- Vol. 35 アクアマリンの海風 カリブ・ドミニカ共和国12008/06/27
皆様にカカオの新芽についてご紹介してから2ヶ月。あのときのカカオは、恵みの雨と梅雨の晴れ間の日差しに照らされて、すっかり大きくなりました。

周りの他の芽も成長し、平均で5cmくらいは伸びたでしょうか。大きくなった葉が手を広げ、今日も梅雨の雫を受け止めていま す。とても順調に育っていますと言いたいところですが、今年は何故だか例年になく害虫の被害も多く、葉の裏にへばり付いている小さな虫にせっかくの葉を食 べられてばかりです。
通常のカカオ栽培では、熱帯の強い太陽光からカカオの葉が含む水分の蒸散を防いだり、小さな虫(小蝿など)によりカカオの花の受粉を促すために、カカオ の木を大きな陰木の下で育てたり、あるいはカカオ同士を隣接して植えて、重なり合う葉で陰を作ったりと、暗く湿った環境下で育てることが大半です。
そういった環境下ではカカオ栽培に有益な虫の他に、カカオに害を与える虫やカビ・菌の被害に遭うこともあり、また雨によりカビや菌による病気が広がることも多々起こります。
きちんと醗酵・乾燥を行ってから出荷されるカカオ豆は商品となるまで時間のかかるもの。花が咲いて、収穫できる実になるまでに約半年、さらに中の果肉と 種を取り出し、醗酵・乾燥の過程を経てから出荷用の袋に詰めるわけですから、実の収穫から換金出来る状態にするまで随分と長い時間を要します。
農民の中には換金作物としてカカオを育てている人々が多く存在します。カカオは大切な現金収入源ですから、出来るだけ病気や害虫による被害を避け、収量 を上げようと農薬や化学肥料を使うことはしばしばあります。こういったものが経済的に購入できないほど困窮している農民もいますが、一度魔法の化学物を手 にすると、使用していなかった頃に戻れないと感じる農民も少なくないようです。
野菜などの生鮮食品市場では、野菜や果物の無農薬、有機産品を見かけることが多々あります。それは手間が かかっても自然の摂理に準じた農業を志す生産者の存在と、安心・安全を求める市場からの要求があるからです。こういった意識の高まりの背景には、日本なら ば70年代~80年代にかけて見られた残留農薬やポストハーベスト問題への反動が例として挙げられ、その高まりは未だ衰える気配は無いように感じます。
カカオの世界も同じです。このところ欧米市場から有機栽培への需要や関心が高まり、その結果供給量も増えてきました。そんな有機のカカオ豆を最も栽培している国、ドミニカ共和国のお話を今回はお届けいたします。
■ ■ ■もし私がこの仕事をしていなければ、ドミニカ共和国には“野球”のイメージしかなかったかもしれません。ドミニカ共和国と言えば、2006年に日本が優勝したワールドベースボールクラシックでキューバとセミファイナルを戦った実力国。
中南米の中でも米メジャーリーグに多くの選手を輩出している国の一つで、スーパースターの“サミー・ソー サ”選手と言えばご存知の方も多いはず。N.Y.ヤンキース松井選手のチームメイト、メルキー・カブレラ選手もドミニカ共和国出身。日本の野球界でも今か ら12年前に読売ジャイアンツに在籍していたガルベス投手、3年前に中日ドラゴンズに在籍していたマルティネス投手、現在楽天ゴールデンイーグルスで活躍 中のフェルナンデス内野手と、数えだすと次々とドミニカ共和国からの助っ人選手の名前が挙がります。
「メジャーリーグのゆりかご」とも言われるドミニカ共和国ですが、実は今「オーガニックカカオのゆりかご」とも言える存在にまで急成長しています。それは、この国の肥沃な土壌と、有機栽培に適した環境、そしてその栽培を支える体制が大きく起因しています。
ドミニカ共和国へ旅立ったのは、2ヶ月前のこと。丁度日本がゴールデンウィークに入るときに、一度グアテマラに立ち寄り、南下して中南米の中継基地パナマを経由し、カリブ海半周の後ドミニカ共和国へ到着しました。
ドミニカ共和国はアメリカ合衆国の南、カリブ海・大アンティル諸島に属するヒスパニョーラ島の東側2/3を保有する国。西側には元フランス領のハイチが位 置するのですが、この国土配置は長い歴史の中でドミニカ共和国がスペインの領土になったり、フランスの領土になったり、はたまた隣国ハイチの支配を受けた りを繰り返してきた結果です。

首都サント・ドミンゴはカリブの島々の中でも歴史が深く息づく町。1492年に大航海中だったコロンブスがこの島に到着した 後、新大陸初のスペイン植民地となったヒスパニョーラ島には、カリブ航海の基点となる町が新たに作られました。これが現在の首都、サント・ドミンゴです。 様々な国の支配下に置かれたドミニカ共和国ですが、サント・ドミンゴは現在も新大陸最古の都市として残っています。
