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可可豆見聞録

Vol. 39 エクアドル KAOKAのカカオを訪ねて 22008/10/31

夏の間勢いよく育っていた我が家のカカオは、10月に入ってから冷たい秋雨に打たれたせいで少しずつ落葉し始めました。

 

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 ご存知の通りカカオは熱帯の植物。適切とされる生育環境には高い気温と適度な降雨が必要と言われますが、豪雨や季節外れの多雨、あるいは気温が低くなると生育が遅くなり、雨による落花が重なると結実率まで悪くなることがあります。


 丁度数ヶ月前にグアテマラのカカオ生産地域・キリグアに住む友人・真幸さんからも、今年は雨が多く冷夏なのでご近所のカカオも実成りが少ない、という便 りが届きました。カカオが黒くなる病気(ブラックポッド)も多いとのこと。メキシコの知人も同じようなことを口にしていました。

 

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 2007年から今年の春にかけて「ラ・ニーニャ現象」が続きました。「ラ・ニーニャ」は太平洋赤道海域の表面温度が東部のペルー沖で平年より低くなり、 西部のフィリピン付近で高くなる現象。「ラ・ニーニャ」が発生すると東部に位置するペルー沖の降雨量が減ることが多く気温も低くなりがちですが、東南アジ ア・大西洋側では反対に雨の多い現象が起こると言われています。ところがそういった気象の法則とは無縁であるかのように、今年は中南米でも大雨による被害 が随分と見られました。

 

 そしてその気象バランスの変化は、前回お話し申し上げたエクアドルにも大きな影を落としていました。 私が訪れた時期は本来ならばカカオ収穫の最盛時期の始め。色とりどりのカカオが畑を彩り、朝は早くからカカオの実を割る作業に追われる時期のはず。ところ が今年は春先の雨によりカカオの花が落ちたことと連日気温が低いことが影響し、少ない収量でのシーズンの幕開けになったそうです。どこに行っても農家の皆 さんが一様に口にした言葉は「今年は雨が多くてね・・・」。少し寂しそうな顔をしながら、そう話しを切り出しました。


  カカオは農産物。他の野菜や果物と同じように、自然現象による収穫量のバラつきは避けられません。豊作の年もあればその逆もあります。そういったリスクが あることは当然のことなのですが、もともと収穫量の少ない「ナシオナル」種のカカオを育てているエクアドルのカカオ生産者にとって、不運にも減収が重なる ことは生活への大きなダメージへと繋がります。


 前回のコラムでお話しした通り、生産現場のカカオ農家にはKAOKA基金を通じて栽培や教育など様々な援助がなされています。多岐に渡りケアが行なわれているのですが、残念ながら人間の力では太刀打ち出来ない自然現象による減収保障まではサポートすることが難しいそうです。


  KAOKA社のディベール社長によれば、気持ちとしては減収保障までサポートしてあげたいけれども、毎年どうなるか予測の出来ない収穫量への保障を農家す べてに行ってしまうと、限られた時間と予算の中でもっと先の将来のために「今」行っている改善計画の足場が揺らいでしまうと言うのです。つまり、 KAOKA基金を通じて取り組む最優先事項は、「未来のための今」を作ることなのであると。

 

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 確かにカカオ農業そのものの将来が明るくなければ、農家は跡を継ぐものがいなくなってしまいます。事実一部のカカオ生産国 では生産者の高齢化が進んでいます。カカオ栽培は都市部からは離れた農村で行なわれることが多いため、田舎暮らしを余儀なくされます。日本もそうですが、 より多くの収入や刺激を求める若者は農村部から都会に行ってしまいがち。ここエクアドルもその問題に直面していて、大都市グアヤキルやスペインに若い人た ちが出て行ってしまうことが現実に起こっているそうです。


 自分達の子供に畑を継いで欲しいと思っていても、安定した将来が見えないことにはその思いを伝えることが難しいと、多くの農家がそのことを口にしていました。きっと今のままでは、子供達自身もカカオ農業に魅力を見出せないのだと思います。


■ ■ ■


 では「カカオ栽培の明るい未来」のために何を改善するべきでしょうか?


