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可可豆見聞録

Vol. 25 南緯4°のカカオ パプアニューギニアへ 22007/08/21

朝8時、首都ポートモレスビーを出国するはずの飛行機は2時間以上遅れてラバウルへと飛び立ちました。ロビーで知り合ったオーストラリア人のジェイソンによると、パプアニューギニアでオンタイムに飛行機が離陸しないのは日常茶飯事とのこと。

 

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 この日は離陸する機体がエンジントラブルに合い、急遽代理のプロペラ機を準備すると言うことで、いつになるかわからない出発をロビーでじっと待ち続けました。
 同じように他の飛行機にも遅れが出ていたようで、ポートモレスビーに次ぐ第二の都市「レイ」に行く予定のジェイソンの飛行機は、結局6時間待ちだったと後日メールで教えてくれました。




 

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 何だか先行き不安なパプアニューギニアの旅。7月は本来雨の多くない季節。ポートモレスビーを離陸するときは晴天だったのに、海を渡ったラバウルは叩きつけるような土砂降りの大雨。飛行機を降り、空港ロビーまでのほんの数十秒の道のりでずぶ濡れになる始末です。 飛行機から取り出されたスーツケースもしかり。空港へ運ぶまでの間にどうやら雨が浸入したようで、内部が水で濡れていました。道路も急な大雨で排水溝が詰まってしまい、空港前は水浸し状態。


 嫌な予感は的中するものです。この大雨の影響でこの日から4日間の停電に遭遇してしまいました。水道も電気も当然ストップの予想外の展開。カカオ生産国に来ると日本の豊かさを改めて感じることが多いのですが、今回は文明の有難さを痛切に感じながら旅がスタートです。


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 さて、前回も申し上げたようにパプアニューギニアではカカオが栽培されているのですが、日本ではまだ余り知られていないのが現状です。

 2006年のカカオ生産量は4万7千t(トン)。パプアニューギニアに点在する島々の耕地面積からすると一見多いようにも聞こえますが、これは世界生産 量の1.4%程度にしか値しません。ここ10年でカカオの生産量は緩やかに上昇しておりますが、それでも1%枠を超える日はまだまだ先の話のようです。こ の生産の9割を支えているのが小農家のカカオ農民。彼らの存在なくして、この地のカカオは語れません。

 

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 こういったカカオ農民の栽培を支えるのが、カカオ研究機関やココアボード。パプアニューギニアではカカオ研究とココアボードが連動しており、有効と見ら れた研究結果はココアボードによる農民への指導が行なわれます。例えばカカオ豆の醗酵・乾燥方法や、新しい苗を品種改良したときの普及など。

 カカオは世界40ヶ国以上で生産されていますが、こういった指導がなされている国はまだほんの一部。カカオ豆生産量は世界生産の1.4%程度しかありませんが、基幹産業であるカカオを守り、普及・改善させる働きはしっかりと行われているのです。

 前回ご紹介したとおり、パプアニューギニアは日本と連合軍との間で犠牲となった、太平洋戦争の歴史に名を刻む国です。書店に足を運べば、当時のパプア ニューギニア全戦やラバウル飛行隊に関する数多くの書物を見ることが出来ます。貿易上日本とも深い関係にありますが、過去10年日本がこの国のカカオ豆を 輸入した実績は残念ながら有りません。

 富澤商店オンラインショップではミッシェル・クルイゼル社の「マラルミ」や、カカオバリー社の「パプアジー」といった、パプアニューギニア産のカカオ豆で作ったクーベルチュールチョコレートを販売しておりますが、これらは全てフランス産。
国内ではこの他に、ラ・モリーナ社(イタリア)のチョコレートが販売されていますが、こちらも同じくチョコレートとしての輸入品。

 距離で考えればフランスやイタリアよりずっと近く、歴史的にも共有するものが多い日本ですが、チョコレートの世界では近くて遠い間柄となっているのです。

 

