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可可豆見聞録

Vol. 19 カカオがテーマのバレンタイン2007/02/20

 すっかりチョコレート祭りと化したバレンタイン。百貨店各店のチョコレートのイベントでは、国内外からスターシェフが登場してはトークショーやデモンス トレーションが開催。目玉商品には初日の開店前から購入待ちの列が出来たり、毎日足しげく通われる方もいらっしゃったりと、チョコが溶けるくらいの熱気に 包まれる光景がすっかりお馴染みとなりました。

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 年々過熱し、変化していくバレンタイン。この期間中、私はクライアントのお手伝いをしたり市場調査をしたりと駆け回っていることが大半。良く見ていると チョコレートを求める沢山の女性たちの中に外国の方がいらっしゃることも多々有ります。中にはチョコレートを購入するわけでなく、チョコレートを購入する 女性たちの姿を目で追っている方も。どうやら外国のジャーナリストが、日本のバレンタイン事情をリサーチしていたようなのです。

 たまたま数回ほどインタビューを受けたのですが、全員に共通することが「本命チョコ」「義理チョコ」の知識はあるものの、「友チョコ」「世話チョコ」 「Myチョコ」に関しては認識が無いこと、日本のバレンタイン文化そのものが大きく変化していることにあまり気付いていないご様子。ここ数年で現れた新し いバレンタインの形であることを説明すると、へぇと驚いたような顔をされていました。

 

 バレンタインの在り方がそう大きく変わることの無い欧州の人からすれば、殊更日本の捉え方は不思議に見えて仕方が無いのでしょう。「義理チョコ」文化だ けでも驚きなのに、加えて女性から女性へ贈る「友チョコ」まで登場しているのですから。でも、その文化の柔軟性こそが日本の特徴。他国文化を日本流にアレ ンジして進化させるのが、ある種日本の得意分野なのですから。

 さて、毎年ブームを生み出すバレンタイン。昨年人気だった「塩チョコ」は、ついに関西地域やコンビニまで波及し、すっかり定着の兆し。大阪の名店「エク チュア」の塩チョコはバレンタイン前には百貨店で売り切れ。関西の友人が送ってくれた大阪の情報誌にも“しょっぱいバレンタイン”の見出しで 「塩チョコ」が紹介されていました。何も知らない方が読んだら“涙でしょっぱいバレンタイン”と勘違いしてしまうかもしれませんね。

 

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 今年のブームといえば「産地別カカオ」。この商品は早いブランドでは数年前から出ていましたが、今年は商品の数が違います。カカオ豆の焙煎からチョコ レートを作るブランドはもちろん、クーベルチュールから商品を仕立てるショコラティエやパティシエだって産地別カカオのタブレットやトリュフに果敢にトラ イアル。“え、ここも?”と意外なお店までこのタイプの商品を販売していました。

 今回はそんなバレンタインの中で、カカオ豆の焙煎から仕立てたチョコレートを販売した3ブランドを、少し前の旅話も交えてご紹介いたします。

 

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c-19-03.jpg 1つ目は今年のサロン・ド・ショコラ・トウキョウで最も注目を集めた、フランス・リヨンの名店「Bernachon(ベルナシオン)」。サロン・ド・ショコラ期間中で販売する予定だった全てのチョコレートを、なんと初日の昼過ぎに売り切ってしまった“伝説”のお店です。

 フランスのショコラトリーでカカオ豆の焙煎からチョコレート作りを行なう店は4店(Valrhonaなど企業は除きます)。その中の一つがベルナシオンです。

 “食通の街”でその名が知られる、フランスの地方都市リヨンから出ることの無かった門外不出のチョコレート。カカオの焙煎からチョコレート作りを行なう この店の商品を“シラク大統領も好んで食べる”と書かれた記事を6年前に目にした私は、一度口にしてみたいとの衝動から翌年有給をとってフランスへと旅立 ちました。

 当時、チョコレート原料製造に携わっていた私にとって、大規模な工場を持たずにカカオ豆からチョコレートを作ることは全くもって想像できませんでした。 日本にはそういったショコラトリーは有りませんが、ヨーロッパには家族経営規模でもカカオ豆の焙煎からチョコレートを作れるショコラトリーはまだまだ存在 します。

 日本の場合、カカオ豆を少量で供給できる仲介問屋が存在しないことがその大きな要因です。多くの日本のチョコレートメーカーは、カカオ豆をその生産国か ら商社経由で大量購入するからです。欧州の場合はこのカカオ豆を仲介する問屋が存在するので、比較的少ない量でも個人店がカカオ豆を購入することが出来る のです。中にはカカオ生産者と契約を結び、直接買い付けているショコラトリーも有ります。

