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可可豆見聞録

Vol. 58 カカオに広がる「虫」の被害22010/08/18

 うだるような暑さの毎日。これだけの猛暑が続くと、喉の渇きを癒してくれるビールが手放せなくなってしまいます。

 

 

 ビールのおつまみといえば、定番の枝豆、冷奴、から揚げ、フライドポテトに柿の種、ミックスナッツなどが頭に浮かびますが、この夏私がオススメしたいのは、先日「おいしさの森」で紹介されていたミモザクッキング 海野先生の「カレーピザ」(いろいろピザの中の1つ)。

 

 スパイス好きの私はカレー味のソースに粗挽きの黒胡椒もプラスして、たっぷりの野菜にタバスコをふって頂きました。これ、ビールのおつまみに最高です。自家製ピザは野菜不足を心配せずに、栄養のバランスを考えながら好きなだけトッピングできるところが良いところ。特に薄切りのジャガイモ&オニオン&スモークチキンのトッピングはビールに合わせると病みつきになります。

 

 世界初、米からパンが作れるホームベーカリー「GOPAN」の発売発表がメディアで話題になるなど、日本では手作りパンが目下ブーム。とある調べでは、ホームベーカリーの市場規模が05年以降毎年2ケタのペースで成長を続けているそうです。気がつくと富澤商店のオンラインショップでも、小麦粉の種類が増えたように思います。

 

 カカオの仕事をしていると、パンとは縁の無いように感じるかもしれませんが、実は熱帯の国々で生活をしていると、毎日の生活の中で時折パンを食べる習慣に出会います。

 

 先日3年ぶりにパプアニューギニアを訪れたのですが、この国ではオーストラリアから輸入される小麦粉がスーパーなどで販売されていて、その小麦で作られたパンに会うことがしばしばあります。販売されている小麦粉のラインナップは1kgの小分けから10kgの大入り袋までありますし、日本では見かけないドライイーストブレンドの小麦粉も見ることがあります。

 

 パプアニューギニアで販売されている小麦粉は、たんぱく質量が9.5%前後。これはオーストラリア産、ニュージーランド産の小麦に良く見られる含有量で、フランスパンやピザなどを作るのに適しています。今回のパプアニューギニア滞在中にカカオ豆を使用した2次産品を色々と作ったのですが、そのとき通常のピザと、カカオ入りクリームをトッピングしたチョコレートピザも作ってみました。

 

c-58-01.jpg ピザを焼く窯の熱源は“薪”。この国ではカカオ豆を乾燥させるときもコラムVol.25のように“薪”を熱源とした乾燥台をしばしば見ることがあります。自家発電を持っているような施設以外では電力の供給が不安定(年中停電)ですし、何より電力会社が1社のみなので電気代が高いのがこの国の難点。トータルバランスで考えると、薪オーブンの方が使用する側としてはメリットが大きいのです。

 

窯は2段式で、窯の下部で薪を燃焼させるタイプ。薪の加減で温度調整を行うため慣れていないと扱いが難しいのですが、さすが地元の女性たちは使い慣れているだけあって、上手に火力を加減していきます。ピザもふっくら焼き上がり、とても美味しそうです。

 

 パプアニューギニアでは数年前よりカカオポッドボーラーと呼ばれる蛾の幼虫による被害が蔓延し始め、特に主要生産地では50%を下回る生産にまで減少してしまいました。主食にならないカカオでは当面の生計を立てていくのは難しいと思ったカカオ農民の中には、カカオから「米」の栽培にシフトした人もいるそうです。この虫害が続いている現在、他の作物に栽培を切りかえる傾向は続いている模様。

 

c-58-02.jpg 確かに彼らにとってカカオは主食にはなりません。でもカカオ文化の残っている国では別の見方もされています。例えばカカオ豆を食する文化の残る中南米(特に中米)では、毎日カカオ豆を焙煎して挽き、あるいは既にドリンク用に加工されたチョコレートを購入して、飲用する文化が残っています。それを朝食代わりとする人もいれば、パンやとうもろこしのトルティーヤとともに食す人もいます。何れにせよ栄養価が高いので、今でも一日の活力にと口にする人が多いのです。

 

 パプアニューギニアやアフリカなどカカオを現金収入の糧として栽培し、食する文化の無い人々にとって、この植物はどのように映っているのかと思うことがあります。今回現地でカカオ豆の栄養価を話したり、チョコレートの代用に挽きたてのカカオ豆でチョコレートドリンクやチョコ味の焼き菓子、アイスクリームを作ったときに「それは初耳」「初めて知った」という言葉を何度も耳にしました。

 

 スーパーに行くとオーストラリアやマレーシアから輸入された、現地の人にとって贅沢品であるチョコレート菓子はありますが、辺り一帯で栽培されているカカオ豆から自家用に飲料や菓子を作るすべは知らないというのです。そういった事実に直面すると、カカオ農民がかれこれ一世紀程、これを食する文化を知らずに栽培してきた歴史の痕跡を考えてしまいます。切り開かれた熱帯原生林の跡に育つカカオは、先進国からもたらされた換金作物なのだ、という現実が目の前に広がっているのです。

 


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c-58-03.jpg さて、冒頭でお話ししたカカオポットボーラー。これが蛾の幼虫による被害であることは以前コラムVol.48でもお話しいたしましたが、こういった被害を軽減する方法として主に以下5つの手段が挙げられます。

 