サント・ドミンゴ旧市街地のランドマーク、コロンブス公園の中央には、新大陸を指差す由々しきコロンブス像が建てられています。ピンと張った背筋、夢の新 大陸を指し示す指先には・・・“希望の光”ではなく一羽の鳥。これではまるで“鳥飼いコロンブス”のようです。この公園には現在沢山の鳥が生息しているた め、立派なコロンブス像も鳥たちとドミニカ人の憩いの場と化しています。
サント・ドミンゴは海に面している 町であるためか、照りつける太陽光の強さも忘れさせるほどに、時折心地よい海風が身体の横をすり抜けて行きます。新市街の海岸沿いに出ればエメラルドやコ バルト色をした海がキラキラと輝き、幹線道路にはリゾートホテルが立ち並ぶ。本当にここがカカオの生産国であろうかと思うほどにインフラ整備が進んでい て、朝焼けの空に続くコバルト色の海や、夕日に輝く波の煌きなど、美しい景観に思わず見惚れてしまいます。
ところが一歩旧市街に出ると狭い道を奪い合うように車がひしめき合い、タクシーの客引きが常に声をかけてくる。右も左も巻き舌のスペイン語が飛び交い、 かっぷくの良い人々が豪快に笑い声をあげる。旧市街のメインストリートには色調の明るい絵画やお菓子のスタンドが立ち並ぶ。やっぱりここはラテンの国。景 観には「美しい」という形容詞が似合うけれども、人々には「陽気」という言葉がピッタリです。
もともとこの ヒスパニョーラ島にはタノイと呼ばれる先住民族などが住んでいましたが、植民地後のスペイン人による先住民酷使や、ヨーロッパからの疫病の流行などでその 労働力が減ってしまい、代わって砂糖生産のために西アフリカから多くの黒人奴隷が連れて来られました。そういった歴史の流れから現在人口の7割程度を「ム ラ-ノ」と呼ばれる黒人とラテン系白人との混血が占めています。
首都サント・ドミンゴの気候は、年間を通し26℃付近で推移する亜熱帯性。労働意欲を奪う気候のせいか、はたまたムラ-トの 気質なのか、ドミニカ共和国の人々はとにかく陽気でのんびり。ラテンの国特有の生活のリズムはメキシコなどでも感じますが、ドミニカ共和国は更に輪をかけ たテンポのように見えてしまいます。私のようにちょっと立ち寄った旅人でも、肌でその雰囲気を感じ取るほどです。
実際私が宿泊していた旧市街のホテルでは、1階にある小さなカフェ・レストランが公園の目の前にあるせいか、いつも誰かしらがくつろいでいました。雨が降 れば店の中、晴れればのんびりとオープンカフェで。平日も朝から夜までお客がひっきりなしです。観光客と思しき人々も良く見ましたが、地元の人もその数で は負けていません。そして暑さと喉の渇きを凌ぐため、白昼から地ビール「プレジデント」を瓶ごと堪能している人も。もちろん、私もその一人でした が・・・。
失業率は15%を超える高い率を占めていますが、穏やかなこの国では私が訪問したときは元首選挙を1週間後に控えているというのに、辺りには全く国が乱れている様子を感じさせない、普段と変わらぬような空気が流れていました。
以前他の国では大統領選が近づくと、街が危険だからと連絡を受け、農園視察の渡航を中止したことがあるのに。
インフラ整備にリゾートホテル、穏やかな気候と陽気な人々は、この国の首都がカリブの先端を歩んでいる象徴です。
しかし、そんな首都から一歩地 方に踏み出すと、そこには実に異なる風景が待っています。カカオを生産するような農業地域では、生活水の不足やインフラの整備がまだまだ整っていません。 事実、国内を走る道路の約半分はまだ舗装が遅れているようで、カカオ農民が収穫したカカオを運搬するのに、ロバのような動物を連れて歩いている姿を目にす ることもあります。
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この九州に高知県を合わせた程度の面積しか持たない小さなドミニカ共和国は、実は世界トップ10に入るカカオ生産国。 2006/2007のカカオ生産量は、以前ご紹介したパプアニューギニアに続く42,200MT(*1)で世界の第10位、中南米ではブラジル、エクアド ルに続くカカオ生産国です。2007/2008のカカオ生産量はパプアニューギニアを追い越し、世界第9位にまで躍進すると予想されている、まさに成長株 の国に当たります。
良質なカカオ豆も多く、チョコレートにしたときに感じられるレーズンのようなフルー ティー感、アフターのスパイシー感など、舌の上で心地よいカカオ感と様々なアロマが広がる香味がこのカカオの特徴。その個性から、シングルビーンズの板 チョコレートに仕上げられることがこのところ多く見られます。富沢商店のオンラインshopでも同じヒスパニョーラ島のカカオを使用したカカオバリー社「サンド・マング」の商品紹介で、そのカカオが持つ個性が説明されています。人気のカカオ70%で食べやすい小粒仕立て。一度お試しになってはいかがでしょうか?
