- Vol. 29 カカオの相場 -価格の高騰-2007/12/25
10月にイタリア、フランスに足を運び、日本に帰ってくるとバレンタイン企画の大詰めを迎えていました。

慌しく1ヶ月くらいを過ごし、ようやく一段落したところで11月からシーズンを迎えるカカオ生産国について調べていたところ、メキシコで豪雨のニュースが。目下カカオ生産では国内最大規模を誇るタバスコ州への集中豪雨。ここは先日コラムVol.27でご紹介したばかりの湿地帯で、小さな河川やラグーンが広がる地域。
ニュースでは1週間に渡る豪雨による影響で河川が氾濫、家屋崩壊の被害が生じ、相当数の被害者が出たとのことが記載されていました。冠水被害も相当の様 子。ニュースソースは10月末に発表されたもので既に発生から1ヶ月近くが経っていましたが、やはりあの時訪れた農園や付近の人々が心配になり、メキシコ のカセップ氏に連絡をとってみました。
洪水の影響で通信手段が分断されていると聞いていたので、もしかしたらメールも繋がらないかもしれないという思いを抱きつつも、送信ボタンをクリック。 すると翌日には無事返信が届いていました。最も被害が大きかったのは、タバスコ州の州都「ビジャエルモッサ」。特にダウンタウンに住む人々への影響が大き かったようで、州都人口200万人のうち、100万人、実にビジャエルモッサの二人に一人が被害を受けたとのこと。食料不足、伝染病の発生、避難による略 奪など記録的な水害被害であったために、復旧までの不安要素はまだまだ拭いきれないようです。
幸いにしてコマルカルコやその周辺のカカオ農園は大した被害に合わなかったようですが、メディアからの情報を聞く限りでは、もう一つのカカオ生産地・チアパス州でも土砂崩れなどが発生したようで、この付近のカカオ農園では被害が出ている可能性が考えられます。
ビジャエルモッサもそうですが、低地で水害にあった場合は冠水が引き起こることが良く口にされます。アフリカの島国・マダガスカルのカカオ生産地もそ う。今年の初めサイクロンがマダガスカルのカカオ生産地域を通過、それによりサンビラーノ川の氾濫が引き起こり、土壌が浸水を受ける被害が続きました。そ ういったことが土壌を潤す栽培条件としてプラスに働くことも有りますが、天候の不順などが続けば生産量が減少し、需要が高い時には価格の高騰を引き起こす ことにも繋がりかねません。
■ ■ ■相場とは常に「需要」と「供給」のバランスが最大要因として変動します。
カカオに置ける相場の変動要素を取り上げるとしたら、主たるものは「カカオ生産量」「カカオ在庫」「チョコレート市場の予測」の3点になるかと思います。
世界各地で伝えられている特異気象の現状は、カカオ生産にも大きく影響します。例えば2006年のエルニーニョは、インドネシア近辺の天候不順に悪影響を及ぼし、結果今年のカカオ生産量の減少を引き起こしました。インドネシアのカカ オ生産の多くは小農家によって支えられています。現金収入の糧の一つであるカカオの収穫量が減れば、当然その代償は各農家が負担しなければなりません。
ベネズエラでも天候不順の地域が出た他、メキシコやマダガスカルでは先述のように、豪雨をもたらす低気圧の発生が確認されています。
世界最大のカカオ生産国コートジボアール(世界のカカオの約4割を生産)にいたっては、目下カカオの病気「ブラックポッド」による生産量の減少が予想さ れており、天候不順により雨が続くようなことがあれば、雨により感染が促進するこの病気によって更なる被害拡大が起こる可能性が有ります。
農産物であるカカオを生産する現場では、こういった悪天候、病気といった不安要素が常に付きまといます。
その一方、カカオを使用する側(チョコレート生産・消費国)では、中国、インドなどの経済的新興市場でのチョコレートの将来需要の増加が見込まれていま す。少し前に国際ココア機関(ICCO)のカカオ需要の将来予測はその見込みに沿って変更されました。これにより懸念されているのが、2007/2008 年をピークに減少されると見込まれている世界カカオ在庫量。2010/11年までの少なくとも3年間は、減少状態が続くと予想されています。
■ ■ ■身近な話題で最近値上がりを続けているものといえば、“ガソリン”“灯油”などが上げられます。日用品や食品にまで値上げの声が及ぶ中、秋には製菓会社 各社からもお菓子の値上げや価格据置内容量減少の発表がなされました。お菓子まで値上がりするの?と疑問・不満に思われた方も多いはず。
