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可可豆見聞録

Vol. 44 VIVAメヒコ!! スパイシーなチョコとの関係2009/03/30

「ウイスキー」と聞くと男性が口にするアルコールのイメージが強いかもしれませんが、このところはショコラを片手にシングルモルトを頂く、なんてお洒落な時間が大人の女性たちの間で話題のようです。

 

2月にお台場で行なわれたウイスキーマガジンLiveでは、数あるウイスキーのセミナーの中でも特に「チョコレートとウイスキー」のクラスは女性の参加者を中心に人気だったようで、チケットも早くに完売しておりました。

 

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 仕事で縁あって出会ったかおりさんも、ウイスキー好きな女性の一人。小柄で細身、エレガントな印象のかおりさんは、一見で はウイスキーライフを送っているような女性に見えないのですが、しなやかな指先でグラスを運び、饒舌にシングルモルトを語る姿には女性ならではの凛々しさ と格好良さが感じられます。多くの女性にウイスキーを愉しんでもらいたいと、ウイスキーやその提案方法を常日頃から研究している彼女の企画で、先日女性限 定の「ショコラ×シングルモルト会」を都内のバーで開催しました。


 ショコラ(チョコレート)の中には「甘 味」や「苦味」だけでなく、カカオ+副素材の「フルーティーな香り」や「フローラルな香り」など幾つもの香味が含まれます。それはウイスキーも同様で、 しっかり味わうと原料である「モルトの甘み」やモルトを乾燥させる際の「ピート香」、「貯蔵樽の香り」、「果実やハーブの香り」など、様々なアロマが隠れ ています。少人数で行なったこの会では、5種の個性的なシングルモルトウイスキーと7種のショコラとの相性を、じっくりと探し出しました。


  普段ウイスキーだとロックで2杯も頂けばほろ酔い気分になるのですが、仕事モードで真剣にテイスティングをすると味覚と嗅覚に神経を集中させるためか、ス トレートで5杯、さらに追加で2杯頂いても酔う気配が感じられません。かおりさんはもとより、他の女性参加者も真剣な眼差しでグラスのウイスキーとショコ ラを口に運びます。自分の舌で感じたものを言葉に託して互いの意見を交換し、再びショコラと次のウイスキーを口に含み、また印象を伝え合い・・・と、3時 間もの時間をかけて、各々の相性を吟味しました。


 合わせるショコラはボンボンショコラのナチュール、 フランボワーズ、シナモン、パッションフルーツ&レッドペッパー、板チョコのビター、ミルク、塩入りビターとそれぞれ用意しましたが、中でも香辛料の香り があるものや塩味が添えられているものは、ウイスキーの甘い香りを膨らませたり、味わいをまとめるアクセント的な役割を果たしたりと、想像を超えた効果が 見られました。


 もともと甘いものとは相性の良いウイスキー。グラスのお供に市販のチョコレート菓子もいいですが、折角ならちょっと背伸びして、“香辛料”や“塩”の効いた専門店のショコラとともに、一歩大人の味覚の世界を巡ってはいかがでしょうか?


■ ■ ■


 さて、そんなウイスキーとも相性の良い、香辛料とチョコレート。この2つの組み合わせは現代から見ると一風変わった組み合わせのように感じられるかもしれませんが、遥か昔の時代から中米では食文化の中に取り込まれていました。


  スペインによる征服以前のマヤ族の間では、一部の飲料用チョコレートにはハチミツやオレフェラと呼ばれる“耳のかたちをした花”の他、オールスパイスやバ ニラといった香辛料が加えられていたと言われています。アステカ族の間ではチリ(唐辛子)が加えられることもありました。また、この後時代を経てチョコ レートが庶民にまで広がってくると、徐々にシナモン、黒胡椒、アニス(八角)なども加えられたそうです。

 

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 飲み物としてマヤ・アステカの時代には、既に取り入れられていた香辛料とチョコレートの組み合わせ。これが料理に発展したものといえば、有名な「モレ (Mole)」が挙げられます。メキシコ・プエブラ地方発祥の「モレ」は、チョコレートに香辛料、ドライフルーツ、ナッツ、トマトやニンニクをブレンドし たソース。メキシコを代表するソースで、今では現地のスーパーに行けば手軽に作れる“インスタントのモレ”が陳列棚に並んでいる姿を目にすることが出来ます。

 

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 発祥地プエブラ地方のモレは「モレ・ポブラーノ(ポブラーノはプエブラから由来)」と呼ばれています。“モレと言えばポブラーノ”と続くくらい有名な ソースで、通常はこれを七面鳥や鶏肉などに掛けて頂きます(ポージョ・エン・モレ:Pollo en Mole)。見た目に黒く、味の想像をし難いモレ・ポブラーノですが、実際口にするとほんのり甘い味わいの中なら様々な香辛料の香りと辛みのアクセント、 ナッツ類のコク、トマトの酸味が広がります。

