- Vol. 40 エクアドル KAOKAのカカオを訪ねて 32008/11/30
先日スペインを訪れたときのことでした。宿泊先のホテルに勤めていた若い男性が南米系の顔立ちをしていたので、ふとエクアドルの農家の人たちが話していた ことを思い出し、出身地を聞いてみました。彼はペルー出身で4ヶ月前にスペインにやってきたとのこと。目的はほかならぬ出稼ぎで、ペルーで働くよりもスペ インで働いた方が収入に繋がるため、このホテルで働き始めたそうです。
そういった経済格差から、中南米の若い人たちが祖国を離れここスペインに働きに来ている現実があります。例えばアメリカ合衆国でも出稼ぎを目的とした中 南米系ヒスパニョーラの人々が年々増え続けていて、将来的にはアメリカの人口地図が塗り替えられる可能性もあるとまで言われています。

そんな彼らの祖国である中南米とかつての宗主国スペインとの間には、チョコレートを通して類似の文化を垣間見ることが出来 ます。中南米の中にはチョコレートは「飲みもの」として大きく根付いている国がありますが、スペインも同様にスーパーなどでは沢山の板チョコレートが陳列 されている一方で、街中では今でも飲むチョコレートや、それをチュロスにつけて頂く食べ方などが残っています。
バルセロナの旧市街、古い外観でひっそりと佇む喫茶店の中に足を踏み入れると、揚げたてのチュロスにチョコレートを付けて頬張る人々の姿が見られます。若 い人も、年配の人も、男性同士でもチュロス、チュロス、チュロス・・・。こちらでは飲み物にしてはかなり濃厚なチョコレートを、たっぷりとチュロスに付け て頂きます。チュロスが短くなるとチョコレートが指先に付いてしまうので、今度はその指をペロペロ。あるいはこの濃厚なチョコレートにホイップした生ク リームを添えて、美味しそうに飲んでいる姿も見られます。
最近ではお洒落なショコラトリーが増え少しずつチョコレートも様変わりしているスペインですが、それでも中南米からのカカオ伝来国として足元を支えているチョコレート文化は、今でも健在のようです。
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さて、スペインを後にしてフランスを訪れたときのことでした。例年より少し肌寒く感じる秋のパリは、既にサロン・ドュ・ショコラ(以下サロン)の時期を迎 えていました。昨年のサロンは大規模なストライキにより交通機関がストップして会場に来られなかったお客様が多かったせいか、今年は初日から賑やかな幕開 けとなりました。
私は例年通り、いつものスタンドで販売のお手伝いです。サロンの仕事の楽しみは、シェフ の皆さんやお客様とお話しをしたり、色々なお店のショコラがテイスティング出来る他、会場内で毎日行なわれるコンフェランス(セミナー)に足を運べること が挙げられます。今年は9月にエクアドルでお世話になったKAOKA社・ディベール社長のコンフェランスが4日目の11月1日に予定されていたので、会場 の後ろの方でこっそり聞いてみました。
フランスの祝日に当たる11月1日は丁度土曜日と重なったため、一時入場規制がかかるほど会場は込み合っていました。ディ ベール社長のコンフェランス開始時刻は夕方の17時。中央ステージで行われるサロン最大のイベント「チョコドレスのファッションショー」と同時刻開催で あったためコンフェランス出席者への影響を心配していたのですが、少し遅れて会場へ行ってみると僅かな席を残すのみで、多くの方がコンフェランスの開始を 待ちわびていました。開始時刻が過ぎているにもかかわらず、壇上ではディベール社長があれこれと準備の指示を出している最中でした。前日にアフリカの小島・サントメ島から帰ってきたというディベール社長は長旅の疲労を少しも見せず、むしろ会場の誰よりも元気な姿を見せていました。
KAOKAのディベール社長はカカオについて話し始めると時間も忘れるくらい熱く語られる方。もともと1時間しかないコンフェランスの時間枠で予定通りに 収まるか疑問なところに開始時刻の遅れ。これはきっと時間内には終わらないであろうというのが私の予想でした。しかもこの元気な様子では、話したいことが 胸の内に沢山詰まっているに違いありません。
予想は的中です。15分遅れのコンフェランスは、タイムキーパーが何度か目で合図を送っているにもかかわらず、なかなか終わる気配を見せません。結局15分以上延長したかたちでコンフェランスは終了しました。
でもその内容はとても充実したもの。ディベール社長の話しから始まり、この日のためにエクアドルから来たカカオ協同組合の方の話し、続いてKAOKAと協 同組合によるエクアドルでの活動が映像で紹介され、最後はテイスティング用のチョコレートが配られました。映像で流れるエクアドルの風景や農村の現状、社 会的問題や栽培上の問題などが出席者の印象に残ったのでしょうか、延長のコンフェランスを途中で退出する人は殆ど見当たらず、最後は盛大な拍手で幕を閉じ ました。
