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可可豆見聞録

Vol. 57 スーパーアミーゴ MAGRA2010/07/03

 先日南米へ向かう旅の途中、アメリカでの飛行機の乗り換え時間が短かったため、折角なのでニューヨークに1泊して久しぶりに幾つかのチョコレートショップやスーパーマーケットに足を運びました。

 

c57-01.jpg 私の中でのニューヨークチョコレートといえば、以前コラムVol.21でご紹介したマックスブレナーのチョコレートがまず思い浮かびます。チョコレートの楽しさを存分に追求したメニューにはいつも遊び心が満載で、子供だけでなく大人も心から楽しめる仕掛けが随所に散りばめられているのです。イスラエル生まれのチョコレートショップですが、個人的にはチョコレート工場のような内装、ユニークなメニュー構成、オリジナリティーに溢れる食器類など、随所に散りばめられているエンターテイメント性の高いテイストが、ボリューム以上の迫力を演出しているように感じます。

 

 今回は朝9時の開店早々に足を運んだので、数あるマックスブレナーのメニューの中でも朝食スイーツメニューのひとつ「WOW!」を頼んでみました。しばらく待ってオーダーしたものがテーブルに運ばれて、思わず納得。思わず”WOW”と店員さんと目を合わせて言ってしまったくらい、ボール状の大きなガラスの器に入ったジャンボスイーツが運ばれてきました。

 

c57-02.jpg 自分の目からあご位の大きさまである器の中には、ホワイトチョコレートとミルクチョコレートのクリーム、ヨーグルト、クランチトーストグラノーラ、ラズベリー、ブルーベリーにストロベリーのミックスベリー、バナナ、荒刻みのマカダミアナッツ、ライスクリスプのキャラメルクランチと、彩り豊か、食感も様々な素材たちが盛り付けられているのです。

 

 全部を混ぜて食べるとフルーツやヨーグルトの酸味、チョコレートのあま~い味と、グラノーラとキャラメルクランチのカリカリ&ガリガリの食感がミックスされて、初体験の味わいが愉しめます。予想以上の主役の甘さに付属で付いてきた蜂蜜には辿り着けませんでしたが、別添えのチョコクランチはちょっと飽きてきたころに入れると、サクサクとした音が口の中で弾け、再びこのジャンボスイーツと戦うぞという気が沸いてきます。

 

 お腹に余裕を持たせ心構えをして望まないと完食は難しいかもしれません。まして人気のホットチョコレート「HUG MAG」もオーダーした日には、お腹の中はダブルパンチ。でもこれで12ドルもしないのですからお店の太っ腹な心意気を感じます。朝のシリアルにフルーツ、ヨーグルトと体に嬉しい素材もしっかり頂けますし。

 

 チョコレートなら任せてという方は、是非ニューヨークに行かれたときに一度お試し下さい。フレッシュな朝ではなく、大人のチョコレートタイムを体験されたい方は、週末の夜がお勧めです。以前金曜日の23時過ぎに行ったときは、空席待ちのカップルと飛び交うLOVEで溢れていました。

 

 ちなみにこちらのお店、オーダー時に登場するメニューリストがとてもかわいいのですが、お客様から“メニューリストを販売して!!”とリクエストが多かったそうで、ついに隣接のチョコレートショップで販売を始めたそうです。お店のメニューも販売してしまう大らかさ、さすが自由の国アメリカです。(WEBサイトのMENUSをダウンロードするとこのメニューリストがご覧頂けます。ご興味ある方、必見です!!)

 

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 前述のニューヨークの後カカオの産地に足を運んで来たのですが、今回は私の七つ道具の一つを伴っての旅となりました。

 
 
c57-03.jpg 道具の名は「MAGRA」。カカオ豆をカットし中の品質をチェックする、言ってみればギロチンカッターのような器具です。手作業でカカオ豆をカットして品質チェックをすることも出来るのですが、一粒ずつのカットは何かと時間がかかります。ところがこの器具は、一瞬にしてその作業をこなしてしまう優れものなのです。

 

 スイス製のこの器具を購入したのは数年前のこと。普段は日本で海外の知人たちが送ってくるカカオ豆をチェックするのに使用して、海外に出たときは人海戦術の手作業でカカオ豆をカットしていたのですが、今回は訪問する生産者の数が多く、それに伴いチェックするカカオ豆もかなりの数が予想されたため、思い切って共に旅することに決めました。

 

 本体とケースを入れて約3kg。さした重量では無いのですがスーツケースに入れるには微妙な重量と大きさ。かといって手荷物での機内持ち込みは何分「ギロチン」なのでまず無理であろうと判断し、結局ダンボールと梱包材でグルグル巻きにして、スーツケースとともに預けることにしました。

 

 原理は単純な器具でも、大事な仕事道具のひとつ。完全防備の姿に仕上げて空港カウンターに預けました。アタッシュケースのような見た目なのに梱包材でグルグル巻きにされている姿がいささか怪しい雰囲気を醸し出していたようで、どこの空港でも中身を聞かれたのはもちろんのこと、ニューヨークで荷物を再びチェックインした際には、強固な梱包がナイフで切り裂かれ、検査官によって中身をチェックした痕跡が残っていました。

 

c57-04.jpg そんな道中を経て辿り着いた生産地では、MAGRAが予想以上の大活躍をしてくれました。中央加工場をもっている大きな農園や輸出企業はこういった器具を日々の品質検査のために日常的に使いますが、小規模な生産者は器具の存在だけでなく、カカオ豆をカットして行う品質検査そのものも知らない人たちが沢山います。