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 その原因とも言えるのが、パプアニューギニアのカカオが持つ、独特のスモーキーな、まるでカカオ豆を燻製したような香り。ミッシェル・クルイゼル社の「マラルミ」を口にして頂くと感じる方もいらっしゃると思いますが、ドライフルーツのようなとてもフルーティーな香りの奥に、時折スモーキーな、ラプサン・スーチョンや葉巻を思わせる様な香りが潜んでいます。

 これはパプアニューギニアだけでなく、バヌアツ(カオカ社「3大陸(3コンチネンツ)」にも混合されている)のカカオ豆や、インドネシアの一部のカカオ豆にも時々見られる香りです。ヨーロッパではオリエンタルな香りのアクセントとして受け入れられることがありますが、アジア人、特に私たち日本人からすると、おおよそチョコレートとはかけ離れた香り。

 結局この「スモーキー」な香りが、現在のチョコレート界の中でパプアニューギニアと日本を隔てる大きな壁の一つとなってしまっていたのです。


■ ■ ■

 

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 では何故、この国のカカオ豆にはスモーキーな香りがあるのでしょうか?

 これはこの国が位置する緯度と気候に大きく影響します。ラバウルを含むパプアニューギニアの主要カカオ生産地域は南緯3~6°の範囲にあります。その殆 どが海に面した沿岸部。標高が低く、海から湿った風が吹きこむため、天日でカカオ豆を乾燥させても黴(かび)が生えてしまうことが多々あるというのです。

 チョコレート、特にビターチョコレートを作る際、使用するカカオ豆の内3%が黴(かび)豆だと、そ のチョコレートは黴風味が感じられるものになってしまいます。従って、天日乾燥の条件が悪い場合は、醗酵させた後の水分の多いカカオ豆を強制的に乾燥させ ないと、商品としての価値が無くなってしまうのです。

 醗酵後のカカオ豆を人工的に乾燥させるには、

 

ガス熱を利用した熱乾燥
薪などの熱を使用した熱乾燥

 

の2つの方法が主に挙げられます。
 どちらも熱源を使用するので原理的には同じ手法なのですが、前者は原料にディーゼル(軽油)を必要とするためその分コスト高になり、後者は天然の木々から作る薪でまかなえるため比較的安価なコストでまかなうことが出来ます。
従って、前者は中・大規模のカカオ加工場、後者は個々の小農家で行われます。

 そう、ディーゼルやガソリンが高く、小農家が生産の大部分を占めるパプアニューギニアでは、薪を使用した乾燥によるこの加工がカカオ豆の香りに大きく影響しているのです。

 例えば、焼肉をイメージして下さい。七輪などに熱い炭を入れ炭火で焼き上げるとき、点火により熱は発生しますがそれだけで煙は発生しませんよね。網を置き、肉片を置いて、滴った脂が炭の熱で燃えて初めて煙が発生します。
ところがキャンプなどで湿った枝木を使ってバーベキューをするときはどうでしょう?枝木に火を付けたときからモクモクと煙が発生しませんか?

 前述のように、パプアニューギニアは湿度の高い地域。カカオ豆の乾燥に使用する薪は必ずしも常に乾燥しているわけではありません。従ってこの薪に点火した 時点で水蒸気と共に煙が発生します。加熱により発生した熱や煙は配管を通って乾燥室の外部に排出されるのですが、通常乾燥中は雨や夜露に濡れぬようカカオ 豆の乾燥台の上に屋根をつけているため、排気の設備が不十分で一旦煙が隙間から乾燥台の中に入ってくるとそこで滞留する現象が起こります。

 これがスモーキーフレーバーの正体。乾燥中のカカオ豆が滞留する煙に包まることによって生じていたのです。

 ディーゼルによる熱風乾燥を行った場合はこういった香りは滅多に付随しないとのこと。実際現地の加工場で確認しましたが、カカオの強い醗酵香のみで、スモーキーな香りはどこにも見当たらないのです。