ドミニカ共和国カカオの特徴は、遺伝子由来のその品質だけでなく、驚くことに現在では生産されるカカオの多くが有機栽培であること。ドミニカ共和国の組織 的な有機カカオ栽培は80年代に芽を出し始め、自然的物理条件や欧州との共同栽培プログラムなどを追い風に、今では世界最大の有機カカオ生産国にまで発展 しました。
国土に山岳地帯を多く持つドミニカ共和国は、この国の中央と北部に大きな山脈を有します。この山 脈間(シバオバレー)では水分を含んだ海風が山々にぶつかり、十分な雨が大地に降り注ぎます。土壌が適度にこの水分を含み、その結果肥沃な大地では盛んに 農業が営まれていました。カカオの産地もこのシバオバレーに集中して見られます。海風が余分な湿気を押し流すためか、カカオの病気が栽培地域全体で少ない ことが特徴として挙げられます。
有機栽培は自然に回帰する栽培方法が行われる半面、有機栽培ならではの手間 のかかる作業が毎日山のようにあるそうです。そんな有機カカオがここまでドミニカ共和国で栽培されるようになったのは、有機栽培に適した自然的要因の他 に、のんびりでありながらも真面目な農民たちの気質に合っていたのかもしれない、という民族適正も推測されます。
さて、「有機カカオ」とここでは総称して呼んでいますが、実はこの呼称には厳密な定義は有りません。農薬や化学肥料を使用していない場合、分類上は無農 薬・無化学肥料産品と括ることは出来ますが、「有機カカオ」と名乗るにはオーガニック審査官の検査をクリアしたり、有機認証を与える機関の審査をクリアし て認証を取得する必要があります。
例えば、富沢オンラインshopで販売している仏・カオカ社のチョコレートに は「有機JAS」の認証が与えられていますが、この規定にはカカオの場合「化学的に合成された肥料および農薬の使用を避けることを基本として、播種または 植え付け前3年以上の間、堆肥等による土作りを行った圃場において生産されたカカオである」という条件などが含まれます。
既述のようにカカオ農民の中には換金作物としてのカカオに生活を委ねる人も多く、それはドミニカ共和国の人々にも同じことが言えます。有機カカオは付加価 値の高いカカオである反面、認証の規定に沿った商品を作り出すまでに金銭や時間の投資と根気が必要となり、また土作りを行う間の保障や有機農業の技術指導 サポートが付加しないと、長続きが難しいと言われています。次回はそんな農民たちを支えるカカオ協同組合のお話をお伝えいたします。
ところでカカオ生産国の中には、銃の所持が認められている国が沢山あります。ドミニカ共和国もその一つ。空港でふと見かけた 注意書きに、機内に銃を持ち込まないようにと記されたものがありました。一見穏やかに見えても、やはりここも中南米。見えないところで拡大する貧困格差、 米国からの犯罪者強制送還、麻薬密売人の増加、隣国ハイチからの不法な銃の密輸など様々な問題を抱えていて、首都の治安も年々悪化の傾向を辿っているよう です。 カカオの相場が混乱し、その結果人的社会問題が拡大することはよくある話。発展中のドミニカ共和国カカオ産業は、果たして彼らの社会に何をもたらしているのでしょうか。
2008/06/27* 1・・・International Cocoa Oarganization 4-Supply-Demand 34-2 より