  農家が生産したカカオ豆の買い取り価格が、ある程度国際相場に連動していることはKAOKAといえども否めません。相場が下がり始めると合わせるように農 家の収入も連動しますから、まずはそういった状況の中でも豊かで潤いのある生活が送れるように、農家1件当たりのカカオ収量を上げ、収入全体を増やすこと に取り組まなくてはなりません。


 エクアドルの一般市場ではカカオ豆売買は出来高制で取引されています。作ったカカオ豆の“量”そのものが収入にそのまま反映するのです。前回ご説明申し上げたように、その現状が華やかな香りの「ナシオナル」の栽培からより生産性の高い改良品種「CCN51」へと農家の栽培意識を駆り立てる引き金となっています。


  しかしKAOKA社のチョコレートで使用するエクアドルのカカオ豆は100%「ナシオナル」。多くの農家が栽培を切り替えている「CCN51」と混成栽培 をすることは出来ません。同じようにカカオを育てても、実を付ける数の少ないカカオを農家は栽培しなければなりません。


 その「ナシオナル」を育てながら「CCN51」に引けを取らない収量確保を行うために、現在KAOKAでは3つの活動を柱とする「農地改善」を行っています。その1つは「農園の修復」。“農園のリハビリ作戦”と言っても過言ではない、大規模な修復を実行しています。


  カカオは樹齢100年くらいまでは生きることの出来る木です。ところが人間と同じで、実を付けるピークは若い頃から熟年期まで。その後60歳、70歳にな ると次第に実が成らなくなり、収量が減ってしまいます。ですからせっかくカカオ畑を作って苗木を植えてもそのまま放って置くだけだと、3世代目の畑主の頃 には痩せ細ったカカオ畑になってしまいます。KAOKAの伝統的な「ナシオナル」を育てている畑にはこういった“おばあちゃんカカオ”が多いようで、中に は“枯れ病”に掛かってしまっているものも見られました。

 

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 そこで行われるのが“リハビリ”ならぬ「接木」。病気などに耐えぬいてきた古いカカオの根は残し、別の「ナシオナル」の若い枝をこのカカオの木に接いで いくのです。こうすることで大地にしっかりとした根を残しつつ、実を付ける幹や枝は若いものへと代えてゆくことが出来るようになります。「古い木」と「新 しい枝」の接木メリットは、新しい苗木を育てるよりも早く実を収穫すること可能になることと、同じ木の根で再び沢山のカカオを収穫することが出来るように なることです。

 

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 「農地改革」の2つめは、“新しいカカオ畑作戦”。先に“カカオ畑のリバビリ”によるカカオ収量の増加を図る方法をご紹介 しましたが、今度は新しいカカオの苗を育てて新たな畑に植えていく方法です。病気に弱いカカオの木などは一度畑を作り直し、また1から新しいカカオの苗を 植え替えたりもします。こうやって農地を拡大していくことで最初の結実までは少し時間がかかりますが、その後は収量も増やしていくことが可能になります。


 苗木を作る際には“リハビリ作戦”と同じく「接木」の技術を利用するのですが、今度は発芽して育った苗に香りの良いカカオの芽を接いでいきます。


  前回もお話しした通り「ナシオナル」には沢山の兄弟がいて、それらは「成長の早いナシオナル」、「香りが良いナシオナル」など様々な個性に分かれます。接 木は2つの異なる性質の「ナシオナル」を組み合わせることが出来るので、例を挙げれば根には病気に強い「タフなナシオナル」を、実の成る幹や枝には「香り の良いナシオナル」を組み合わせるなど、苗木の特徴をコントロールすることが可能になります。


 ここでちょっと農業的な質問をいたしましょう。


 “古いカカオの木”に“新しいカカオの枝”を接いだとき、最終的に収穫されるカカオ実はどんな風になるでしょうか?