実際、チョコレートを作る上で今様々な原料の価格高騰が厳しい現状としてのしかかっています。
まずチョコレートを作る上で一番大切な「カカオ豆」は既に先章で述べた通り、世界的需要増加、在庫量の減少に対して供給には不安要素が残るため、将来予想として安定したバランスが見え難い状態に有ります。
ここ6年のカカオ相場の動きを見てみましょう。
底値付近を記録した2000年(グラフ数値記載無し)から2002年にかけて、急激なカカオ相場の高騰が始まります。約2.5倍にも及ぶこの価格差は、 世界最大のカカオ生産国“コートジボアール”の政情的不安、つまり市場に流通するカカオ豆の減少が一つの要因と言われており、そこから現在に至るまでは経 済的新興市場の躍進によるカカオ豆の世界的需要増が、再度の価格高騰を引き起こしている新たな要因の一つと言われています。
この相場の動きに付随して第一次カカオ加工品、例えばカカオバターやカカオマス、ココアパウダーなども値上がりを続けております。
また、ミルクチョコレートやホワイトチョコレートに使用する乳製品の原料価格上昇は、日本のチョコレート業界に更なる打撃を与えております。最近ビター チョコレートがブームと言っても、日本のチョコレート市場で大きなシェアを持つのはやはり何と言ってもミルクチョコ。その原料である粉乳(全粉乳・脱脂粉 乳)も値上がりし、更には甘味料として使用している乳の糖分“乳糖”にまでその影響が及んでいます。
日本でも良く使用されるヨーロッパの粉乳在庫は現地でタイトな状態。オーストラリアやニュージーランド粉乳も次シーズンでの生産状況を待つ形で、それま では過度な輸出は控えている状態。国産の粉乳に至っては1年以上も“減量”(生産量が前年対比で少ない状態)が続いています。
副原料であるアーモンドも、チョコ菓子に使用する小麦粉も値上げ、バターに至っては市場の流通量が激減、工場を稼動するためのエネルギーも、出来た製品を搬送する輸送費用も値上げと来れば、国内菓子メーカーの生き残る道として「価格転換」は既に余儀ない状態。
商品の内容を減らして価格を据え置くなど、様々な「秘策」が来年も続くようです。少子化により市場の縮小を「大人向けチョコレート」で回避してきた日本 のチョコレート業界。しかし、ここに来てこの値上げ問題は大きな重圧であることは間違え有りません。これが市場縮小の引き金となるか、それとも企業努力で それが回避出来るのか否か、厳しい岐路に立っているように感じます。そういった意味で、来年は至難の年になりそうな予感。
パプアニューギニアで以前カカオ豆の買取価格に関して聞いたとき、そのときは数年前と比べて若干上がっていると言っていました。それは同じものを同じよ うに生産し、販売しても、それぞれ異なる金額を手にすることを意味します。同じ仕事をしても手取り金が異なるのです。相場の上昇は時として、カカオ農民の 生活レベルを上げるものとして働くことも有りますが、裏を返せば急激な相場の上下は、政府レベルやフェアトレードでのカカオ豆買取価格保証が無い限り、品 質の劣化や生産者の気力喪失を促すことにもなりかねないのです。
■ ■ ■日本でカカオ豆からチョコレートを製造する会社は、現在10数社。その中で大きなポジションを占めていた森永製菓が、世界のチョコレート業界の最大手 「バリーカレボー社」と契約することを発表したのは今年9月。これまでカカオ豆の調達から行なってきた森永製菓ですが、昨今のカカオ豆高騰相場においてカ カオ豆調達リスクの懸念から、製品の安定供給を目的としてこの選択を選んだようです。契約が締結されれば、森永製菓はカカオ豆の輸入からではなく、バリー カレボー社からカカオマスを購入してチョコレートを作ることになります。
年内締結を目指しているとのことから、丁度このコラムが皆様の前に出る頃には既に契約がまとまっているかもしれません。日本のチョコレート市場も、世界レベルで広がっているチョコレート界の困惑の渦に、静かに飲み込まれていく気がしてなりません。
2007/12/25
* ICCO=International Cocoa Organization
* ICCO サイト(英語) http://www.icco.org/






