1. 富澤商店トップ
  2. >
  3. コラム一覧
  4. >
  5. 可可豆見聞録
  6. >
  7. Vol. 26 VIVAメヒコ!! チョコレートの街

可可豆見聞録

Vol. 26 VIVAメヒコ!! チョコレートの街2007/09/21

2度目のメキシコに足を運んだのは、今年4月下旬のこと。春なのに夏のような陽気のニューヨークからメキシコシティーで飛行機を乗り継ぎ、乾いた山間を眼下に望みながら向かった先は、チョコレートとチーズの街として名高いメキシコ南部の街「オアハカ(OAXACA)」です。

 

c-26-01.jpg

 山々に囲まれたオアハカは、盆地と高地特有の乾いた暑さ。標高1550mに位置するためか、肌をじりじりと焼くのが感じられる程強い太陽光が大地に降り注ぎ、時折乾いた風に車道の土埃が舞っていました。


 中央アメリカ最古と称される「モンテ・アルバン」の遺跡や、緻密な幾何学模様を印した「ミトラ」遺跡に代表される古代文明。それらの姿を今でも目にする ことができ、マヤ人の末裔の村々も数多く残る地域、それが“メキシコの中で最もメキシコらしい地域”と呼ばれる「オアハカ州」。私が訪れたオアハカの街は 丁度その州都に当たります。






 

 

c-26-02.jpg

 オアハカの街そのものは州内の他の街や村に比べれば、マヤ文化の名残は些か薄く、丘陵のある街をコロニアル建築の協会が見下ろし、坂道に沿って色鮮やか な外壁が立ち並ぶ。道路の両端に路駐している車の列も風景の一つと思えば、映画に出てくるような美しい景観の街と言えるでしょう。オアハカ特有の衣装を身 に纏う女性達も沢山見かけます。メキシコシティーからはバスで約8時間、程好く離れた場所に位置しているせいかメキシコ特有の明るさの中に素朴なものが共 存しているように感じられます。


 街の賑わいに花を添えるのは沢山の屋台。タコスやカットフルーツといったメキシコ定番の屋台の他に、サルサとライムをかけて頂く揚げたてポテト屋や、歩 く風船おばさんの姿も見られます。ソカロ(市庁舎の前にある中央公園)ではミニオーケストラの演奏や芸人によるパントマイムが行なわれ、夕方のヒトトキを それぞれが楽しんでいる様子でした。


 そんな楽しい時間を遮るように、雨季にあたるこの時期は夜6時から8時くらいにかけてスコールが降ることがしばしば。打ち付けるような大粒の雨と雷が やってくると、ソカロで楽しいヒトトキを過ごしていた人々は一斉に雨宿り。ごった返しの軒下でのんびりと雨を止むのを待ち続けます。このチャンスを逃すま いと、どこからとも無く傘や雨合羽売りのおばさんが登場するのですが、地元の人はただひたすら雨が止むのを待つばかり。


 日本ならタクシーを拾って帰る人、傘を買って雨を凌ぐ人もいるでしょう。カフェでお茶して待つ人、コンビニで時間を潰す人etc・・・。でもここはオア ハカ。ソカロ周辺はカフェが有っても観光価格で高く、もちろんコンビニも有りません。知り合いなのか、知らぬもの同士なのか、こういうときは、ただただお しゃべりをして雨が止むのを待つようです。


 のんびりで、おおらか。そんなオアハカの人々のチョコレートは“大胆”の一言で言い表すことが出来ます。


 

■ ■ ■



 オアハカの街中には3つの大きな市場が有ります。街一番の「アバストス市場」、食料品・日用品が充実の「ベニ-ト・フアレス市場」、そしてチョコレートのお店が回りに沢山ある「ベインテ・デ・ノビエンブレ(11月20日)市場」。