 

実際生産したカカオ豆を購入する町の買い付け場で幾つかのサンプルチェックを始めると、それまでカカオ豆を売りに来たついでにワールドカップをテレビ観戦していた農家のおじ様たちが、いっせいにこちらに注目し始めました。

 

 作業はとっても簡単。まずはMAGRAを開いて右側にカカオ豆50粒を並べ、大きさや豆の形状をチェックします。次に左側を閉じてネジで閉め、垂直方向に立ててカッターを中央に挿入します。今度はこのカッターを下に向かって一気に押し、ザザザザーとカカオ豆をカットします。後はネジをゆるめて左右を開きカッターをそっと抜いたら終了。開けた瞬間に広がるアロマや、カカオ豆の中の色をチェックしていきます。

 c57-05.jpg


 不思議なものでこんな風にカカオ豆をカットすると、香りや色がそのカカオ豆の醗酵・乾燥の良し悪しや、どんなタイプのカカオ豆であるかをカカオ豆自身が教えてくれます。例えば醗酵が不足しているカカオ豆は生のカカオ“種”のような紫色を有しますが、程よく醗酵したものはそれが茶色に変わります。もともと紫を呈するポリフェノールの少ないカカオ豆は、醗酵後も色が薄く、そのままかじると苦味が無くナッツのような味わいがあるなど。

 

c57-07.jpgc57-06.jpg カカオ生産地では、十分な醗酵でアロマを持ったカカオ豆が必ずしも「良い豆」と考えられているわけではありません。むしろ品質改良が進んだ現在では「粒の大きな豆」の方が“良質”の定義に位置づけられているものも少なくなく、香りを持つ昔ながらのカカオや、醗酵・乾燥などの“一次加工”の良し悪しが評価されない場合もあるのです。

 

 ですから生産地によっては、病気に強く、大きな実が生り、粒の大きな種が生産出来る交配種カカオの方が好んで栽培されていることがしばしば見られます。決してそれが悪いわけでは無く、むしろ生産サイドとしてはごく自然な考え方なのですが、こういった背景からカカオ生産者側とチョコレート製造側との間に、求めるカカオ豆の認識の誤差が生じることはしばしばあります。

 

 そこで今回は各自生産しているカカオ豆がどんな状態なのか、そのカカオ豆でチョコレートを作ったらどんな味になるのか、もっと美味しくするにはどうしたら良いのかなど、実際にカカオ豆を生産者の目の前でカットして、解説や分析、意見交換を行いました。

 

 折角なら自分たちのカカオ豆を自身で感じて貰えればと思い、カカオ豆を器具に並べ、閉じるところまでは私が行い、メインのカッティング作業は生産者の皆さん自身にやって頂きました。「ドン・アントニオ、かっこよくカッターを押して下さい」、「ドニャ・エテルビナ、懇親の力で一気にザクッと」と説明した後「3・2・1 Vamos(Go)」の掛け声とともにカッティング。「Buen trabajo!!(good job!!)」「Bien bien!!(good good!!)」と声をかけながらカッターを開き、中の香りと色を一緒に確認。目を凝らして注意深く観察する人もいれば、空けた瞬間に現れた紫色に“きれいだね”なんていう人もいるのです(本当は醗酵不足なので手放しに賞賛は出来ないのですが)。

 

c57-08.jpg 十分に乾燥したカカオ豆は硬さがあるため、カットしたときに刃がカカオ豆に引っかかるような特有の手ごたえがあるのですが、乾燥が不足しているとやわらかいのでスルっとカッターが入っていきます。たまたま乾燥不足のカカオ豆をカットした年配の女性は、“あたしすごいわ、簡単に出来ちゃった”と嬉しそうに笑っていました。複数人が集まってカットした時には器具を開く度に歓声が挙がり、何だかちょっとした催し物のようになっていました。

 

 カカオ豆について初めて「知った」こと、その先を繋げるには長い時間と、常に生産地で綿密にサポートすることが必要でしょう。カカオ豆の中を見て感じてもらったことは「品質」を知る上での小さな一歩にしかならないかも知れませんが、自分たちが作っているものが何であるかを知り、考えることは、ものづくりにおいて常に基礎になることだと思います。

 

 カカオ生産地とそこから離れたチョコレート製造とは、繋がっているようでいつも見えない溝が存在することを肌で感じます。構造に違いがあるからこそ今のチョコレートの世界が成り立っているのだと思いますが、あるものを作るとき、原料供給者から製造者まで一貫した共通認識を持つことは、その製品の品質を大きく高めるものに繋がるのだと思います。

 

カカオ豆の「良質」とは。生産者と話すことで初めて見えてくる、別の角度の「良質」もこの世界にはあるのです。

 


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c57-09.jpg 4年に一度のワールドカップ。例え自国が出場していなくても、ここ南米では大賑わいです。山間のカカオ生産地でも、ソンブレロをかぶったおじさんが椅子に腰掛けブラウン管越しに観戦しています。

 

「どっから来たんだい」
「ハポン(JAPON)から」
「ハポンは出ているのか?」
「出てるよ、この間カメルーンに勝ったって」
「おー、良かったなぁ」

 

日本人が滅多に来ることの無い地域で、サッカーを通して日本のことを話すことになるとは。ワールドカップ、岡田ジャパン様々です。

 


2010/06/27

 


・MAX BRENNER(英語) http://www.maxbrenner.com/
 

 
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