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可可豆見聞録

Vol. 48 カカオに広がる 「虫」の被害2009/08/07

シャンパンボトルに入った、最上級のコーヒー。そうこのボトルの中には、微細な泡が詰まったシャンパンではなく、焙煎したての最上級コーヒー豆が中に入っ ているのです。コルクを開けるとまるで本物のシャンパンボトルを開けたときのように響く「ポンッ」と軽やかで勢いの良い音。

 

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 焙煎すると炭酸ガスが発生するコーヒー豆。そのガスの揮発とともに香ばしいコーヒーのアロマも揮散してしまうため、美味しい香りを逃さぬようシャンパンボトルにコーヒー豆を閉じ込める発想が生まれたそうです。


  良質なコーヒー農園の最上級豆だけを集め、世にも新しい方法でコーヒーの提供を始めたのが、世界中のコーヒーを探求する“コーヒーハンター”こと川島良彰 氏。思春期を南米エルサルバドルのコーヒー研究所で過ごし、以降コーヒー農園の開墾やコーヒーの絶滅種復活に精力を注いできた情熱のコーヒー人です。


 世界中の栽培指導や農園運営に携わり、つぶさにコーヒー生産の現場を見てきた氏が提唱するのは、生産者が安心して作ることの出来る「サステイナブル(持続可能性)なコーヒー」。


  カカオ同様国際市場で取り扱われるコーヒーは、生産者の理念やその品質が評価されて取引されることが少なく、価格変動の波に飲まれてしまうことの多い農産 物。またその国際価格の急変が農薬の多用や農地転換を引き起こすこともあるそうで、それにより継続的なコーヒーの生産や、環境に配慮した生産を続けること が難しくなるようです。


 そういったコーヒー栽培の現状と未来予想が、ECO JAPANで川島氏が執筆中のコラム「おいしいコーヒーの秘密―生物多様性の価値」にてつづられています。コラムの冒頭で川島氏は、コーヒー国際相場と生産者、環境との関係についてこんなことを語っていました。


  「コーヒーの国際相場が急騰すると生産国は一斉に増産体制に入り、無計画な森林伐採や過剰な農薬投与が行われ、環境が破壊されたり、過酷な労働が労働者に 課せられる。逆に相場が下がると農園は銀行の管理化に置かれたり、農園が伐採され代わりに牧草を植えて、牛の放牧を始めてしまう。」(ECO JAPANコラムより、一部要約)


 カカオの世界はコーヒーと似ていて、カカオ豆国際相場の変動や世界経済低迷の影響を受けて、高品質なカカオ豆を栽培していたカカオ農園の所有者が変わってしまったり、生産コストの維持が難しくなり、結果それまで作られていたカカオ豆の品質が落ちてしまうことがあります。


 またそういったカカオ豆国際相場低迷時に虫害やカカオ特有の病気による被害を受けてしまうと、農地復興までに多大な時間を費やし、ときにカカオ栽培へ戻ることなく大豆畑やとうもろこし畑といった、他の生産性や換金率の高い作物に転換しまうこともあります。


 今回はそういったカカオ生産者と自然の脅威との現状について、パプアニューギニアの例をご紹介しながらお話ししたいと思います。


■ ■ ■


 パプアニューギニアのカカオ虫害の現状が届いたのは、今年4月のこと。メキシコ滞在中に、NGO「オイスカ」のパプアニューギニアセンターから一通のメールが届きました。


 2年前に訪問した際、パプアニューギニアは既に一部の地域で「蛾」によるカカオ生育被害が広がりを見せていました。“ココアポッドボーラー(COCOA POD BORER)”と呼ばれるその虫害は、「蛾」の幼虫がカカオの実の中に入り込み、果肉を食べながら成長してしまうもの。


 主にインドネシア・マレーシアといった東南アジアのカカオ生産地域に見られるもので、現在渦中のパプアニューギニアでは効果的な策が見出されておらず、1本でも被害の痕跡が見つかるとその周りを取り囲むカカオの木を切り倒すことで対策が講じられてきました。


 パプアニューギニアでこの最初の被害が報告されたのは2006年4月のこと。始めは小規模だった被害地域がたった3年の間で大きく拡大し、ついに主要生産地域の大多数にまで広がったと一部では伝えられています。

