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可可豆見聞録

Vol. 63  カカオ・レボリューション2011/08/22

コロンビアから日本に戻り、少ししてからまたカカオの旅に出ました。

 

今回の旅は3度目となるパプア・ニューギニア。日本のNGO「公益財団法人オイスカ」が進めるチョコレート開発の一環で、現地でのチョコレート作りの指導や、カカオ豆を使用した商品開発を主な目的として再びこの地にやって参りました。

 

 

c-63-15.jpgこれまでに何度か触れてきましたが、チョコレート文化が根付いている中南米は例外として、カカオを換金作物として栽培し、そのカカオ豆を日常的に食する機会を持たない国は世界に沢山あります。

 

パプア・ニューギニアもその1つで、カカオ豆の生産量としては世界第10位以内に入るものの、スーパーで販売されている“チョコレート”はオーストラリア、アメリカ、あるいはマレーシアから輸入されたものが大半で、その販売価格は日本での販売価格より高いものも見られます。

 

一方の原料カカオ豆の価格はというと、乾燥カカオ豆1袋(63.5kg)の買い取り価格が、国際相場の高いときで500キナ(日本円で約¥18,000)、相場の低いときで350キナ(日本円で約¥12,600)。これをカカオ豆1kgに換算すると5.5~7.8キナ(日本円で¥193~¥273)程度と原料だけに安価なことが分かります。

 

1kgのカカオ豆から作れるチョコレートの量は、ビターチョコレートで約1.6kg、ミルクチョコレートで約3.3kg。ところが現地で市販されているチョコレートは先進国からの輸入品なので100gで10キナ(日本円で約¥360)と、原料カカオ豆とチョコレート製品ではその価格に大きな差があることが分かります。

 

 

 

男性を含め、パプア・ニューギニアにはチョコレートが好きな人たちが沢山います。でも彼らにとって甘いチョコレートはちょっと贅沢品。「高くて日常的にはなかなか買えない・・・」。カカオ豆を栽培していても、そんな状況が目の前にはあるのです。

 

2006年ごろからパプア・ニューギニアのカカオ栽培は、害虫被害を受け一部の地域では収量が大きく減少する深刻な事態に見舞われ、何年もその有効な解決策が見つからない状況が続きました。カカオ生産から離れて行った農家、生きていくために緑豊かな原生林を“焼き畑”にしてしまい、そこで主食の芋類を植え始めた農家もいます。カカオ栽培は国の主要産業だけに、現在直面している問題が“焼き畑”の拡大など、環境保全の問題を引き起こす可能性は十分にあります。

 

c-63-02.jpgそんな中高まったのは、自分たちのカカオでチョコレートやカカオ製品など付加価値のある商品を作り、観光産業や内需市場で新たなマーケットを作るという意識。10キナ/100gのチョコレートも良いけれど、自分たちでチョコレートを作り、それが将来パプア・ニューギニア国内で販売出来たらどんなに嬉しいことだろうか?そういった働きが新しいマーケット作りに繋げられれば、どのくらいの農家がカカオ栽培を続けていくことが出きるだろうか?

 

こういった経緯から日本企業の後援を受け、この“地カカオ”を使用したパプア・ニューギニアでのカカオ商品開発研修が始まったのです。


                         

 

 

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c-63-03.jpgカカオ豆を加工する際、どうしても機械に頼らざるを得ない作業というのがあります。それがカカオ豆を“挽く”作業。今回“粗挽き用”には日本から手持ちで性能のよい電動コーヒーミルを持参したので、パプア・ニューギニアに着いたその日からカカオ豆やピーナッツを挽いて作業を開始することが出来たのですが、もっと滑らかな、あのチョコレートの舌触りを作り出すには、更に精度の高い専用の機械が必要になります。

 

今回はこの日のために特別な機械を別の国に発注したため、試作日の1週間以上前には首都ポートモレスビーに着いていたのですが、何しろここはパプア・ニューギニア。そこからの道のりが非常に長く、私が到着したとき滞在予定の別の島にはまだ機械が届いていないという状況にありました。

 

 

 

機械より先に到着してしまい、仕方なく試作のスケジュール変更をして待っているとその2日後の夜に、スタッフが息を切らしながら重たい機械を運んできました。それからセッティングを行い、試運転をして故障が無いかチェックし、翌日に備え機械の清掃を行い・・・、外に出たころには南半球のオリオン座が、暗い夜空の中で瞬いている時間になっていました。