 

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地方色のあるモレは隣の州であるオアハカ州でも作られていて、こちらでは黒のモレだけでなく、「モレ・ロッハ(赤いモ レ)」、「モレ・アマリージョ(黄色いモレ)」なども作られています。赤や黄色のモレにはその色の唐辛子が使われますが、通常チョコレートは使われませ ん。もともと「モレ」とは“ソース”を意味するナワトル語が変化したものだそうで、そのため「モレ」だけではシンプルに“ソース”のみ意味するようです。

 モレ・ポブラーノ作りには、実に様々な食材が使われます。代表的なものは以下の通り。

 

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 他のレシピでは、たまねぎやかぼちゃの種、アーモンドが登場するものも有りますし、味の決め手の香辛料が30種類も入るレシピもあります。


  そもそも「モレ・ポブラーノ」は17世紀に生まれた説と、19世紀に生まれた説とが存在し、その経緯も(A)修道院にて修道女が客人を歓迎するために新た なソース作りに挑み、故意にチョコレートを加えて作られたという逸話と、(B)同じく修道女がソース作り中に偶然チョコレートが棚から落ちたことから誕生 したという逸話の両方が存在します。はっきりとした誕生説は残っていないようですが、そのモレ・ポブラーノが現在でもメキシコを代表する伝統料理として息 づいていることは確かなことです。(多くの文献では17世紀にAの理由で作られたと書かれています)


 この ソースが一種独特の雰囲気を放っているのは、単にチョコレートを使用した奇抜的なソースだからというわけではなく、スペインによる侵略後に旧世界のアメリ カ文化(アステカ文化など)と新世界のヨーロッパ文化が入り混じって生まれたものだからと思われます。つまり、その昔飲まれていた香辛料入りのチョコレー トが、砂糖やトマトといった新世界の新たな食材と出会って、その遺伝子を半分残しながら生み出された料理であるからでしょう。

 

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 そんな魅惑的な味わいの「モレ・ポブラーノ」。最近ではこれを板チョコレートで表現するショコラトリーが登場して参りまし た。イギリス・ロンドンの「アルチザン・デュ・ショコラ」では、上記の食材の中から2種のチレ(唐辛子)とトルティージャ、クローブにアーモンド、更にタ イム、コリアンダー、オールスパイス、メキシカンペッパーリーフの香辛料を重ねた板チョコレートを作り出しました。


 トマトの酸味の変わりに南米産カカオの酸味が口の中に広がり、同時に香辛料の絶妙な香りが鼻腔をくすぐります。板チョコレートが融け終わる頃、今度はチレ(唐辛子)の辛味が舌の上を刺激。食べ終えた後でも余韻が残り、再びもう一口食べたくなる味わいです。


  「モレ・ポブラーノ」を固形化したような味わい。ウイスキーともワインとも相性が良く、お酒の味わいをしっかりと引き締めてくれます。残念ながら日本では 期間限定でしか手に入りませんが、その代わり自身で好みのスパイスを調合してチョコレートに練り込んでみてはいかがでしょうか?


■ ■ ■


 ポブラーノとは異なるタイプのモレですが、グアテマラで友人の真幸さんと一緒に一度だけチョコレートのモレを作ったことがあります。

 

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 チレやトルティージャは現地の“かまど”で焼いて投入、トマトも皮が焦げるまで鍋で焼きます。ゴマ、かぼちゃの種はすり鉢 で細かく潰し、ミキサーで食材を粉砕。ピューレ状になったものを鍋で加熱しながら、最後にざらりとした現地の甘いチョコレートを加えて煮込みます。レスト ランで食べるモレとは一味違うけれども、これがなんとも美味。少し多めに加えたゴマの香ばしさとピリ辛のチレが、熱帯の暑い日射しで疲れた身体を心地よく 刺激します。


 そういえば“家庭でのモレ”は残っている食材を細かくして入れることもあると聞いたことがあ ります。そのときふと頭に浮かんだのは日本の「カレー」。定義があっても家庭によるバリエーションは無限で、残り物を上手くアレンジすることも可能。しか もインド文化と日本文化の融合料理のような風合いも持っています。


 そういえば、カレーの隠し味にチョコレートを入れることがありますよね。カレールーそのものにココアが入っていることだってあります。私達の味覚の中枢にはモレ・ポブラーノよりちょっとマイルドな、香辛料とチョコレートの関係を受け入れるアダプターがあるんでしたっけ。

2009/03/30

* モレ・ポブラーノは、国内でも一部のメキシコ料理店で頂くことが出来ます。
  Artisan du Chocolat http://www.artisanduchocolat.jp/

 

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NHK総合「世界遺産への招待状」(4/13)にて放送予定です。

 
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