 リヨンで初めて目にしたベルナシオンは予想とは全く異なった店でした。カカオ豆の焙煎からチョコレートを作ると聞いていたので、工業的な匂いのするトラ ディッショナルな風貌かと思いきや、閑静な通り沿いにあるブティックとティー・サロン(サロン・ド・テ)は高貴な印象を佇む悠然とした構えで、Gパン姿で 到着した私を寄せ付けないような印象が有りました。

 美しい石造りの内装、ボンジュールで迎えてくれるスタッフのマダム、常連であろう貴婦人・・・トラディッショナルなスタイルのボンボンショコラやガトー、少し高めのお値段。パリの有名ショコラトリーとも一線を画す独特な様相に、当時の私は少し戸惑いました。

 そんなベルナシオンでまず初めに口にしたのは、お目当てのショコラでもなく、有名なチョコレートケーキでもなく、ティーサロンでのみ頂けるショコラ・ショー(ホットチョコレート)でした。

 初めて口にするベルナシオンの味。おそるおそる口に含んだ瞬間頭をよぎった言葉は「濃厚」。そして強いカカオの香り。洗礼されたショコラ・ショーとも違 うし、だからと言って野暮ったい味なわけでもない。“これがフランスのショコラ・ショーよ”口の中で連呼する味。これまでの私の知っていた全てのショコ ラ・ショーが足元にも及ばない濃厚さでした。
 ファーストインパクトで私をノックアウトしたベルナシオン、結局それから毎年1回は必ずこの地に足を運び、そしてこのショコラ・ショーを飲むのですが、いつ頂いても相変わらずの濃厚さと口当りで迎えてくれます。

 3回目の訪問だったと思います。この日たまたま現地の友人とショコラ・ショーを飲みに行った私は、偶然にも工房を見せて頂ける事になりました。もちろん 普段は中を拝見することは出来ません。本当に“たまたま”が重なった出来事でした。初めて目にするベルナシオンの心臓部。カカオ豆の焙煎からチョコレート (クーベルチュール)に仕上げる工房の中には、中南米の良質なカカオ豆とトラディッショナルな機械が置かれ、コンパクトながらも実に合理的に設計されてい ました。

   そのときの写真をここでご紹介することは出来ませんが、大きな工場でしかチョコレートは作れないと思っていた私にとって、そのコンパクトな工房はカル チャーショック以外の何ものでも有りませんでした。多分、当時私の知っていたチョコレート工場のスケールから比べると、1/100程度のサイズだったかも 知れません。それでもこんなに素直で素朴なチョコレートが作れるのです。いえむしろこのスケールだからこそ、カカオ職人ならではのこだわりをチョコレート に詰め込むことができるのでしょう。

 

 このベルナシオン訪問がきっかけで、その後プラリュー、ボナーとカカオ豆の焙煎からチョコレートを作る工房を見学させて頂くことになるのですが、この体験が今でも私の夢を後押ししているのは確かです。

 洗礼されていてクリエイティブなショコラの味に慣れている方にとっては、ベルナシオンのショコラは少し重たいかもしれません。いわゆるパリあるような、 モダンなショコラトリーのそれとは異なるカテゴリーですし、安価なショコラではないので、値打ちをどこでとらえるかで全く印象の変わってくるものだと思い ます。
 今でも伝統を守り、カカオ豆の焙煎からチョコレート作りを手がけ、多店舗展開しなかった心意気分が加味されていると考えれば、私なら決して高いとは思いませんが。

 

■ ■ ■
 
 
c-19-04.jpg 2つ目はイタリアのブランド「La Molina(ラ・モリーナ)」。

 今年新宿高島屋に初上陸したチョコレート。実はこのチョコレート、2年前から私が注目していたブランドで、きっと日本に入ることは無いだろうから今秋現地に買いに行こうかと思っていた矢先でした。

 ここもカカオ豆の焙煎からチョコレート作りを営む家族経営のショコラトリー。カカオ豆の焙煎から手がけるイタリアのチョコレートと言えば、最近注目され ている「アメディ」「ドモーリ」などが上げられますが、「ラ・モリーナ」はこの2社よりもう少し前の1967年創業。アメディが「お兄さんと妹」の兄妹事 業であることに対し、こちらは「お兄さんと弟」の兄弟事業。ご家族もエピスリーを営んでいる食材一家です。

 「ラ・モリーナ」の特徴は、何と言ってもパッケージの可愛らしさ。ポップな要素を持ちつつも気品を感じるデザイン、包材の配色のバランスが絶妙で、センスの良いイタリアらしいエスプリと遊び心のきき方は、貰った人をウキウキさせます。