 

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 ココアポッドボーラー(CPB)と呼ばれる「蛾」の幼虫は、カカオの実が4~5㎝以上の大きさで付くことが多く、厚いカカ オの実に小さな穴を開けるように中へ進入していきます。真っ白で甘いカカオの果肉を好む幼虫たちは、それを栄養にして成長する結果、本来ならラグビーボー ルのような形のカカオの実は成熟の前に変形したり、果肉を包む鞘の部分が硬くなってしまったりと様々な影響が現れます。当然チョコレートになる「種」の部 分も影響を受けてしまうのです。


 右の写真をご覧下さい。右側は健康なカカオの実(カカオポッド)、左側は蛾の幼虫被害を受けたカカオの実の内部です。左のカカオの果肉が茶色く変色しているのがお分かり頂けますでしょうか?これは「蛾」の幼虫がカカオの果肉を餌にしたため起こった結果です。


  このような茶色の果肉に包まれたカカオの「種」は、商品としての価値が無くなるためチョコレートには使用出来ません。この状態は概観だけではその被害が分 からないこともあり、結局収穫時に1つ1つ中が健康なものであるか否か、確認しながら収穫作業を行います。健康なカカオへの混入は避けなければならないも の。従ってこの作業で弾かれた商品価値を持たないカカオは、残念ながら土に埋めてしまう他に方法が無いのです。


 この「蛾」の被害が止まらないパプアニューギニア。 日本のNGO「オイスカ」のカカオ農園では、2008年に農園の剪定・てこ入れを行い、やっと収穫量が増加の兆しを見せてきた矢先にこの被害を受けてしま い、2009年には収穫量が激減する事態が起こりました。既にカカオの生産コスト-例えば農園で働く現地ワーカーへのお給料など-がカカオによって得られ る現金収入を上回ってしまい、農園の維持継続が難しい状況に直面しています。

 

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 かろうじて、この危機的状況下で最悪の事態を逃れているのは、2008年6月以降下落傾向にあったカカオ豆相場が、以前のような底値の状態にまでは至って いないことです。もしこんなに生産量の少ない状態で極端な相場の下落を併発したならば、生産地は壊滅的な状況になるかも知れません。「カカオ難民」と呼ば れる人々が主要生産地域に溢れる、そんな可能性すら示唆されます。

 

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表1. PNGカカオ豆単価比較(1袋/63kg当たりの単価:現地通貨Kina)


■ ■ ■


カカオ・サステイナブル -カカオ生産の持続可能性-


 それはカカオ栽培に起こるこのような虫害問題も含め、「作り手」と「買い手」が共通の目的に向かって互いに理解と認識を持たねば、成り立たないものだと思います。


 カカオ生産国の中にはパプアニューギニアのように、経済的立場の低い国も沢山あります。栽培時に起こる様々な問題を生産国任せだけにしていては、結局のところ解決は遅くなるばかりか、


① 現地の労働者が益々厳しい状況に立たされることにつながる可能性

② 現地の原生林など健康な土地が焼き払われ、新たな農地開拓が起こる可能性
  (耕作放棄地の増加と原生林破壊)

③ カカオ以外の農作物への転換にシフトする可能性


そういった問題が生まれることに繋がるかもしれません。


  日本は今、「農業」に関心を寄せる動きが至るところで生まれてきています。食糧自給率上昇への活動、食品のトレーサビリティー(追跡可能性)の明確化、地 産地消による地方農業の活性化、環境保全型農業の推奨など。実はチョコレートの背景にも「農業」があり、海を越えた国ではいつも自然の驚異や国際市場に翻 弄されながらカカオを生産している人々がいることを、こういった時代だからこそ知って頂ければと思います。

2009/08/07

 各種資料、及び写真をご提供下さった財団法人OISCAパプアニューギニア・ラバウル・エコテック研修センターの皆様に、改めてお礼申し上げます。

参考 財団法人OISCAhttp://www.oisca.org/
    パプアニューギニア農業情報システム(英語)http://www.pngnais.org/
    グランクリュカフェhttp://www.grand-cru-cafe.com/
    Mi Cafetohttp://www.mi-cafeto.com/
    ECO JAPANhttp://eco.nikkeibp.co.jp/
 
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