- Vol. 32 カカオとチョコと フェアトレード2008/03/25
賑やかなバレンタインに続き、華やかなホワイトデーが過ぎました。南風とともに桜の季節が巡ってくると、2007年度のチョコレートシーズンが節目を迎えたような気がします。
バレンタインと連動し、すっかり「スイーツの日」と化しているこのイベント。私が学生だった時代はマシュマロ、キャンディー、クッキーなどがお返しの定番でしたが、最近ではカラフルなマカロンやチョコレートも、人気アイテムとして台頭してきました。
一見バレンタインに隠れがちですが、背広姿の男性たちが都内で購入するホワイトデー関連商品の売上は、直前2日間においてはバレンタインのそれを越える 店もあるとも言われています。それもそのはず。何日も前から“Myチョコ”“本命チョコ”“世話チョコ”とじっくり吟味する女性に対し、仕事の合間、それ も間際に慌ただしく購入する男性には「倍返し」のプレッシャーまで付いてくるのですから。
それでも最近はホワイトデーの買い物を愉しんでいる男性も多いようで、人気スイーツの行列に並んだり、男性誌で予習される方も増えてきたように思います。もらった相手が喜ぶ顔を思い浮かべながらギフトを選ぶのは、男性も女性も同じなのでしょう。
日本を含め、先進国ではチョコレートがこういったコミュニケーションのツールとして利用されています。時には愛の代弁者、時には感謝を語るメッセンジャーとして。
でも、チョコレートそのものは満ち溢れる“愛”に包まれているのでしょうか?■ ■ ■
チョコレートは「ショコラティエ」と呼ばれるチョコレート職人の世界が注目を集めるようになり、現在では作り手の顔が徐々に見られるようになりました。そういった作り手の見えるチョコレートが市場価値を牽引し、一種のムーブメントを起こしていると言っても良いでしょう。
ところがこのような商品を通じても、そのショコラティエたちを陰で支えるカカオ生産者の顔はなかなか見ることが出来ないのが現状です。第一次農産物であるカカオは、石油、コーヒー、砂糖などと同様の、世界の大きな産業商品として取り扱われています。以前コラムVol.29でお話しした通り、カカオ相場というのは常に変動しています。市場ではニューヨーク(CSCE)とロンドン(LIFFE)の先物市場によってカカオ豆は取引が行われているのですが、それは必ずしもカカオ生産者のリスクをカバーする取引では有りません。
一口にカカオ生産と言っても色々なタイプが有ります。50ha(50ヘクタール:1ヘクタールは100m×100m)以上所有する大きな農園が先進国の 企業と直接取引きするようなところ、あるいはそういった農園が近隣農家のカカオを集め集中加工場として醗酵、乾燥を一手に担う場合もありますが、資本力に 欠けているカカオ栽培では1~5haの小農家が現金収入の糧としてカカオを栽培し、仲買業者にその豆を買い取ってもらうケースが大半です。
コラムVol.29で もご説明しましたが、同じようにカカオを栽培しても、相場が変動するとカカオ豆の買取り価格が異なることが度々起こります。プレミアムカカオを生産する農 場は別として、特に協同組合が無い地域の農家は買取り価格の交渉すらままならないことが現実と言われています。実際私が足を運んだ国でも、農民は仲買業者 から提示される買取り価格に従うしかない、そういった現状を目にしてきました。驚くかも知れませんが、そのときのカカオ豆に付いていた値は¥100/kg を割り込んでいました。
そういった生産者サイドとトレーダー(貿易業者、商社)、チョコレートメーカー間との公正な取引を行なう「フェアトレード(公正貿易)」のチョコレートが、ここ最近日本でも脚光を浴びるようになりました。
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カカオにまつわる労働環境の悪化や南北での経済格差は、近年表面化が著しい状態に有ります。フェアトレードのチョコレートも これまではいわゆる“フェアトレード商品専門店”では取り扱いが有りましたが、それがバレンタインのような一般市場の大きなイベントに登場することはあま り見られませんでした。
変化が見られた2008年。今年のバレンタインでは都内高島屋のバレンタイン会場 の一角にフェアトレードのチョコレートを取り扱う「Choco-Revo」のスタンドが設けてありました。このところ活動が注目されている「Choco- Revo」は、人と地球にやさしいチョコレートを広めたいという思いを共有する人々で作られた非営利団体。普段はブランドや企業を特定しない、フェアト レードチョコレートを応援する活動を行なっています。