 ベインテ・デ・ノビエンブレ市場をぐるりと回ると、チョコレート屋が軒を並べる、甘い香りの道に当たります。ここがオアハカのメインチョコストリート。 チョコレート屋各店にはメキシコ産カカオ豆とともに、カカオ豆を粉砕する機械が並び、朝早くからその機械を使ってチョコレートを作っているのです。

 

c-26-03.jpg

 

 ここでお話ししておきたいのは、オアハカのチョコレートは私達が普段口にするような口融け滑らかなチョコレートではなく、グアテマラのチョコレートに良く似たザラザラしたタイプの飲料用チョコレートであること。既にVol.4でメキシコのチョコレートに関して少しお話しましたが、メキシコでは未だに「飲み物としてのチョコレートの文化」が残っています。


 つまり、アステカ帝国時代のメキシコをスペインが制圧してから500年近く経った今でも、オアハカのチョコレートはアステカやマヤの時代のチョコレートとスペインの文化が融合した頃の素朴な名残があります。


 オアハカでチョコレートは“チョコラーテ(スペイン語でチョコレートの意味)”と呼ばれていて、固形チョコレートと同時にチョコレートドリンクも指しま す。そこでこのコラムでは2つを区分するためにドリンクを指すときは「チョコラーテ」、固形チョコレートを指すときは「チョコレート」と表記いたしましょ う。

c-26-04.jpg

 前述の文化融合名残の一つに“チョコラーテの泡”が挙げられます。チョコレート屋でホットチョコラーテを頼むと、しっかり表面に泡を立ててサーブ。一口飲むとふわふわの泡の下からカカオのやさしい香りと強い甘さが口の中に広がります。


 “チョコラーテは泡が命”と考えられていた時代はチョコラーテをわざわざ高いところから注いだり、モリニーニョと呼ばれる撹拌棒でかき混ぜたりして泡立てられていました。現在でもモリニーニョはメキシコやグアテマラで使われてはいるものの、お店で出されるチョコラーテに関してはハンドミキサーのような機械を使って瞬時に泡立てることが多いようです。


 さてそれでは、オアハカ式チョコレートの作り方について名店「MAYORDOMO」の職人さんの実演とともにご紹介いたします。

  1. 焙煎したカカオ豆(皮付きの場合も)、シナモンスティックを計量。
 (味付けにアーモンドを加えることもある)

  2. 粉砕機に1を入れ、ペースト状に粉砕。

  3. 2とグラニュー糖を混合し、再度粉砕してチョコレートの出来上がり。

  4. 出来立てのチョコレートは、直ぐに店頭で図り売り。

 

c-26-05.jpg

 

c-26-06.jpg

 ものの20分程で1回の作業が終了します。チョコレートを練る工程も無ければ、艶を整えるテンパリングの作業も無い。まさに“大胆”の一言。カカオ豆と副素材を混合粉砕したら終わりなのです。


 甘めのものは砂糖が多いので少し堅いチョコレート生地に、苦めのものはカカオが多いのでやわらかいチョコレート生地に仕上がります。出来上がったものはそのまま容器に移され、量り売り。


 粉砕機の内部は丁度石臼が横になったような非常にクラシックな作り。溝の付いた円状の磨砕石を2つ、一方は固定し、もう一方はモーターの動力で回転させ、大きな固形物を粉砕する仕組みです。
どんなにチョコレートの製造技術が進歩しても、チョコレートを作るにはカカオ豆を粉砕し、ペースト状にすることから始まります。ですから非常にシンプルなこの機械はもとを辿れば現在におけるチョコレート製造機械の原点にも通ずるのです。


 この量り売りのチョコレート、どうやって頂くかと言えば後はお湯で溶いて泡立てて飲むそう。何となく、このチョコレートが味噌のように感じてしまうのは日本人ならではの感覚でしょうか。

 

 

 
■ ■ ■

 

 メキシコの料理では様々なソースが使われます。例えば「サルサ・メヒカーナ」。トマトベースに唐辛子などを加えた、タコスなどに合わせるあのサルサソー スです。サルサはスペイン語で“ソース”を意味しますが、日本では「サルサ=サルサ・メヒカーナ」となっているので、ここでは日本式表現に統一いたしま しょう。