 薪を使用した乾燥も、排気がしっかりとしていればスモーク香を付くことを防ぐことができ、フルーティーな香りのチョコレートを作ることが可能となります。けれどもこういったノンスモーキーのカカオ豆生産量は、施設や設備の数が限られているため決して多くはありません。

 同じ国、同じ地域のカカオ豆なのに、乾燥方法を変えるだけで1つはスモーク香のあるもの、もうひとつはフルーティーな香りのものと、こんなにも異なる香りのカカオ豆に仕上がります。

 パプアニューギニアのカカオ豆で作ったチョコレート、お試しになったことが無い方は、是非一度ミッシェル・クルイゼル社の「マラルミ」(ビターチョコ)や、カカオバリー社の「パプアジー」(ミルクチョコ)をお召し上がりになってみて下さい。富澤商店オンラインショップからオーダー頂けます。

 





■ ■ ■

 

 現在パプアニューギニアで栽培されているカカオ豆は、カリブ海より来たりしトリニタリオ系のカカオ。以前ブラジルのフォラステロ系のカカオが栽培された経緯はありますが、収穫したカカオ豆が小さかったことより本格的な栽培には至りませんでした。

 ところが農薬を使用しない小農家の多いパプアニューギニアでは、栽培年数を重ねたトリニタリオ系のカカオは病気になりやすく、カカオの木1本あたりの収穫量が減少する問題が出てきました。

 

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 現在ではそうした問題対策の一環として、トリニタリオとフォラステロの系統を掛け合わせた、香り良く、病気に強いカカオの研究やその栽培も行われています。

 また、クリオロ系カカオとの掛け合わせた更に薫り高いカカオ豆の研究、より良い醗酵、乾燥方法の改良研究なども行われています。

 そうやって進化しているパプアニューギニアのカカオ。現在最大輸出国はアメリカ、ついでシンガポール(その多くは加工後オーストラリアに)、伸張中の国と してはベルギー、中国などが挙げられます。アジアマーケットはインドネシア、マレーシアとも取引があるのですが、最初に申し上げた通りこの輸出国の中に日 本は入っておりません。

 ドイツ、イギリス、第一次世界大戦以降はオーストラリアの支配下にあったパプア ニューギニア。その後太平洋戦争とともにこの地を悲惨な戦火に巻き込んでしまったのは、紛れも無い私たちの国、日本。ここに住む人々の心には様々な想いが 残っているのでしょうが、OISCAのような非政府団体やJICA(国際協力機構)などの働きにより、農業支援や衛生指導といった直接的援助が行われてい るため、日本に対し友好的なイメージを持っている人々が数多く存在します。

 対貿易輸出国としてもオーストラリアに次ぐ第二位の日本。そのせいか、今回滞在中に「いつか日本にカカオ豆を輸出したい」という言葉を何度も耳にしました。マーケットとしての魅力もさることながら、「日本」という国そのものに期待を寄せているのではないでしょか?

 丁度このコラムを書き終える3日前、現地のカカオ豆品質研究の仕事をしているウェンディーからメールが届きました。彼女が今抱えているテーマはスモーキー香のあるカカオ豆とそうでないカカオ豆をいかにコントロールするか。また、いかに小農家での乾燥方法を改善するか。

 パプアニューギニアのカカオ豆の将来を、私とさして歳の変わらない現地の女性研究員が、第一線で支えているのです。

 

2007/08/21


本調査は財団法人OISCAパプアニューギニア・ラバウル・エコテック研修センターの協力のもと行われました。ご協力下さった沢井様、荏原様、スタッフの皆様に改めてお礼を申し上げます。
* 財団法人OISCA http://oisca.org/indexj.htm
* 財団法人OISCA中部日本研修センター・愛知支部 http://oisca-chubu.org/

(ラバウルE.T.センターの沢井様が執筆中のラバウル便りをご覧頂けます)

 

 

 

 

 
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