 チョコレートはカカオの焙煎から仕立てているだけあって、口に含めばその生粋な仕事ぶりがうかがえます。
 取り扱っているカカオは、それぞれ産地別のタブレットに仕立てて有ります。ラインナップは6種類。焙煎を施す職人の業とカカオとの対話も見事ですし、使 用するカカオ豆の生産地に必ず赴いているという姿勢にも安心を感じます。パッケージも素敵。カカオ生産国の国旗をあしらったシンプルデザインなのに、何故 かお洒落。

 この「産地別カカオ」のカカオラインナップは以下の通り。

中南米  : ベネズエラ、エクアドル
カリブ  : キューバ
アフリカ  : マダガスカル、タンザニア
オセアニア  : パプアニューギニア

 

 ちなみに輸入をしているのは、インターネット上でイタリア食材を取り扱う「ラ・クチネッタ」の運営元カーサ・モリミ。バレンタイン後のネット販売では、 まだハーブを使用したタブレットしかお取り扱いが有りませんが、ご紹介したタブレットも含めこれから増えていくのではないでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

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 3つ目はアメリカのブランド「シャーファンバーガー(SHARFFEN BERGER)」。ハンバーガー屋のような名前ですが歴としたチョコレート屋で、今西アメリカで勢いのある、アメリカのグルメチョコレート市場を牽引して いるブランドと言っても過言ではないでしょう。
 現在の工場はバークレイの大きな敷地内に立てられていますが、もともとは南サンフランシスコにてドイツ製などのヨーロピアンヴィンテージの機械を使用してチョコレートを製造していたそうです。

 このシャーファンバーガー、アメリカのチョコレートとあなどる無かれ。共同経営者のロバート・スターリング氏は、1994年に前述でご紹介したフラン ス・リヨンのベルナシオンで数週間を過ごした経験の持ち主で、もう一人の経営者シャーファンバーガー氏と事業合意した1996年には、二人で30種類もの カカオ豆を吟味、結果選ばれしカカオ豆を中南米中心に独自に輸入して使用しているのです。

 現在のバークレイの工場は指定された曜日であれば工場見学も出来ますし、WEB内でバーチャル工場見学も体験できます。興味のある方は一度アクセスして 見ると良いでしょう。トラディッショナルで珍しいチョコレート原料を微粒化する機械「メランジャー」も見つけることが出来ます。

 全米で販売されているシャーファンバーガーのチョコレート。日本ではDEAN&DELCAや明治屋で一部のタブレットは購入できますが、今回銀 座三越のイベント会場に設営されたスタンドでは、ベネズエラ産カカオ豆を使用したタブレットや、ガーナ&マダガスカルのカカオ豆をブレンドしたタブレット なども扱われておりました。

 シャーファンバーガーのチョコレートは、商品によっては好き・嫌いの好みに分かれるものや、独特なアメリカンな商品作りを感じるものも有りますが、あの 大企業ハーシーのお膝もとアメリカで、カカオ豆の輸入・焙煎から手がける気真面目なチョコ屋が頑張っていることに、ひとつエールを送りたいと思います。

 

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 ショコラから原料のカカオにスポットライトが当り始め、ベルナシオン、プラリューといった自家でチョコレートを製造するショコラトリーにも次第に注目が 集まってきています。消費者嗜好の移り変わりが激しい昨今において、それがどの程度理解されるか、評価されるかは分かりませんが、こういったチョコレート の世界をもっと知って頂ける大きな機会だと感じます。

 ただ、それを伝えるには販売サイドの努力も必要ですよね。せっかく原料のカカオまで掘り下げた商品を取り扱っているにも関わらず、売り手にその知識が不 足していることを多々感じることが有ります。バレンタインのシーズンは臨時の販売店員も多いし、何より準備時間が短いので仕方の無いことだとは思います が、新しいお客様に商品の魅力を伝えるチャンスなのに、それを逃してしまっているような気がしてなりません。

 あるとき某ブランドの販売の方とベネズエラ・チュアオのカカオ豆についてお話をしたとき、こんなことをおっしゃっていました。「今年のカカオは天候が良好だったために出来が良かったですよ。フルーティーな香りも昨年のものより若干強いです。」
 この一言で、チョコレートは農産物が原料なので気候条件により香りが変化するという情報、シーズン毎に収穫される新しいカカオ豆を使用している真摯な姿勢が伝わります。

 折角カカオの産地まで掘り下げて作った商品、それに合わせた販売まで統一することで、もっと愉しいチョコレートを私達に提供できるのではないでしょうか?


* La Molina http://www.lamolina.it/
* ラ・クチネッタ http://www.lacucinetta.com/
* Sharffen Berger http://www.scharffenberger.com/
* ベルナシオン http://www.bernachon.com/

 

2007/02/20

 

 
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