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可可豆見聞録

Vol. 33 マヤ 神秘なるカカオを探して -継承のチョコと改革-2008/04/23

春です。今年もまた眩しい春の季節がやって来ました。

暖かさとともに目を覚ました桜、その後を追うように私のカカオたちも冬の眠りから覚めたようです。

 

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 我が家で育てているフォラステロ系の3株のカカオ。観賞用に鉢植えで育てているのですが、もともと熱帯植物で寒いところが苦手なカカオにとって、冬の日本 は厳しい気候。我がカカオ達は冬の期間は室内で越冬します。とは言っても常時暖房を付けているわけではないので、昼夜の寒暖差のある中、途中何度も落葉し ながら、待ちわびる春までの半年を室内でじっと耐え忍ぶのです。

 

 このコラムを書いている今日は、本当に暖かくて良い天気。燦燦と差し込む光がベランダのコンクリートを温めるので、その熱で気温以上に暖かく感じます。先ほど久しぶりにカカオ達を外に出したら、少し膨らんでいた新芽から、太陽の光を浴びて小さな葉が息吹いていました。


 カカオの葉は落葉すると、その葉が幹についていた部分が“クッション”となり、しばしばその付近から再び新芽が出てきます。何れ伸びて枝になるので、カ カオ栽培では成長を調整するため通常この部分の剪定を行ないます。でも私の場合は伸ばしっぱなし。仮に余分な枝でも、カカオの成長を見るのが愉しいからで す。


 数年して花が咲くようになると、この“クッション”付近に房のように可憐な花を付けるようになります。私のカカオ達は日本の気候で育てているので花を咲 かせてくれるかどうかは分かりませんが、太陽の光を浴びて春を満喫しているカカオ達にとっては、これからがスクスクと成長する季節です。梅雨を迎える頃に は、少し背が高くなっているかもしれません。

 

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 春といえば出会いの季節。3月に幕張で行なわれた食の見本市FOODEXでは、以前マダガスカルでお世話になったミロ農園の方々にお会いしました。初来日で連日忙しいスケジュールだったようですが、こうやって現地でお世話になった方々と日本で再会できるのは、本当に嬉しい限りです。


 会社員だった頃、まさか自分がこんな風に海外に赴いて生産者の皆さんとお話ししたり、知人や友人が出来るなんて思ってもいませんでした。チョコレートやカ カオの世界をもっと知りたいと会社を退職して、この春で5年目。苦手だった語学の勉強を始め、少しずつ世界が広がり、そうしてこうやって皆さんにコラムを お届けすることが出来るようになりました。


 私にとって春は出会いと旅の季節。ここ数年、毎年春にはカカオ生産国に足を運んでいて、その度に新しい発見や、生産国の人々の精神的な豊かさに魅了されています。
カカオ生産は赤道を挟んで南北20度以内に位置することが殆どです。熱帯の低地での生産が主ですから、伝染病やマラリアなどに悩まされることも多く、また経済的に困窮していることも少なくありません。


 そんな地域に私が思いを馳せるのは、そこにカカオがあるからだけではなく、大地とともに生きている人々がいるからなのではないかと、最近節に感じます。


 今年もこれから旅に出る予定ですが、その前に昨年訪れた3度目のグアテマラのお話しを致しましょう。


■ ■ ■


 メキシコの南側に位置する中米のグアテマラ。これまでグアテマラのお話しは、カカオの生産地域についてお話して参りましたが、今回はチョコレートとしての消費地域のお話しです。


 日本も南と北では気候が異なるように、グアテマラも地域によってその気候は様々。グアテマラを縦・横に割ってみるとよく分かるのですが、太平洋側、及び ベリーズ側は低地で熱帯の気候を有していますが、西部へ行くと3000m級の山々が連なっています。標高の高い地域は世界でも有数のスペシャリティーコー ヒーの産地。古都アンティグアのコーヒーや、ウエウエテナンゴのコーヒーなどは日本にも随分と輸出されています。

 

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 さて、グアテマラでは以前メキシコのチョコレートでお話ししたとおり、「飲むチョコレート」の文化が今でも根強く残っています。コラムVol.2、Vol.3及びVol.12、Vol.13、Vol.14でご紹介したカカオを生産する南部・南東部地域では換金作物であるカカオは頻繁に飲用されるわけではありませんが、ひとたび西部に足を運ぶと、まったく違った様相が見られます。


 山間地域が多い西部。中でもグアテマラ第2の街ケッツァルテナンゴ・通称シェラ(Xela)は、標高2,000mを超える場所に位置するため、1年を通し て冷涼な気候に包まれています。イタリア・トリノの姉妹都市で、街の中心部はまるでヨーロッパのようなコロニアル調のモニュメントが並び、これまで見てき たグアテマラとは大きく異なる美しい風景が見られます。

 