1. 殺虫剤の散布
2. 害虫の被害に合いにくい品種改良種を作ること(害虫抵抗性)
3. カカオの実にプラスチック袋を被せる(リンゴのように)
4. 落葉した葉を燃やす
5. バクテリアからの毒素を活用する

 

 カカオポッドボーラーの場合、カカオの実が若い段階から蛾の幼虫が入り込んでしまうため駆除用の殺虫剤散布では効果が現れないことがありますし、そもそも普段から農薬の散布が非常に少ないパプアニューギニアでは、特定害虫に効果を示す農薬そのものが入手しにくいと言われています。カカオ農民の生活レベルは決して高いとは言えず(むしろ低いこともしばしば)そのため農薬を購入する資金の調達が困難なのです。

 

 3の袋を被せる方法は、現実にはコストがかかるため実現されておらず(カカオはリンゴのように高額で流通しないため)、4や5はカカオ生育・受粉環境そのものへの影響も懸念されるため今のところ行われていません。

 

 従って現在、各農家では剪定作業をこまめに行い害虫の育ちにくい生育環境を作りながら現状をしのぎ、農業機関では害虫抵抗性が期待される新たな交配種カカオの開発が行われているそうです。

 

 パプアニューギニアでこのカカオポットボーラーの被害が現れ始めたのは2006年のこと。主要カカオ産地である東ニューブリテン州などでは4年経っても被害は拡大を続けており、その国の基幹産業に対するダメージの甚大さから、ついに政府が主導する対策プロジェクトが動き始めました。

 

 こういった害虫被害はカカオ栽培では日常的に起こることです。先日別の国に住む友人のカカオ農園を訪れたところ、害虫対策を行った結果ある現象が起こっていました。

 

 この友人は現在、病気や害虫に抵抗性があり生産性の高いカカオを栽培しているのですが、昨年は沢山収穫のあったカカオの木に、今年は殆ど実が成っていないというのです。


  
 見せてもらうと木にカカオの花は十分沢山咲いているのに、確かに肝心の実が成っていないのです。それもあるブロックは結実しているのに、別のブロックは結実しておらず、疎らな状況が散らばっているのです。

 

 今年は降雨量も十分だし、ハリケーンの被害があったわけでもありません。何が原因だろうと色々考えを巡らし、陰木に使用しているバナナの葉がカカオへの日光を遮っているのではないか、剪定をもっとした方が良いのではないかと話すものの明確な回答に辿りつかず、結局知り合いのカカオ栽培の専門家に電話で問い合わせをしました。

 

 「・・・わかりました。待ってみます。」と友人が電話を切り、原因がわかったと説明し始めました。彼は数か月前一部のブロックでベビーカカオ(結実したての小さなカカオ)に沢山の害虫が付いたため、そのブロックに殺虫剤を散布したとのこと。どうやらその時に本来受粉に必要な小さな虫たちもその殺虫剤の影響を受けてしまったようで、その結果花は咲いても受粉媒介者が少なくなってしまい、結実しない現象が起こってしまったようです。更にその殺虫剤の残留が風に乗って移動した結果、他のブロックでも同様の現象が起きたのだと思われます。

 c-58-04.jpg

 

 彼が植えていたのは病害虫に強いタイプのカカオ。そしてこれまで害虫被害に合うことなくカカオを生産していたのですが、今年に限ってこんな状況になってしまい、泣く泣く殺虫剤の使用を決断したそうです。

 

 カカオはフルーツ。例え病害虫に強い品種であっても外敵となるものの攻撃を完全に防ぐことは出来ません。まして昨今のように地球環境・気候が激しく変化する状況では、農作物は内部環境を調整して即座に順応することは出来ないのです。

 

 友人のカカオはこのまま数カ月経てば、殺虫剤の効果が薄まり媒介者となる小さな虫たちが戻って来て次第に受粉が行われるようになるそうですが、その期間に加え受粉から収穫まで更に半年待たなければなりません。その間の収益を心配した友人と私は、一か八かの人工授粉を試みました。

 

c-58-05.jpg 一つの花を摘み花弁やガクを取り、雄蕊の先の花粉を小さな雌蕊に付けるのです。揃いもそろって不器用な二人で本当に出来るのかと疑心暗鬼しながらも、以前専門家に習った方法を記憶の底から呼び戻し、実践してみることにしました。

 

 カカオの花は1cmほどの小さな花。熱帯の日差しの中、更に小さな花粉が集合している部分と雌蕊を擦り合わせるわけですから、とても根気のいる作業になります。雄蕊が四方八方に動いてしまい上手くいかないと気分はイライラ。辺りでは私の作業を邪魔するかのように、蚊がブンブンと集中攻撃を仕掛けてきます。

 

 カカオ栽培は通常虫媒受粉で人工授粉はポピュラーな方法ではありませんが、中には自家交配を研究するために人工授粉を試みる農家もあります。そんな方々に拍手を送りたいです。私ならこの作業、あまりに細かすぎて2時間と持ちません。

 


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c-58-06.jpg 害虫が寄ってくるのは、カカオだけではありません。製品となったチョコレートもシバンムシや蛾の仲間は大好きです。特に夏は、板チョコレートを密封しないで置いておくとその香りに誘われて寄って来ることがあります。放って置くと、卵を産んで孵ってしまうことも。

 

 シバンムシの幼虫もチョコレートが大好き。チョコレートを食べ進み、板チョコに小さな溝や穴を作ることがあります。

 

 夏のチョコレートにはご用心。少し前に購入した板チョコは、きちんと密封してあるか、小さな穴が開いていないか、よくチェックして下さいね。

 


2010/08/13
 

 
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