 

この機械とコーヒーミルを組み合わせ現地スタッフと一緒に“地カカオ”を使用して様々なものを試作しました。カカオだけでなく、パプア・ニューギニアには沢山のココナッツ、バナナ、バニラ、あるいはピーナッツなどもありますから、内需経済の活性化も念頭に入れながら、これらの素材もカカオと組み合わせる必要があります。

 

c-63-04.jpg例えばカカオとココナッツ、バニラを組み合わせた「カカオ石鹸」。パプア・ニューギニアではココナッツの木がカカオの木の陰木(シェードツリー)に使用されるくらいポピュラーで、ヤシ油(ココナッツオイル)を採取するためにプランテーションで非常に多く栽培されています。

 

ヤシの実(ココナッツ)15個くらいから約1Lのヤシ油が採れるので、まずは自家製でこの油を作ります。石鹸を作るときヤシ油を加えると非常に泡立ちが良くなるのですが、石鹸に使用する油の全量相当を使用してしまうと肌に対する刺激が強すぎるので、エクストラ・バージン・オリーブオイルなど肌にやさしい各種油をブレンドしていきます。

 

 

そこに水に溶かした苛性ソーダを加えていき、白い石鹸生地を作ります。石鹸生地が出来たら甘いバニラで香りを付け、生地の半量に自家製カカオマスを加え「白」と「黒」の2種類の石鹸生地を用意。石鹸をカットした時に断面がマーブル模様になるようイメージしながら2つの生地を交互に型に流して緩やかに混ぜていきます。保温をし、24時間後に型から取り出してカットすると、素敵な断面が現れました。

 

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石鹸にカカオマスを加えるのは単にカカオの香りを付けるためだけではありません。カカオマスの中に含まれるココアバターは保湿成分を含むため、洗いあがった後は肌がしっとりします。実際コスメの世界では、ココアバターはリップクリームやボディークリームに使用されているのです。

 

c-63-06.jpgカカオマスを石鹸全体に練りこむと、今度は一変して全体が漆黒の石鹸になります。マーブル模様の石鹸も、漆黒の光を放つ石鹸も、どちらも魅惑的な甘い香りなので、放っておくと現地の“アリ”に食べられてしまいます。約1~2か月、“アリ”に食べられないよう注意しながら石鹸中の水分を乾燥させると「カカオ石鹸」の出来上がり。フィルムとココナッツの葉で可愛らしく包んだら完成です。

 

 

 

 

 

 

 

その他、原産地の素材と組み合わせて人気が高かったのが、カカオマスと米粉を使用した「米粉のチョコレートクッキー」。こちらも“自家製米粉”、“地カカオ”を使用しているのでローコスト。しかも日持ちがして、作るのも簡単。

 

パプア・ニューギニアで“自家製米粉”?と思われるかもしれませんが、今現地では少しずつ稲作農家が増えているのです。
オイスカのラバウル・エコテック研修センターでは稲の栽培研修が行われていて、毎年全国各島から沢山の研修生がここで生活をしながら稲作を学んでいます。パプア・ニューギニアの土地では稲は栽培出来ないと長年言われ続け米は海外から輸入していたのですが、日本の稲作技術を導入した結果、現在では稲を栽培する人たちが増えてきているのです。

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この自家米を粉砕して作った米粉とカカオマスを組み合わせると、チョコレートのような口どけのクッキーが作れます。通常チョコ味のクッキーは小麦粉とココアパウダーを使用するため、このココアパウダーをカカオマスに置き換えるとココアバター含有量が増えるため食感の硬いクッキーになりがちですが、この小麦粉を米粉に変えてカカオマスと組み合わせることで、全く異なる、チョコレートのような食感のクッキーを作ることが可能となります。

 

このしっとりとろけるような食感は誰もが初めての体験だったようで、研修に参加した男性陣からも大好評。早速マーケットでどのように販売していくか、アイデア会議が始まりました。                          

 

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でも、何といっても全ての参加者の印象に強く残ったのが「チョコレート作り」でした。ドイツ人によりパプア・ニューギニアにカカオが持ち込まれてから今日まで、一部の研究機関を除けば、一般のパプアの人々が自分たちのカカオ豆で「自家製チョコレート」を作ったこと、食べたことは殆ど皆無に近かったのです。

