園でカカオの木を撮影してもお金を要求されることはありませんが、ここではカメラを手にする度に「マニー・マニー(お金、お金)」と要求されます。


実っているフルーツを手に取って食すように、これまで他の国では風味チェックでカカオの実を割る際にお金を払ったことは無かったのですが、ここでは初めて例え1つのカカオの実でも、きちんと対価を払ってテイスティングしました。決して豊かとは言えない農家の人々が6ヶ月かけて育てたカカオの実。1粒でも無駄にしてはいけない、それは彼らの生活を支える大事な“換金作物”なのです。
 

c-65-8.jpgKyelaのカカオはアフリカ大陸の別の国からもたらされたと言われていますが、パッと見た限りでは幾つかの品種が混在している印象。実際カカオ豆をチョコレートに仕上げたときも、中央アフリカのカカオ豆のような“チョコレートのボディー感”がしっかりとした味とは傾向の異なる、フルーティーで繊細な香りも特徴的に示します。


昔ながらの手法でカカオの栽培を続けている農家が多く、年老いてもっさりと葉の茂ったカカオの木は、手の届かぬ高い位置にその実を付けていました。剪定があまりされていない様子で、それは各農家が抱える低収量の問題に繋がっているような印象を受けます。


カカオ栽培技術の高い国では、剪定が程よく行われます。栽培品種に適した剪定を行うことで、病気の蔓延を防ぎ、健康なカカオを栽培しながら、畑の収量を上げることが出来るのです。これはカカオに限らず、どの農業にも共通して言えることでしょう。


ただ、カカオを栽培している国の中ではそういった「カカオの栽培教育」が農家まで浸透していない国も多く、タンザニアの場合もその例外ではないのが現状です。「米」の場合はタンザニア国内での消費率が非常に高く、主食でもあるが故に、栽培の経験値から様々な技術・耕作文化が生まれているようですが、カカオは国内でチョコレートを生産する訳でもなく、あくまで“換金作物”としてカカオ豆を輸出するため、栽培教育の浸透が浅いようなのです。 


カカオ豆を生産するには、まずカカオの実の果肉と種を醗酵させますが、タンザニアでは各農家で行われることが一般的で、「ヒープ法」と呼ばれるカカオの果肉と種にバナナの葉を被せて行う醗酵方法や、竹籠にバナナの葉を敷き詰めてカカオ豆の醗酵を行う方法が、各農家の主流となっています。
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こういった醗酵の良い点は、各農家が自宅で植えているバナナ(食用バナナ:プラータノを含む)の葉で各自醗酵を行うことが出来るため、大きな資金を必要としないこと。身近にあるものを利用する、最も自然な方法とも言えるでしょう。

逆にデメリットは、醗酵が農家毎に異なり品質が安定しないこと。実際幾つかの農家を訪問しましたが、“醗酵しているようで醗酵していない”カカオ豆が幾つか見られました。醗酵が不十分ということは、チョコレートに仕上げたとき、アロマが少なく、苦みや渋みが強く残りやすくなります。


こういった各農家での作業はきちんと行われれば問題なのですが、実際には「カカオ栽培の教育不足」により“醗酵不十分”のカカオ豆が多く流通してしまうのが現状です。


恐らく世界中の多くのカカオ生産者の間で、そういった栽培教育は不足していると言えるでしょう。教育には資金も時間も、何より教える側の人材が必要です。そこに資金を投資することでカカオ豆の品質は格段に良くなり、それに見合った価格で取引されれば農家の生活レベルの向上が期待出来ますし、チョコレートがより美味しいものへと変わっていきます。

c-65-10.jpgその答えが分かっていて、カカオ生産国でそういった改革が直ぐには実行出来ない理由には、その資金の調達が難しいことが理由に上げられます。タンザニアやコンゴ民主共和国のようなアフリカの国々は、国連が定める後発開発途上国の1つです。そういった国々が自国の資金だけで国の主要産業にまで成長していないカカオに対し、優先的に資金を投入するのは非常に難しいことなのです。


それでもアメリカやヨーロッパの支援や投資により、少しずつですがタンザニアは変わって来ています。まだまだ一部とはいえ、カカオ栽培の教育が始まり、付加価値の高いオーガニックカカオを生産する農家も出てきました。


今回訪問した生産者の中には、農家が数件集まり、小さなチーム単位でカカオ豆を集約醗酵・乾燥しているところも有りました。醗酵状態は小農家のものと比較すると、格段に違います。検査のためにカカオ豆を割って見ると、美味しいチョコレートになりそうなカカオの香りが鼻腔をくすぐるのです。タンザニアのカカオ栽培の未来が、そこには詰まっていました。


前述の通り、タンザニアの一部のカカオ豆はフレーバービーンズ(香り豊かなアロマカカオ)として知られています。その一方で、タンザニアのカカオ生産者の現状や生活、彼らの文化は、まだカカオやチョコレートの業界で広く一般には知られておらず、また彼らもタンザニアのカカオ豆がどんな個性を持っているのか、深く知ることのないまま、そのカカオを栽培しているのです。
 

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c-65-12.jpg現在、私は生活の半分を中南米で過ごしていますが、ここでカカオ豆を生産するとき、アフリカのカカオ生産の人件費が話題になります。


中南米のカカオ生産者から見れば、アフリカの人件費はついライバル視をしてしまう項目の1つです。彼らの生産するカカオ豆は、価格の安さではアフリカには適わないのです。その分固有のアロマ、品種の価値を追求する動きにあります。


一歩世界に出れば、カカオを生産するそれぞれの国に、未来に希望を抱く沢山の子供達がいます。今、私が中南米で活動をするとき、子供達にも沢山の“知識の財産”が残せるようにと、カカオ栽培やチョコレート教育に力を注いでいます。


短期で訪れたタンザニア。ここでも多くの愛くるしい子供達に出会いました。カカオ生産地域に住んでいても、チョコレートは手にすることの無い、非日常の食品である現状。そんな中で毎日を送っているのです。


この子達のために、何か出来ることはあるだろうか?タンザニアを離れて4ヶ月経つ今でも、そのことが頭から離れません。

2011/12/28


カカオ・チョコレート・コーヒー生活を綴るブログ「カカオハンター」。
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