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可可豆見聞録

Vol. 38 エクアドル KAOKAのカカオを訪ねて 12008/09/29

ひと夏を越え秋の気配が聞こえて来ると、チョコレートの世界は模様替えの時期を迎えます。専門店でもコンビニでも店頭では少しずつ秋の新顔が出始め、 ショーケースや商品棚が賑わい始めます。

 

舞台裏ではクリスマスやバレンタインの商品企画が詰めを迎える頃。私も今年は早々にこういったイベント用のチョコレート試作を行っているのですが、通常その試作品毎に合うチョコレートを様々なブランドからセレクトします。


 このところ良く使用しているのが富澤商店オンラインショップでも取り扱いのある「フランス・KAOKA社」のチョコレート。皆様はお試しになったことがありますでしょうか?先日もラ・フルティエのフランボワーズ(ラズベリー)ピューレと32%&61%のチョコレートを組み合わせて、ボンボンショコラを作ったばかりです。


 KAOKA社のチョコレートが他のチョコレートと異なるのは特徴的な香味の他に、このチョコレートが「オーガニック(有機栽培)」で「フェアトレード」であること。
 「フェアトレード」については既にコラムVol.32やコラムVol.36でお話申し上げましたが、KAOKA社の場合単にカカオ豆の購入の際にフェアトレードで取引するだけで無く、独自の基金(KAOKA基金)を設立し、更に一歩カカオ生産者の将来のために様々な活動を行っていることが他のフェアトレードと大きく異なります。

 

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 まだ夏の匂いを残した9月初旬、私のもとにKAOKA社のチョコレートのもととなる、エクアドルカカオに会える機会が訪れ ました。エクアドルでのKAOKA社の活動を拝見させて頂けると言うのです。そんな機会は滅多に無いし、エクアドル自体一度は行って見たいと10年以上思 いを溜めていた国。早速仕事のスケジュールを一挙に変更し、フライトチケットを手配して南米「エクアドル」へと飛んで行きました。


 と言うことで、エクアドルのアロマティックなカカオを、KAOKA社の活動やエクアドルでのカカオ生産の現状を交えてお届けしたいと思います。
 まず第1弾は“エクアドルカカオの栽培状況”についてお話し致しましょう。


■ ■ ■


 さて、「エクアドル」と言って皆さんが思い浮かぶものは何でしょうか?

  • A1. ゾウガメのいる“ガラパゴス諸島”   (“大きな海亀の島々”という意味)
  • A2. 世界第4位の生産量を誇るエクアドルバナナ

 

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 日本ではまだまだ知名度の低いエクアドル。仮に知っている方がいらっしゃったとしても、上の2つのうちどちらかでお答えになる方が大半ではないでしょうか。ここでもし「カカオ」とお答えになる方がいらっしゃったら、なかなかのチョコレート通とお見受けします。


 前回のコラムVol.37でもお話ししたとおり、日本のチョコレートにおいてエクアドルのカカオ豆はガーナに続く重要なポジションを占めています。華やかで類稀な香りを持つエクアドルのカカオ豆は「フレーバービーンズ」と称され、日本だけでなく世界の様々な国でチョコレート作りに使われています。


  特徴的なのはエクアドルで古くから栽培されている「ナシオナル」種が持つジャスミンやオレンジの花、バラやブーケを思わせるようなフローラルな香り。スッ キリとした果実の香りも持ち合わせることが多く、様々なチョコレートの香り付けに用いられたり、単独でアロマティックチョコレートに仕立てられたりしま す。

 

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 この「ナシオナル」は、国内を流れる川の上流で栽培されていたことに由来して「ARRIBA:アリバ(スペイン語で“上で ”)」という別の呼び名を持つようになりました。チョコレート界では「ナシオナル」と呼ばれたり「アリバ」と呼ばれたり様々。アマゾン周辺で生まれたカカ オのご親戚で、ツルンとした外観と熟すと黄色くなるのが特徴です。


 「赤道」を意味する国名を持つエクアド ルは、その名の通り首都キトの付近を赤道が横切ります。本州と九州を合わせた程度しかない小さな国土ながら、バナナの生産量は世界第4位。国土の中央を縦 に走るアンデス山脈から流れ出す多数の川や、湿った海風が雨となって土壌を潤すため、太平洋側に広がる海岸平野(ラ・コスタ)は肥沃な大地を有していま す。カカオ豆の生産量は世界第7位の12万トン(2006/2007世界生産量の約3.6%)で、バナナ同様この海側の地域でカカオが栽培されています。