今回高島屋が企業の社会的責任を果たすことにつながるということで、中米ニカラグアのフェアトレードカカオなどを使用した オーストリア「Zotter」のチョコレートと、NGO活動を併せ持つ日本企業「スローウォーターカフェ」の“アヒ(唐辛子)チョコレート”を Choco-Revoのスタンドで取り扱っていました。
「Zotter」のチョコレートはVol.28でご紹介したイタリアのユーロチョコレートでも販売されていた、ヨーロッパが主市場のオーストリアのフェアトレードチョコレート。 中米ニカラグアのフェアトレードカカオを中心とした原料カカオを輸入して、オーストリアにてチョコレートにしたもの。
様々なテイストのソフトセンターをカバーリングチョコが覆うZotterのチョコレートは、華やかな味わ いの“マール・シャンパーニュ”、ジューシーな“ペアー(洋梨)オレンジ”など、フェアトレード商品とは思えない程に多種多様なフレーバーのラインナッ プ。本国オーストリアでは100種類を超えるラインナップがあると輸入代理店の方は説明していました。副原料の砂糖、粉乳、天然バニラ、糖類、フルーツ、 ナッツ、洋酒などは全てオーストリアでオーガニック認定を受けたものを使用しています。高島屋で販売されたChoco-Revoとのコラボレーション商品 には、パッケージの右下にオリジナル商品にはないChoco-Revoのロゴが印字されていました。
こちらのチョコレートはFLO(Fair Trade Labelling Organization International)と呼ばれる機関の認証を受けているもの。FLOとは公平貿易の共通の基準を設定し、参加する業者に「トランスフェアラベル」 の使用を許可する認証組織のこと。1988年にオランダでフェアトレード商品を一般商品と区分するためのラベル認証(Max Havelaar)が始まり、以後各々の国で定められていた同様のラベルをまとめるために、1997年に統括組織としてFLOが設立されました。
FLO 認証団体の取引の場合、輸出入業者に守らなければならない様々な基準が設けられています。カカオ豆を取引きする場合には特にその取引価格が重要視されてお り、一般品質のカカオ豆でフェアトレード最低保証価格1,600$/t+150$/tの報奨金(生産地の将来に対する投資金)=1,750$/tの買取保 証価格が義務付けられています(図1)。これは過去10年間のニューヨーク先物相場で底値を記録した2000年11月の相場価格を2倍強上回る価格。この 保証により、急激なカカオ相場の急落に対するカカオ生産者へのリスクが軽減されることにつながるのです。
*参考:FLO The Cocoa Market 1994-2007: Comparison of Fairtrade & New York Exchange Prices
こういったフェアトレードカカオ豆の販売量は世界各国で年々増加の傾向に有り(グラフ1)、イギリス、ドイツ、フランなどの欧州が主要なマーケットになっています。

スローウォーターカフェの“アヒチョコレート”は、エクアドル低地の“エチャンディア村”や“パサヘ村”のアリバカカオを、 高地の“サリナス村”チョコレート工房で加工したもの。FLOのようなフェアトレード組織の認証は受けていませんが、スローウォーターカフェのスタッフが 現地で一緒に商品開発を行い、レシピや包材代わりの唐辛子型のニット袋を企画したりと、商品を生産者とともに作り上げ、村の文化とともに届けています。
カカオ、唐辛子ともに現地の無農薬のものを使用。小さなチョコレートは素朴ながらも、華やかなアリバカカオの香りとミルクのまろやかさ、ピリリの唐辛子ア クセントが堪能できる本格的な味わいです。唐辛子のかたちをした手編袋、一粒ずつ手作業で包んだと思われるチョコレートの包装からは、作り手の思い、温か さがジンワリと感じられます。
この他日本で販売されているフェアトレードチョコレートの代表例として、「フェアトレードカンパニー」が輸入販売を手がけ る、ボリビア産カカオのチョコレートが挙げられます。これはIFAT(International Fair Trade Association:国際フェアトレード連盟)というフェアトレードを支援する連合体に加盟する「フェアトレードカンパニー」が取り扱うチョコレート で、ボリビアで栽培されたカカオはフェアトレード価格でスイスのチョコレート会社と取引きされ、チョコレートに仕立てられています。これが日本に輸出さ れ、IFAT加盟団体の「フェアトレードカンパニー」で販売されるという流れになっています。
