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可可豆見聞録

Vol. 45 VIVAメヒコ!! チョコレートの街 22009/04/19

4月になり、また旅の季節が巡ってきました。2年ぶりに訪れたメキシコは、今日も街中で陽気な音楽が流れています。日曜日の今日はいつにも増してソカロ(街の中心地)に人が溢れていて、マリンバの楽しい音色が聞こえてきます。

 

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前回のコラムでプエブラを中心としたメキシコの「モレ」をご紹介しましたが、その「モレ」で同じく有名な「オアハカ」という街に現在私は滞在しています。


 この街は一度コラムVol.26でご紹介いたしましたが、前回ご紹介しきれなかったチョコレートにまつわる興味深いものがまだまだある街なので、カカオを巡る旅の途中に再び滞在することにしました。


  4月のオアハカは乾季の季節。2年前のような雨の気配は感じられず、乾いた風がいつも吹き込みます。緯度が低いので本来なら亜熱帯の地域に入るところです が、山に囲まれた高地に位置するため明け方には日本より涼しく感じる朝もあります。メルカド(市場)に行く朝の5時台はひんやりとした空気が身を包みま す。


 それでもやっぱりココはメキシコ。日中から夕方にかけては1,500mの標高を越える高地特有の強い 日差しが照りつけ、連日30~35℃くらいにまで気温が上がります。日焼け止めを塗っていても高地の太陽が容赦なく、じりじりと肌を焦がしていきます。滞 在2週目にして既に両腕はチョコレート色です。


 街並みの美しいしいオアハカには、各国から観光客が教会礼拝や世界遺産のモンテ・アルバン、サポテカ文明の遺跡巡りにと様々な目的で訪れますが、やっぱりこの街の面白さは、なんと言ってもカカオやチョコレートを使った様々な「食」とその文化にあると感じます。


■ ■ ■


 2年ぶりに訪れたオアハカは、この街一番の有名なチョコレートショップ「マヨルドモ(MAYORDOMO)」が 新店を展開していました。真新しい壁の店には地元の人や沢山の観光客がひっきりなしに訪れます。本店よりモダン化した外装とは対照的に、チョコレートの作 り方は2年前と何一つ変わらない伝統製法。カカオ豆の皮を剥くことなく、焙煎してそのままモリーノと呼ばれる機械で一気に粉砕する作り方です。


  この地域のチョコレートは日本やヨーロッパのチョコレートのように、μm(マイクロメートル)の粒子にまでカカオや砂糖を粉砕しないし、食感がなめらかに なるようにココアバターを追加で加えたりもしません。挽き立てのチョコレートを口に含むと、機械の摩擦熱で熱くなったカカオと砂糖のザラリとした食感、セ イロンシナモンの鮮烈な香り、強い甘さが口の中に広がります。

 

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 その「マヨルドモ」のもう一つの名物が前回のコラムでご紹介した「モレ」。前回ご紹介した通り、オアハカはプエブラ同様モレの名産地でもあり、チョコレートを使用した「モレ・ネグロ(黒いモレ)」を始め、様々なモレがチョコレートショップや市場などで売られています。

  チョコレート店以外にも街中では「モレ」を作る機械モリーノ(チョコレートを作る機械と同じもの)を有する店が何件もあり、モレを始め朝食に飲まれる「ア トレ」などにつかう食材ペースト、主食の「トルティーヤ」に使用するトウモロコシを挽いている姿を目にすることが出来ます。

 

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 「モレ」「アトレ」「トルティーヤ」といったメキシコの伝統的な料理に共通することは、この国の食文化の根底に“トウモロコシ”“唐辛子”“種子”など といった食材を、メタテと呼ばれる石の台と、「マノ」と呼ばれる石の棒で「挽く」文化を持っていたということ。チョコレートの歴史本を読むと必ずと言って いい程この「メタテ」と「マノ」の名前が出てきますが、これらはつまり「メタテ」と「マノ」でカカオを挽くという文化そのものが、この中米食文化の延長上 にあることを意味するのです。