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 似ていると言っても、住む人々・食文化はやはりグアテマラの西部ならでは。マヤ族の末裔・インディヘナと呼ばれる人々が多く 暮らすこの地域では、至る所で飲用のチョコレートが販売されています。その多くがここ西部で生産されていますが、特にシェラ にはこういったチョコレート製造者が多く、電話帳を調べると小さなチョコレート製造所を沢山見つけることが出来ます。西部の人々にとって、チョコレートは 子供から大人まで誰もが口にする昔からの飲み物。入れ方にもコツやお作法があったり、またチョコレートにちなんだ諺もあるくらい生活に密着しています。


 昨年シェラを訪れたとき、グアテマラに行く度にお世話になっているキリグアの宿のご主人“真幸さん”に「La Luna」という創業100年を超えるこの老舗のチョコレートショップに連れて行って頂きました。日本でのマヤ文化の研究者・八杉先生の著書を読んだとき にこの店の写真を一度だけ見たことがあったのですが、実際のお店に自分が訪れることが出来るとは思ってもいませんでした。

 

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 “Luna”とはスペイン語で“月”のこと。この日は日も暮れる頃に町に着いたので、まさに月夜に照らされながらこの店を 訪れました。ぼんやりとした灯りに照らし出された月の看板店内にはずっと昔からある年代もののポスターやオブジェが飾られていて、奥の釜では専用のポッド (壷)でアツアツのチョコレートが作られていました。


 ここで頂けるチョコレートと言ったら、もちろん飲むタイプのチョコレートのこと。それもVol.3の マリアおばさんが作るような南部のチョコレートとは若干異なり、もっと濃厚でトロリとしたもの。マヤ時代のチョコレートとスペイン文化が融合して生まれた この地域周辺のチョコレートは、甘い物好きのグアテマラ人にピッタリの嗜好。一見甘さに隠れがちですが、トロリとした濃厚な味わいの中には、良く探すとカ カオの香りもしっかりと感じられます。ただ、相当濃厚なので、夕飯前にもかかわらず1カップでお腹一杯。

 

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 丁度私達がLa Lunaでチョコレートを堪能しているときに、真幸さんの知人で社長のチャベス氏がお店にやってきました。お店のオーナーとしてだけでなく、シェラの町の ために様々な活動を行なっている氏をご紹介頂き、皆でテーブルを囲んで、どの地域のカカオを使っているのか、製法はなどと延々と質疑を交わしました。シェ ラ初日の夜はそうやってチョコレートとともに、しっとりとふけて行きました。


■ ■ ■

 

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 翌日、今度はシェラ振興で活躍している日本の国際協力員の方に、手作りでチョコレートを作るおばさまの工房に案内して頂きました。


 事前の予備情報は何もなくこの工房を訪れたのですが、偶然にもこの工房の女主人が、グアテマラで言うところの“名誉職人賞”を受賞した、最高のチョコレートを作る方だったのです。


 飲むチョコレート文化がしっかりと根付いているシェラには、こういうチョコレート工房や製造所が沢山あるのですが、たまたま訪れた工房が名誉職人の工房だったとは、何たる幸運。


 沢山質問したいことはあったのですが、まずは早速女主人セサさんに自慢のチョコレートを作って頂きました。Vol.3でご紹介したマリアおばさんのチョコレートよりはほんの少し機械化されていますが、基本的にはVol.26のオアハカチョコレートでご紹介したもと同じような作り方になります。

1.まずカカオ豆を焙煎します。焙煎には、自家製焙煎機を使用。


2.カカオ豆の周りのシェル(皮)を機械で取り除きます。豆を皮ごとクラッシュして、剥がれた皮を風で飛ばす仕組み。


3.カカオを一度挽きます。粉砕するときの摩擦熱で、カカオの油脂が融け出します。挽き終わった生地は、ペットリとしたカカオのペースト。


4.砂糖とバニラを加え、もう一度挽きます。生地はモチモチのパン生地のよう。


5.手でかたちを整えながら丸めていきます。サイズは1リブラ(約450g)と2リブラ(約900g)の2タイプ。この作業が素早く、まさに職人技。形が出来たら、後で1杯分ずつ簡単にカットできるようにナイフで切り込みを入れます。


6.編み込み模様の付いたマットの上でチョコレートを固めます。出来立ては温かいのですが、徐々に室温で冷えて行き、翌日には自然とカチコチ固まります(テンパリングはとりません)。


7.チョコレートは保存が可能。ドリンクにするときはポッドに湯を沸かし、人数分のチョコの欠片を入れ、モリニーニョ(撹拌棒)で泡を立てるように混ぜます。

 

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 工房見学の最後はご自宅で愉しいおしゃべり。セサおばさんと娘さんは、朝ごはんを食べていなかった私達に出来立ての熱々チョコレートと美味しいパンを用意して下さいました。


  ご家族で経営のこちらの工房では、現在大学で経済学を学ばれた娘さんが経営をお手伝いしているとのこと。でも、折角素晴しい賞をとっても、娘さんがお手伝 いしても、地元で安価に販売されている手作りのチョコレート製造だけでは、大きな売上が見込めない。それはこのチョコレートが決して高価なチョコレートで はないからです。タイトル受賞だけあって他のチョコレートよりはほんの少し高いですが、1リブラ(約450g)で70ケッツァル、約1,100円。日本の 板チョコ1枚(50g)に換算すると122円にしかなりません。手作業でコツコツ作るチョコレートでは、何とか資金を回すだけで精一杯だそう。