  エクアドル政府もカカオの生産・輸出に力を注いでいるのか、大都市グアヤキルの国際空港では入国審査所の頭上に輸出農産物の“カカオ・バナナ・バラ”の大 パネルが掲げられていました。それはまるで成田空港で大きな富士山のパネルが諸外国のツーリストを迎えるような印象です。

 

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 出口付近では“カカオ農民”の特大木彫りがツーリストを出迎え、空港出口をくぐり抜けると今度はお迎えスペースで、大型ス クリーンによるエクアドルカカオのプロモーション映像が目に飛び込んできます。カカオの栽培風景、歴史、チョコレートになるまでetc…。様々なカカオの 生産地を旅しましたが、こんなにカカオのプロモーションに力を入れている国は初めて。“カカオの国へようこそ!! ”と宣伝したいエクアドルの“気合い”が、ひしひしと伝わってくるようです。


 確かにカカオ栽培が盛んな様子は、グアヤキルの町を少し離れるだけで日常的に目にすることが出来ます。太平洋側のラ・コスタ(海岸)地域の道路を走るとバナナやサトウキビに負けないくらい、平坦な大地にポコポコと植えられているカカオの木がいつも視界に入ってきます。


■ ■ ■


 以前からお話ししている通り、世界のカカオ生産の多くは小農家が支えています。彼らの大半のカカオは自家醗酵と乾燥の工程を経た後、仲買人によって買い取られます。このとき買い取られるカカオ豆の価格は前回のコラムVol.37でお話しした国際相場に連動していますので、農家が自分でカカオ豆の値決めをすることは通常ありません。各農家から買い集められたカカオ豆はその後輸出業者のもとへ運ばれ、乾燥の調整やサイズの選別、検査を経た後、各国へと輸出されます。


 例えばコラムVol.36で お話ししたドミニカ共和国の“コナカド”のような組合組織であれば、その活動の中に「農民の地位向上と自立を図る」ためのカカオ生産技術の指導や補助が含 まれます。カカオ豆生産の集中管理・流通管理なども含めた、より良いカカオ豆を生産するためのサポートを全ての組合農家が享受出来るのですが、こういった カカオ組合は世界のカカオ生産全体から見ると非常に少なく、前者のような小農家が仲買所を介してカカオ豆の売買を行っていることの方が一般的です。

 

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 仲買所で売買されるカカオ豆は、簡易な醗酵とアスファルトの地熱を利用した乾燥で済まされてしまうことがあります。それは フレーバービーンズを生産するエクアドルでも同じこと。チョコレートの味作りはカカオの品種や栽培環境の他に、この醗酵や乾燥が大きく起因します。しかし カカオ生産者の多くは、高品質で香りを持つチョコレートとそうでないチョコレートの差を知る機会が殆ど無いため、その重要性を知る術が非常に少ないのが現 状です。仮に醗酵や乾燥に注意を払い手間をかけてカカオ豆を生産しても、仲買所での取引ではその買い取り価格に大きな差が出ないのです。


 また近年エクアドルのカカオ農家では、古くから栽培されているアロマティックな香りのカカオ「ナシオナル」の栽培から、低木で生産性が改良された品種「CCN51」の栽培に切り替える動きが見られます。

 

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 沢山カカオの実を付け、手入れが容易。木を植えてから最初の実を付けるまでの期間が短く、成木の背丈が低いので収穫し易い ことがこの「CCN51」の最大の特徴。しかも仲買所での買い取り価格は「ナシオナル」と差異がありません。古くから栽培されている「ナシオナル」と新た な改良品種「CCN51」。この2つの品種を栽培の観点から比較すると、農家にとってどちらの方が有益かは一目瞭然です。そういった特徴を持ち合わせる改 良品種「CCN51」が現在、エクアドルのカカオ栽培状況を塗り替える大きなポイントとなっているのです。


  「ナシオナル」と「CCN51」は栽培の違いの他に、実際に生果実の香りや味わいも異なります。前者は花のように華やかで、蜜のようなコクがあり、旬を迎 え熟した黄色い果実のような酸味と甘さがあります。一方後者は継承する血筋のせいか、柑橘の絞りたて果汁のような香りが特徴で、口に含んだとたん“酸味” が舌の上に広がります。


 結果的にそれぞれの果肉を醗酵さ せたカカオ豆でチョコレートを作ると、その香味に明確な違いが現れてくるのです。カカオ豆の醗酵方法や砂糖とのバランスによって作り出される香味の違いは ありますが、「ナシオナル」の方が“ジャスミン”や“オレンジの花”のような華やかなアロマが特徴的に出て、後から果実のようなフルーティーな香味が現れ ます。