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コンフェランスにゲスト出演していたエクアドルのカカオ協同組合。これまでのコラムではKAOKAと生産農家についてお伝えして参りましたが、実際にはその間にカカオ生産の統括機関となるこの協同組合が存在します。
KAOKAのチョコレートになるカカオを栽培する農家は、エクアドル内でも1,700件以上にのぼります。1チョコレートメーカーであるKAOKAが単独 でそれらの農家一軒一軒に技術指導や、社会援助を行うことは非常に難しいこと。その役割を担っているのが協同組合UNOCACEです。
UNOCACE(ウノカセ:La Union de Organizaciones Campesinas Cacaoteras del Ecuador)は、17農村地域のエクアドルカカオ栽培農家によって構成されている連合組合を指します。例えるなら「農業協同組合」の中心が UNOCACEで、そのグループの中に、「各農村地域の農協」が組織されているようなイメージ。カカオ豆を生産する際には各農家で生産したカカオを生果肉 の状態で地域ごとにまとめ、各地域で醗酵や乾燥の集約加工を行います。それら各地域の生産品をUNOCACEの統括スタッフが中心となって管理するシステ ムです。
KAOKAとUNOCACEはそれぞれ独立していて、パートナーシップで結ばれている形をとって います。KAOKAはカカオ豆を輸入してチョコレートを製造するフランス企業、UNOCACEはそのカカオを栽培する生産者を取りまとめるエクアドル現地 組合。その2つが連携を図ることにより、初めてKAOKAが持つカカオ栽培の技術指導やKAOKA基金を通じた生活支援が、個々の組合農家に伝わるように なるのです。
UNOCACEの設立は1999年。それまで個々の農家が個別に行っていた栽培を集約して品質向上を目指したり、カカオ豆の輸出を行うなどカカオ農家の生産・生活支援の中核としての役割を目的としてつくられました。
もともとエクアドルはカカオ産業を国の基幹産業としていました。そのカカオ栽培農家が現在困窮していて生活支援を必要としている背景には、世界の歴史が大 きく関与しています。その最もたる要因が第一次世界大戦。それ以前のエクアドルのカカオ産業は国の輸出の半分以上を占めていましたが、戦争により輸出手段 を失い、取引の減少したカカオ産業は次第に衰退の道を辿るようになりました。カカオ農園は荒廃すると病気が蔓延することがよく言われますが、エクアドルの 場合も同様に病気により更なる被害を受けました。
そうし て加速度を増して衰退したカカオ産業とその生産者を支援する目的でUNOCACEは設立されました。エクアドル内22県のうち5県17組合の連合で組織さ れ、その管理耕地面積は5,000ha以上にのぼります。まだ設立10年にも満たない組合ですが、現在も上記の5県の他に地域組合を設立するなど組合員数 は拡大の傾向にあるそうです。
UNOCACEで生産するカカオは栽培に手間がかかるナシオナル種の有機(オーガニック)カカオ。Vol.38でご説明した改良品種のような高い収量を確保するにはまだまだ改善が必要です。それでも組合員が増えている背景には、これまで述べたように栽培技術支援や、社会援助などが受けられ、将来への保証が整ってきていることにあるようです。
UNOCACEにはカカオの品質や栽培を管理・指導するエキスパートが常駐していて、彼らが常に様々な指導やチェックを行います。こうしてより濃密に、し かも現地在住のエキスパートが気候などの諸環境を考慮しながら指導を行うので、些細な変化も見逃すことなく栽培全体を統括することが可能となります。
例えば品質管理責任者のロサさんは17の地域組合で栽培されるカカオの個性を、その舌で全て把握しています。同じ国でもエ クアドルのように標高の高低差、沿岸部寒流の影響による気候条件、土壌差、ナシオナルの兄弟差などがある国では、生育するカカオの味わいは地域ごと微妙に 異なります。
例えば実際にカカオ豆を口にしてみると、ある地域のカカオ豆は酸味・渋味が強く香りはフルーティーな印象がほんのりといった感じなのですが、他の地域のものは軽やかな味わいで渋味が少なく、花のようなフローラルさが際立って感じられるといった差があるのです。
ロサさんや同じ品質管理のアレックスさんは、こういった各地域のカカオが安定した香味で生産されているか、醗酵や乾燥工程が適切であるかなど、栽培に連動 した細かな品質のチェックを行っています。私が地域組合で乾燥中のカカオ豆を見ていたとき、隣にやって来たロサさんはそれを触っただけで乾燥が何日目か、 どんな醗酵過程を経たのかを言い当てていました。乾燥中のカカオ豆の香り、湿り具合、色。そういった条件だけでその地域のカカオ豆の状態を把握出来るそう です。
カカオの世界では農薬を使用せず良質なカカオを栽培していても、醗酵や乾燥工程が正しく行われない が故にその価値を落としてしまっているものは沢山有ります。それはカカオの栽培知識に乏しい農家が個人レベルで醗酵や乾燥を行っていたり、カカオ豆を購入 する市場が高品質なものを求める市場だけでなく未醗酵豆も「カカオ豆」と十把一絡げでまとめてしまう市場が存在するからです。エクアドルの一般市場とて例 外ではありません。