 

c-63-08.jpgまずはカカオ豆を中火と弱火を組み合わせて直火焙煎していきます。焙煎したカカオ豆は手作業で丁寧に皮を取り除き(本来は機械で行う作業)、一旦カカオ豆を除冷した後、粗いカカオマスに挽いてから微粉砕した砂糖とともに機械で何時間も練っていきます。仕上げにバニラで香りづけ。

 

本当は2~3日の時間をかけてチョコレートを練りたいところですが、電気代が高く、停電も多いパプア・ニューギニアではリスクの多いことは避けねばなりません。この品質なら、まずはOKのところで今回は機械をストップさせます。

 

こうして出来たチョコレートを「テンパリング」(温度調整)して型に入れていきます。
このテンパリング、日本人でも初めて目にする人、耳にする人にとっては“?”の作業ですが、パプア・ニューギニアでは尚更のこと。

 

 

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実際にテンパリングをしたカカオマス、テンパリングをしなかったカカオマスの実物を見てもらいながら、「テンパリング」という作業の必要性を説明していきます。でも“聞くより慣れろ”、まずは実践あるのみです。

 

最初はビターチョコレートのテンパリングを行い、型に入れたチョコレートを冷やし、固まったチョコレートの型をトレーの上でひっくり返すと・・・、ピッカピカの板チョコレートの登場に一同感激!! 大喜びで板チョコと一緒に写真撮影会の始まりです。そしてそのとき誰もが口にしたこと「自分たちのカカオ豆でチョコレートが出来るなんて想像したこと無かった」と。

 

折角作った板チョコレート。まずは出来たてを一口。とろける食感と甘い香りに、みんな口元がほころんでいます。

 

出来上がった板チョコレートは丁寧にアルミホイルで巻いていき、明日用と1週間後用とに分けていきます。というのも、出来たてのチョコレート、翌日のチョコレート、1週間後のチョコレートでは香味と食感が変化していくため、必ずチョコレートを作ったときはそれらを確認する必要があるからです。

 

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続いて翌日にミルクチョコレートもテンパリング。ミルクチョコレートはビターチョコレート以上に人気があるようで、特に女性陣たちは美味しそうに試食のチョコレートを堪能していました。

 

今回参加したD氏のコミュニティーでは、現在オーガニックカカオを栽培し、そこで生産したカカオ豆を北欧に輸出しています。取引先(買い手)からカカオの栽培や品質のことで様々なことを要求されるそうですが、そのカカオ豆で作ったチョコレートは未だ食べたことが無いそうです。

 

カカオ豆のときにはわからなかった品質も、チョコレートにすると見えてくることはしばしばあります。D氏が口にしたことは、「これからチョコレートを作ることが出来れば、少しでも彼らが言っている“品質”を理解し、より良いカカオ豆作りに繋げていくことができるかも知れない」というカカオ生産と真剣に向き合っている人ならではの考えでした。

 

そしてこうも続けました。「カカオはもともとパプア・ニューギニアには無かったもの。外の世界から持ち込まれ、そのカカオ豆を買う人々は今も世界中から来るけど、誰一人としてチョコレートの作り方を教えてくれた人はいなかった。自分たちのカカオでチョコレートが作れることが、こんなに嬉しいなんて!! これは生産者による、カカオ・レボリューション。これからはチョコレートを知ってカカオ豆を作ることだって出来るのだ」。

 

 

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当たり前のように食べているチョコレートが、カカオ生産者にとって当たり前でない事実は、時代が生産者を置き去りにしてしまった結果なのだと感じるときがあります。

 

でも今、世界では少しずつカカオ生産国でチョコレートをつくるムーブメントが起こっています。一部の生産国は経済発展を遂げ国内需要が伸びていることが理由に挙げられますし、その他ではカカオ生産者自身が自立の道を歩み始めていることが挙げられます。

 

誰にだってチョコレートを作る権利、楽しむ権利があります。カカオ生産国の人々が、私たちの想像以上にチョコレートが好きであること、自分たちのカカオ豆でチョコレートを作りたいと願っていること、それはどこの国に行っても感じることです。この先そういった国々で自国のチョコレート生産が進展することは大いに想像できます。

 

その一方、カカオ生産国でのカカオ豆消費の内需需要が増えると、日本のように原料を輸入してチョコレートを生産している国にとっては、厳しい状況を迎える可能性も考えられます。カカオ豆争奪戦に参戦せざるを得ない、そんな時代がやって来るのかもしれません。

 


2011/08/15


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