 「CCN51」が決して悪いカカオ豆というわけでなく、このカカオはカカオバターを多く含むため、 焙煎後に絞ってカカオバターを搾油するのに適する用途があります。様々な醗酵方法も研究され、華やかで甘いアロマを作り出すことも可能とされていますが、 チョコレートに使用することを横並びで比較すると、「ナシオナル」の特徴的なアロマを推奨する人の方が多いことは事実なのです。


  かく言う私もその一人。昔からあるカカオを伝統的に継承栽培することは大切ですし、「ナシオナル」で作るチョコレートの香りは他に類が無いと感じていま す。甘さと華やかさが交わる、官能的で女性的な香り。本物の「ナシオナル」は、一度食べたら虜になる香りを持っているのです。


  「ナシオナル」は、チョコレートを作る人たちから見ると“香り”という大きなプラス点を持っていますが、剪定に手間が掛かり、怠ると背丈の高い木に成長し てしまい実の収穫が困難になる点や、生産性が「CCN51」と比べて低いことなどが生産者から見たマイナス点として挙げられます。その結果現在のエクアド ルでは「ナシオナル」より「CCN51」を好んで栽培する農家が増えつつあり、また2つの種を隣接して植えることによって自然交配が引き起こる可能性も高 くなってきています。


 ではエクアドルでのカカオ栽培がそういった状況にあるのであれば、この「ナシオナ ル」を他の国にも移植して栽培範囲を拡大したら良いのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。ところがチョコレートにおけるカカオは、ワインにおけ るブドウと同じであると想像してみて下さい。一度その土地を離れたら同じ性格を持つことは難しいのです。


  一口に「ナシオナル」と言っても、ある地域内の1品種のぶどうが畑ごとに香味が異なるように、「ナシオナル」も地域内差によって違いがあります。“ナシオ ナル兄弟”も沢山いますから、どの“ナシオナル”が、どの“地域”の、どの“畑”に植えられているかによって香味に細かな違いが生じてきます。


 ですからカカオからチョコレートを作る人達が「ナシオナル」のカカオを使って、“こんな香味を持つ最高のチョコレートを作りたい・・・”とイメージしたら、

  1. 地域の栽培環境に合わせた適切な「ナシオナル」のカカオを育てる。
  2. カカオと気候に合わせた醗酵・乾燥を行う。
  3. 栽培状況をきちんと把握する。

ことが重要になります。チョコレートを作る人達がカカオの品種まで掘り下がって、その栽培をコントロールすることはとても難しいこと。時間と資金の他に、沢山の負荷がかかります。

 

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 ここでお話をKAOKA社に戻しましょう。彼らのチョコレートは仲買所で取引されたカカオ豆を使用するのではなく、カカオ 生産者と直接のパートナーシップの元で育てられたカカオ豆だけを使用しています。今回初めて知ることになったのですが、エクアドルでのKAOKA社の活動 範囲はフェアトレードにおけるカカオ生産者の地位向上を図ることから始まり、カカオ栽培の技術援助、生産量が減少している「ナシオナル」の栽培保護やリハ ビリと言ったカカオ栽培の根底にまで及んでいます。


 KAOKA社では香り高き「ナシオナル」を生産者とと もに作り出す代わりに、少ない生産量を増やすための技術指導や援助、苗床の設置、「ナシオナル」兄弟同士の品種改良の研究など、KAOKA基金を活用して 様々な活動を行っています。単なる取引上のフェアトレードだけでなく、より生産に密着してカカオ豆の“収量増加”と“品質向上”も同時に行っていること が、KAOKA社のチョコレートが他のフェアトレードチョコと大きく異なる特徴なのです。


 良いものを作り、収量を上げる努力が無ければ“継続維持”は成し得ない。“継続維持”なくしてカカオ生産者の“地位向上”と“明るい将来”は有り得ない。そんなメッセージが彼らのチョコレートには詰まっているのでしょう。


■ ■ ■


  カカオ生産国とチョコレート生産国の離れた距離、思想の違い、それぞれの現実、様々な障壁の中で結んでいくパートナーシップは、本当は単に「フェアトレー ド」という言葉だけで括れないのかもしれません。KAOKA社の「フェアトレード」を含め、これまでご紹介してきた「フェアトレード」はそれぞれに持って いる性質が異なるのです。言い換えれば「フェアトレード」という言葉は余りにも大きな範囲を表わし過ぎていて、その中身を細分化して初めて見えてくる現実 が、一見では霞んでしまっているように思えてしまうのです。


 次回はそんな霞の中にいるカカオ生産者たちと、彼らが直面している問題やKAOKAならではの解決策をクローズアップしてお届けいたします。

2008/09/29


*KAOKA(仏語/英語)http://www.kaoka.fr/cadre256.php
*サンエイト貿易株式会社(KAOKA社チョコレート輸入代理店)http://www.sun-eight.com/
 
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