そういった品質管理を担うスペシャリストが常に目を凝らしているということが、生産者へは安心、チョコレート製造者へは信頼に繋がります。こうした現地活動があって初めて最終製品であるチョコレートの安定化や向上が保たれているのです。
ロサさんやアレックスさんの他に地域組合の統括を図るセザールさん、接木用カカオ栽培を管理するビタリアーノさんなど、実 に様々な分野のスペシャリストがUNOCACE内の各ポジションに配置されています。常にカカオに対して全力投球する彼らの働きは、いつの間にか単なる栽 培や生活支援だけでなく、父系家長制度の中で閉じこもっていたエクアドル女性に新たな生き方を標したり、農家の人々に生きる喜びをもたらしたりと、生産者 の人生にスパイスを振りかけるところまでに及んでいるようです。
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さて先ほどお話ししたように、UNOCACEに加盟する17の地域組合ではそれぞれ地域の生産者がカカオ豆を生果肉の状態で各地域の集中加工場に持ち込み ます。エクアドルの一般市場でのカカオ豆取引は、生の果肉と種を生産者が各自醗酵・乾燥をさせた状態で行われます。つまり収穫後乾燥したカカオ豆を取引す るまでの期間、農家には現金としての収入が無いことを意味します。
ところがUNOCACEの場合は、以前 お話ししたドミニカ共和国のCONACADO同様、生カカオ豆を加工場に持ち込んだ時点で組合が購入するので、カカオを収穫して中の果肉と種を取り出した ら24時間以内の短い時間で現金へ換金することが可能となります。しかも取引価格は一般市場より高い設定。
組合で買い取られたフレッシュなカカオ果肉と種は、各組合が保有する加工場にてまとめて醗酵、乾燥の加工が行われます。醗酵日数や乾燥方法は地域により気 候や諸条件が様々なので、それぞれ一律の方法ではなく微調整された手法が施されます。集中加工のメリットはカカオ生産者だけでなく、KAOKA側にも享受 されます。個々に行っていた作業を集約することで品質の安定化が図りやすくなるからです。
ちなみにカカオの醗酵は糖分がアルコール醗酵を経て酢酸醗酵へと移るため、どの組合に足を運んでも到着するや否や、風に乗ってツンとした醗酵カカオ独特のビネガーの匂いが鼻を刺激します。
こうやって各地域で加工されたカカオ豆はUNOCACEの集荷場に集められます。各地域からやってくる袋にはどの地域でいつ生産されたカカオ豆なのか全 て印が付けられているので、カカオ豆がヨーロッパへ出荷された後も生産日や生産組合がきちんとトレースできる仕組みになっています。

集められたカカオ豆は、乾燥時に双子などになっていないか、袋の中にごみが入っていないかなどの外観チェック、それからロサ さんとアレックスさんによる風味検査や醗酵・乾燥の検査を受けた後、合格品が出荷用コンテナへと荷積みされます。約69kgのカカオ豆袋は一つひとつ人手 で積んでいく作業。腰と首を痛めないようにサポーターを巻いた男性が、背中にカカオ袋を背負って細い板の上をコンテナの中へと運んでいきます。首を痛めな いだろうか、細い搬送板から落ちて怪我をしないだろうかと心配に思っても、こればかりは機械化出来ない作業。人海戦術でコンテナ一杯に並べたら、ヨーロッ パへ旅立つためにいよいよ港へと向かいます。
余談ですがこの集荷場では、天井に“フェロモントラップ”が仕掛けられていました。農薬を使用しない有機栽培のカカオ豆はメイガなど害虫の格好の好物。放っておくとすぐ虫が付いてしまいます。そこでこういった害虫をカカオ豆から放れた場所におびき寄せるために仕掛けられるのが“フェロモントラップ”。害虫のオスのフェロモン香を付けたものを天 井から吊るしておくのです。こうすることで農薬などを散布することなく、害虫の被害からカカオ豆を防ぐことが可能となります。有機栽培では栽培中のカカオ に農薬を使用しないのは当然のこと、保管中のカカオ豆を無農薬で守ることも重要な作業なのです。
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これまでお伝えしてきたことが、私がエクアドルで学んだKAOKA社チョコレートの背景です。エクアドルで伝統的なナシオナル種を有機栽培する難しさ、常 に生産者の生活と背中合わせの問題。そういったものをパートナーであるUNOCACEとの信頼とサポートで乗り越えて、初めてこのフェアトレード・オーガ ニックチョコレートは生まれます。
言い換えればこのチョコレートはカカオ生産者、UNOCACE、KAOKAの連携が一つになった結晶。それを口にするときは「美味しい」の言葉だけでなく、カカオ生産者と連携を支える全ての人にエールも届けたいものです。2008/11/30
*KAOKA(仏語/英語)http://www.kaoka.fr/cadre256.php
*サンエイト貿易株式会社(KAOKA社チョコレート輸入代理店)http://www.sun-eight.com/