 

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さて話しを「モレ」に戻しましょう。オアハカでチョコレートを使った「モレ」と言ったら何といっても「モレ・ネグロ(黒いモレ)」が有名ですが、お店によってその他のモレにチョコレートでアクセントを加えることもあります。


  市場で購入したモレの中に、日本の方にも美味しく頂けそうなアーモンドとゴマを使ったものがありました。その名も「モレ・アルメンドラ・アホンホリ(ゴマ 入りアーモンドモレ)」。通常はチョコレートを入れないそうですが、こちらのものはアレンジでチョコレートを加えているため、程よい甘さとチョコレートや 種子類の香ばしさが感じられます。


 どんなモレかご興味のある方のために、その材料をご紹介いたしましょう。

 

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■ ■ ■

 最後にご紹介するのはカカオを使ったドリン ク「テハテ(TEJATE)」。この地域で古くから飲まれているもので、その起源は16世紀のスペイン人による征服より前の時代にまで遡ります。オアハカ の街から程近いウアヤパン(HUAYAPAM)はテハテの本場とも言える村で、その文化を後世まで伝えようと10年前から女性達によるテハテ作りの促進運 動が起こっています。オアハカのメルカド(市場)などでも、ウアヤパン出身の女性がテハテを作っている姿をしばしば見かけます。


  「テハテ」の名の起源は明らかでは有りませんが、アステカ時代に使われていたナワトル語の「花」を意味する言葉と、「水」を意味する言葉から生まれた造語 ではないかと一説では言われています。オアハカではその昔栄えた「サポテカ文明」の言語も今尚残っていて、サポテカ語ではまた別の名前で呼ばれているそう です。

 

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 「テハテ」の原料はトウモロコシ、焙煎したカカオ豆、“ピスレ”と呼ばれるマメイ(中米で食べられるフルーツ)の種、“カカオの花”と呼ばれる「ロシータ・デ・カカオ」。これらを「挽いて」ペースト状にしたものに少しずつ水を加え、じっくりと手で練っていきます。


  「マメイ」はメキシコ南部が起源のトロピカルフルーツ。一見はイモのような地味な概観ですが、中を割るとパパイヤのような濃いオレンジ色の果肉が現れま す。この果肉は熟した柿にアボカドの食感を足したような甘く濃厚でクリーミーな味わい。柿の種を大きくしたような黒く細長い殻が実の中に1つあり、その中 に種が入っています。この種を乾燥させて、「テハテ」作りに使用するのです。

 

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「ロシータ・デ・カカオ」も同じく乾燥させたものを使います。白く可憐な生花の花弁とガクを一緒に乾燥させると、メイプルの ような香りが生まれます。そのまま食べるとガクの部分が蜜のようにほんのり甘く、噛み続けていると少し唾液が粘ってくるのを感じます。この花が「カカオの 花」と呼ばれる由縁は親木の葉にあります。


 「ロシータ・デ・カカオ」の木は真っ直ぐで背が高く、その姿はカカオの木とは異なるのですが、しなだれるように広がるその葉は、カカオの葉と良く似ています。そんなことから、この木の花は「カカオの花」という別名を持っているそうです。


 「ロシータ・デ・カカオ」(*)は 生産量が少ないため、市場でも多くは見られません。オアハカの街中の市場でも取り扱っているところは殆ど無く、近郊の先住民(インディヘナ)の青空市な ど、一部の市場で見ることが出来る程度です。生産地も非常に限られていて、そのためかこの花は「テハテ」作りの材料の中でも高額で取り扱われています。

 

*「ロシータ・デ・カカオ」は「Guile Bdie-lengua」というサポテコ語の別名も持っています


 「テハテ」作りはその昔、チョコラテ作り同様「メタテ」と「マノ」と呼ばれる器具で材料を挽いていましたが、現在ではチョコラテやモレをつくる機械と同 じものを使って、ペースト段階まで細かく挽く店も増えてきました。時代とともに作り方や材料が一端で変わってゆくのは、どの世界でも同じようです。