 答えは“新しいカカオ”の性質を持つようになります。
“古いカカオの花”と“新しいカカオの花”を掛け合わせて新たなカカオの実を作ると、2つの遺伝子を持ち合わせた“新たなカカオ”が誕生しますが、異なる 性質の「枝」同士を接いだ場合は、2つの性質が混ざり合うことなくそれぞれが成長していきます。ジャガイモとトマトを接いで育てると、地中ではジャガイ モ、地上ではトマトがそれぞれ収穫出来ることと同じに考えて頂くとわかりやすいでしょうか。


  ですから“接ぐ側”のカカオを常に同じ品種に絞り込むと、「接木」によってカカオの実に一定の統一性を持たせることが出来るようになります。言い換えれ ば、隣近所同士のカカオの実がどれも“そっくりさん”になるということです。統一性のあるカカオ豆が沢山収穫出来ると言うことは、最終的なチョコレートを 作る上で品質安定の効果が期待できるようになります。

 

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 “リハビリ作戦”と“新しいカカオ畑作戦”の大きな違いは、苗木をつくるところから始めるか否かということ。苗木作りは苗 木用の小さなカップにカカオの種を植え、発芽させるところから作業が始まります。苗木に接木をすることで発芽しただけのカカオの木を植えるよりも、より目 的に合ったカカオを栽培することが出来るようになりますし、順調に育っている苗木をピックアップして絞り込めるため、各々の畑に見合った元気なカカオを選 りすぐって植えることが可能となります。


 実際に“リハビリタイプ”と“苗木タイプ”の2種類の接木作業を 見させてもらいましたが、このテクニック習得までには実に3年のトレーニングが必要なのだそうです。作業が出来るようにトレーニングするだけでなく、より 確実な接木が出来る人を育てることが重要なのだと。接木を行ってから成功しているか否かを判別出来るまでに3週間かかるので、もしも技術不足で接木を行っ てしまうと失敗の確立が高くなるだけでなく、大きな時間のロスにも繋がってしまうからです。


  さて最後の3つ目は、先程から「接木」でお話し申し上げているナシオナルの「性質改善」です。先述の通り「ナシオナル」と一口に言っても、沢山の兄弟達が います。それぞれの異なる特徴をつなぎ合わせていくことによって、地域の土壌に合わせた目的のタイプに調整することが出来るようになります。接木のご説明 では各々の性質をもったナシオナルを接ぎ合わせるとお話しいたしましたが、ここにたどり着くまでには時間と研究を一歩ずつ重ねて、結果を検証していかねば なりません。そういった積み重ねの結果、各々のナショナルの特徴を見出して古いカカオの木や新しい苗木に継いでいくことが出来るようになり、病気による生 産量減少のリスクを軽減しながら香りや味わいの良いカカオを増やすことが出来るようになるのです。


 ここまでの高度な研究は、普通のチョコレート会社ではなかなか出来ないこと。KAOKAの社長自らがカカオの専門家であり、並々ならぬ熱意を持っているからこそ現実に進んでいる道であることは間違いありません。


■ ■ ■


 他にも苗木を購入する際の価格の優遇など、将来のために行なわれている活動はまだまだ沢山挙げられます。こういった取り組みが少しずつ農家の生活に変化をもたらしているようです。ある農家の方はこんなことを言っていました。

 

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 “それまで自分達は現金収入が少なく、子供が病気にかかっても医者に連れて行く車も、飲ませる薬も有りませんでした。でも 今のように収入が増えてコミュニティー全体が潤うようになってから、この地域に女医を呼ぶことが出来るようになり、必要な薬も手に入るようになりました。 ”と。


 一般のカカオ栽培からKAOKAのチョコレートとなるカカオに栽培を切り替えたからと言って、ある日突然生活水準が上がるわけでは有りません。足元の問題を少しずつ改善することによって、生活も変わってゆくのです。


 どこの国でもカカオを作っている人たちは、彼らだけでは解決出来ない問題が山積みです。伝統的な「ナシオナル」を作り続けると同時に、そういったことに耳を傾け、手を差し伸べ、一緒に解決と向上を図ることがKAOKAの作り上げているフェアトレードなのでしょう。


 賛同していく農家とKAOKA社との距離は、各地域で組織された組合によってそれぞれまとめられています。次回は組合の活動を含め、カカオ豆が航海に出るまでをご紹介したいと思います。

2008/10/31

*KAOKA(仏語/英語)http://www.kaoka.fr/cadre256.php
*サンエイト貿易株式会社(KAOKA社チョコレート輸入代理店)http://www.sun-eight.com/

 
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