FLO認証 のチョコレートとIFAT認証のチョコレートの違いは、簡単に説明するとフェアトレードに対する認証が商品に対してであるか、団体に対してであるか。 FLOは取引き時の保証価格など具体的な基準を設定しているのに対し、IFATには具体的な数値基準などはありません。その代わり現地の文化などに柔軟に 対応できるようなシステムになっています。どちらもフェアトレードにある一定の独自基準を設けて、それを認証するシステムには変わりありません。
もともと「フェアトレード」と呼ばれ、市場に見られる様々な商品には明確な基準がありません。ですから「Zotter」の フェアトレードチョコレートのように、FLOの認証を受けているチョコレートや、「スローウォーターカフェ」のようにどの組織認証も受けないチョコレート が、同じ市場に存在することになるのです。
特定フェアトレード組織(FLO、IFATなど)の認証を受けているか否かは、多くの商品からフェアトレード商品を見つける際の目安、あるいは指標ではあると思いますが、認証が無いからと言ってフェアトレードが語れないかと言えば、そういうことでも無いのです。
ところが明確なフェアトレードの定義がないが故に、それを逆手に取った“偽フェアトレード”商品も世界の市場には流通しているとのこと。そういう意味で は、フェアトレードであるか否かを買い手側の消費者がきちんと見分けなければなりません。認証があるからと言って安心も出来ません。認証を与える団体その ものが、フェアトレードの理念から反れていないかどうか、消費者が常に見届ける必要があります。
富澤商店で取り扱っているカオカ社のチョコレートもこういったフェアトレードチョコレートの一つです。カオカ社のチョコレートは ビオ・エキタブル協会に加盟しているため、有機農法の信頼保証とともに、カカオ豆の最低買取り価格の提示が義務付けられています。また現地農民への技術指 導や機材提供、カカオ苗の購入資金など、カオカ社独自に設立されている「カオカ基金」によって、生産者と消費者の絆を結び付けているのです。
フェアトレードのチョコレートは、どれも決して安価なものでは有りません(特にフレーバーの種類が多いと、日本国内への輸入検査費が各種ごとに必要)。で すが、それがカカオ生産者の経済発展・開発、未来そのものに結びつくことを想像すると、その価値が販売価格だけでは判断出来ないように思われます。
“スイーツ”という甘い言葉に紛れやすいチョコレート。でも実際のカカオ生産には表面に出てこない問題がいつも潜んでいます。だからこそ、カカオ生産者・生産国のことを考えるチョコレートが、こうやって存在するのです。
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焙煎により直ぐに商品化に繋がるコーヒー市場は、砂糖などの副原料とともに加工しなければ商品価値が伴わない複雑なカカオ・ チョコレート市場と比較すると、常に一歩先を進んでいます。フェアトレードの考えがいち早く市場に導入されたのもコーヒーです。特に欧米市場ではその動き が顕著で、年々フェアトレードコーヒー市場が拡大しています。 現在カカオ・チョコレートは、そのコーヒーの一歩後ろを歩んでいるところです。この市場でのフェアトレードの認知は、まだまだ発展途上にあると言えるで しょう。
但しこういった動きが過熱化し、多くの生産者が皆同じ目標・方向を目指すと、フェアトレード市場崩壊の リスクが高まってしまうとも言われています。それは「フェアトレード」という考えが、今の主市場の対極に位置し、認められていることに起因します。本来あ るべき市場の姿が最初からフェアトレードであるなら、現在のようなフェアトレードの概念は存在しなかったでしょう。
カカオ生産国の現状を描いた書籍の中には、今の南北格差のある市場を作り上げた責任を特定企業やグループ、貿易商、あるいは 政府官僚などに問う内容を良く見かけます。そこには今まで私たちの知らなかった沢山の真実が描かれていて、衝撃を受けることも多々あります。時には既述の フェアトレード認証組織に対する疑問の声が綴られることも。
でもそういった書籍を一読する前に、全ての前提として、市場はいつも「生産者」と私たち「消費者」が存在して始めて成り立つものであることを忘れてはいけないと思います。
フェアトレードの裏側にある“不均等”と問われる問題の根本は、本当は私たち消費者の無意識的欲求の中に隠れているのかもしれません。
2008/03/25
* FLO(英語/スペイン語)
* IFAT(英語/一部日本語 他
* ZOTTER(英語/伊語 他)
* スローウォーターカフェ
* フェアトレードカンパニー(ピープルツリー)
* Choco-Revo