 

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 モリーノ屋で出会ったイヴァンさんの「テハテ」には、基本の材料の他に味わいを広げるため、ココナッツとピーナッツが含ま れます。作り方も「メタテ」と「マノ」の代わりに機械で一気に材料を挽く方法です。トウモロコシ以外の材料を合わせてモリーノ(機械)で細かく粉砕する と、目の前で「ロシータ・デ・カカオ」の甘い香りがふわりと広がります。


 沢山のモレを作るときはこのようにどうしても機械の助けが必要になるようですが、磨砕時の熱が食材に伝わってしまう機械より、本当は「メタテ」と「マノ」でじっくり時間をかけて挽く方が美味しいそうです。

 

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 挽いたペーストは、次に手でゆっくりと練り上げていきます。ココからはテハテ作りこの道15年のベバさんの登場です。テハテを練り上げる作業は重労働。約30分間は大きな器に向かってひたすらペーストを練っていきます。


  ペーストを練りながら少量ずつ水を注ぎます。生地と水を良く馴染ませ、ある程度生地がやわらかくなったら、今度は高いところから水を注ぎ入れます。“ジャ ボジャボ”という音が立つように入れるのが重要なポイント。こうやって練っていくと、最初はぽったりとしていたペーストが次第に粘りのある液状に変わり、 最後には表面いっぱいに白い花が咲いたように成分の一部が固まって、「泡」のように浮いてきます。


 これは「テハテの花」と呼ばれるもので、口に含むとモロっとした食感、舌の上ではスッとチョコレートのように融けていきます。冷蔵庫に入れるとこの白い「泡」がボロボロと固まったことから考えると、大方種子の油脂分が固まったものと予想されます。


  お店によっては遥か昔の時代からコップとして使われてきた、“ヒッカラの実”の器で「テハテ」を頂くことも出来ます。まずは甘いシロップを器に注ぎ、次に 「テハテ」を注ぎます。最後に表面に浮いている「泡」を少し掬ってトッピング。お水で作って氷で冷やすので、やわらかなひんやり感とともに頂くことが出来 ます。


 マヤ時代のチョコレートも、高い位置から別の器に注いでチョコレートを泡立てたと言われています。現在に伝わる“モリニーニョ(撹拌棒)”はその名残。この「テハテ」も「泡」が立つように上から水を注ぐ姿は、何だかマヤ時代のチョコレートの注ぎ方と重なるものを感じます。


 マヤ時代のチョコレートは様々な儀式に用いられましたが、「テハテ」もその昔、神への儀式の際に飲まれていました。カカオを使った2つの飲み物が共に神の飲み物に通じることは、なにも偶然なことではないと思われます。


  ちなみに「テハテ」はトウモロコシや種子類を挽いて作っているので、栄養満点。灼熱の太陽が降り注ぐこの地域で失いがちな水分や栄養補給にぴったりです。 味はお店によって様々。甘めのお店もあれば、イヴァンさんのようにココナッツブレンドでこくがあるもの、サラッとスッキリ香ばしいものもあります。


  すべてに共通して言えるのは、チョコレートのようなカカオの味というよりは、トウモロコシの香りと「ロシータ・デ・カカオ」の何ともいえない甘い香りが前 面に出ていて、カカオは奥の方で香ばしさを主張している感じであること。“味わいと栄養のサポート役”と言ったところでしょうか。でもこのカカオが入って いないと、本物の「テハテ」とは言えないそうです。


■ ■ ■


 「チョコレート入りのモレ」も「テハテ」も、チョコレートの起源地ならではのオリジナル文化。旅をしているとメキシコやグアテマラといった中米に“何か”を感じるのは、伝承するチョコレート文化の背景に、壮大な歴史がそこには詰まっているからのように感じます。

2009/04/19

 
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