 欧米のチョコレート職人の中には芸術のようなショコラを作り出すことで、世界各国から評価を受けている人もいます。その一方で伝統のチョコレートを継承しているにもかかわらず、そういった評価とは縁遠い世界に暮らす職人もいるのです。


 セサおばさんの夢を聞いたところ、「一度海外に行ってみたいわ」と呟いていました。それは今のおばさんにとって、とても贅沢な夢。彼女には異国から来て好奇のまなざしでチョコレートを見る私が、どんな風に映ったのでしょうか。


 ちなみに奥様のチョコレートが大好きな旦那さまは、現在糖尿病を患ってしまい、チョコレートを口にすることが出来ないとか。グアテマラの方は本当に甘いも のが好きで、コーヒーにも驚くほどに砂糖を入れます。そのため国民病に占める糖尿病の割合が高いことを誰かが言っていたことを思い出しました。


■ ■ ■


 本来はこの地域での文化的飲み物といえばこの“飲むチョコレート”のはずなのですが、最近ではコーラや清涼飲料が増えてしまい、若い世代のチョコレート離れが起こってきているようです。どこの国も、文化の継承と新しいものとの共存は難しい課題のようです。

 

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 そんな中、シェラのチョコレート文化を伝えようと、一部のチョコレート職人が集まって共同組合を立ち上げ、町おこしの一環で2006年からチョコレート祭りの開催を企画するようになりました。


 私達がシェラの町に行った日は、丁度その第2回チョコレート祭りの最終日。町の広場には子供達に地元のチョコレートを味わってもらおうと、沢山のチョコ レートが振舞われていました。セサおばさんのような伝統的チョコレートだけでなく、型抜きチョコレートなどの現代風(工業的)チョコレートも店頭では見ら れました。


 既に日が落ちた後ですが、私達はこの組合の長であるチャベス.G氏を囲んで、ミニ質問会をお願いしました。もちろん、テーブルに用意されたのはお馴染みの飲むチョコレート。


 組合の目的の一つは、情報の共有化やこのチョコレート祭りの主催など、今までの伝統的チョコレートの町シェラを少しずつ変えていくこと。ところがインディ ヘナ(マヤ系民族の末裔)が多いこの地域では、例えばチョコレート製造に関する情報を共有し、産業として大きくしたいと組合が思っても、元々閉鎖的な部分 をアイデンティティーに持っている民族ため、一致団結が難しいとのこと。


 組合に加盟しない職人もいるし、組織した組合内をまとめることそのものも、今はまだ課題だそうです。


 組合が現在海外企業との取り引きとして考えていることは、カカオ生産国として単にカカオ豆を海外に輸出することではありません。個々の農家とマーケットの 集約を図り、設備投資を行ない、カカオ豆を先進国風の“滑らかな舌ざわりのチョコレート”に加工して付加価値のある「製品」を輸出したいと考えているので す。


 ここ最近、カカオ生産国が自国のカカオ豆を使用してチョコレートを作る動きが世界的に増えてきていま す。全てに共通する理由は、既述の通り付加価値を付けること。農業品として不安定な第一次農産物を輸出するより、加工品を輸出した方が製品の安定調整を行 ないやすいメリットもあります。


 対象は輸出のみならず、国内マーケットも視野に入れています。まだこの国 では珍しいグアテマラ産の“滑らかな舌触りのチョコレート”開発に取り組んでいます。今スーパーに並んでいる“滑らかな舌触りのチョコレート”の殆どは輸 入品。このチョコレート市場に国内製造品も挑戦したいと考えているのです。


 また、組合では地元用のチョコ レートを作る上での砂糖共同購入によるコストダウン、技術の共有、衛生の意識向上、マーケティングリサーチなども合わせて進めていきたいとのこと。世界か らの需要が高く、高品質なグアテマラのコーヒー業界においては既に組合が組織され、様々なことが改善されて来ましたが、チョコレートの産業ではなかなかこ ういった動きが見られませんでした。


 そんな中、こうやって少しでもグアテマラのチョコレートを改善していきたいと立ち上がる人たちが現われたことは、小さいながらも、本当に大きな踏み出しの一歩なのです。


  一昨年、この組合のカカオマスがシェラの姉妹都市、イタリア・トリノのチョコレート会社向けに輸出されたそうです。しかし、カカオ・チョコレートの歴史が 世界的にも最古の部類に位置するグアテマラにおいて、その産業化を後押しする政府の援助は残念ながら今のところ存在しないため、機械の設備投資は全て独自 で調達して行なっているとのこと。その甲斐あってか、カカオマスの輸出まで辿り着くことが出来ました。現在は海外の投資支援パートナーを探しているそうで す。


 ここは紀元前よりチョコレート文化が育まれた国。伝統を守る人、チョコレート後進国のイメージを払拭 したいと新たな動きに取り組む人、それぞれに思いを抱きながら今日もチョコレートを作っています。きっと正しい選択などないのでしょう、そうやって伝統と 革新は共存していくのですから。


2008/04/23

 
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