 さて、サルサのように様々なソースが存在するメキシコにおいて、チョコレートを使用した有名なソースと言えばプエブラ州の郷土料理「モレ(Mole)」。アステカ語で飲料や食べ物の混ぜたもの意味する「モリ」が名前の由来です。


 17世紀プエブラの修道院で生まれたこのソースはその語源の通り、チョコレートにアーモンド、カボチャの種、ゴマ、ドライフルーツ、トマト、玉ねぎ、ニ ンニク、唐辛子、アニス、シナモン・・・など多数の食材を混ぜ合わせ煮込んだ黒いソース。食文化にチョコレートが欠かせなかったメキシコならではのソース で、甘辛で香ばしく、蒸した鶏肉や七面鳥にかけて食べられます。


 プエブラ州に隣接するオアハカ州でも、この「モレ」は郷土料理として広く親しまれています。観光客向けのレストランではもちろんのこと、大衆食堂でもメ ニューの中に「モレ」の名前を見ることができます。市場に足を伸ばせば色々な店で、各店オリジナルの「モレ」を味わうことが出来るのです。


 当然、チョコレート屋もしかり。「モレ・ネグロ(黒いモレ)」、「モレ・ロッホ(赤いモレ)」などオリジナル「モレ」がチョコレートと共に店頭に並んでいるのです。


 モレの作り方は?と聞いてみると、カカオ豆や砂糖を粉砕した粉砕機を指差すでは有りませんか。まさかと思って見ていると、機械を水洗いした後、トマトやナッツ、香辛料を入れ粉砕機で一気に潰し始めました。


 どうやらオアハカでチョコレートを作る機械は、チョコレートのみならず「モレ」を筆頭とした、様々なソースやドリンクを作るのに用いられているようで す。近隣の市場で店を出している人たちなのでしょうか、皆バケツいっぱいに食材を持ってきては粉砕機で潰してもらっています。サルサ用のトマトと香辛料を 粉砕したり、朝食のドリンク「アトレ」用の食材を粉砕したり。


 トロリと濃厚な甘いホットドリンク「アトレ」は、メキシコの代表的な朝食メニュー。「アトレ」には様々なバリエーションがあるのですが、どれもトウモロ コシなどの穀類をベースに甘く味付けしているものが大半で、栄養価は抜群。そんな「アトレ」もオアハカの街ではチョコレート屋のお世話になっていたので す。


 オアハカの胃袋を影で支えるチョコレート屋。もしかすると世界で一番生活への密着度が高いチョコレート屋なのかも知れません。


■ ■ ■

 

c-26-08.jpg

 チョコレートを探し市場の中をウロウロしていた時に“オスカル”という一人のスペイン人に出会いました。彼は観光などでこの地を訪れた外国人に観光案内 のボランティアをしているそう。本当にボランティアなのかどうかは不明ですが、私は肉屋の前で彼と意気投合し、オアハカのチョコレートについて色々教えて もらいました。


 オアハカのようなトラディッショナルなチョコレートは日本には無いことを伝えると、彼はそうらしいねと答えました。続けて、オアハカの人々にとっては、チョコレート=甘くて泡だったドリンク。年月が経っても、多分この素朴なままだろうと。


 チョコレートの世界、特に日本に身を置いていると、市場を先回りするように常にカカオやチョコレートの革新に目を向けなければなりません。変わらない製法、変わらないチョコレート、それを受け入れて愛する人々が、ほんの少し羨ましく思えます。

 

2007/09/21


* オアハカのチョコレートも一部は工業生産が進み、冷たいチョコレートドリンクなどでは繊細な舌触りのものも見られます。但し、製法が変わっても“甘いチョコレート”の風味を好む趣向は変わらないようです。

 

 
新着情報
過去の記事

このページのトップへ