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可可豆見聞録

Vol. 17 赤道を越えて マダガスカル -チョコレート編-2006/12/22

 今年2度目のマダガスカルへの渡航は夏の終わりの9月でした。

 ここは南半球。5ヶ月ぶりに訪れた首都アンタナナリボは、すっかり冬の装いに変わっていました。東京よりも赤道に近い位置にあるものの標高が高いため、日中は強い日差しが差し込むのですが、朝晩の気温は10℃を下回ることもあります。

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行きかう人もセーターを見にまとっていたり。カカオ生産国と言えども、標高が高くなるとここまで冷え込むのです。

以前のコラムではこの国の「バニラ」と「カカオ」をご紹介しましたが、今回はマダガスカルに新しく出来た「チョコレート工場」をご紹介いたします。

 

 


 

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 カカオの生産国の中には、自国のカカオを利用してチョコレートを作っている国も有ります。例えばベネズエラ、メキシコ、インドネシアなど。
 ここマダガスカルも例外ではなく、2005年まではROBERT社が国内唯一のチョコレートメーカーとして、カカオ豆の焙煎からのチョコレート製造を行っていました。
 そして今年に入り2社目のチョコレート会社が立ち上がりました。それが今回ご紹介するCINAGRA。工場は主都アンタナナリボ郊外の高台に位置し、遠 くから見てすぐわかる真新しい青と白の美しいストライプを呈しています。マダガスカルの赤色の大地とは対照的な色合いで、そのスマートな概観からは一見 チョコレート工場であることが予想つかない印象。

 

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 経営者は私の友人のシャインさん。2005年のサロン・ド・ショコラ・パリで、私がお手伝いしていたスタンドのお向かいで、ミロ農園の社長と一緒に話をしたことがきっかけでした。聞けばミロ農園のカカオを使って、現地でチョコレートを作るという計画があると言うではないですか。しかもチョコレート工場は着工し始めたところ。
 こんな興味深い話は他に無い。それならカカオ農園もチョコレート工場も一緒に訪ねてみよう、というのが、マダガスカルを訪ねる最初のきっかけでした。これが2005年10月末のこと。

 

 

 

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 その後工場の進行具合を確認しながら、訪問の日取りを決めていったのですが、何しろここはアフリカの孤島マダガスカル。チョコレートの機械の納品が予定 からずれることもしばしば。こういった機械はヨーロッパから船で運ばれてくるため、天候や時化の状態による日程の調整が非常に難しいようです。シャインさ んが頭を抱えながら、何とか一通りの機械が揃ったのが、訪問直前の3月末のことでした。

 私がお邪魔した4月は、丁度工場の初期稼動の時期と重なっていました。ならば私も何か手伝いましょうか?と言うことで、結局滞在中の1週間は工場出勤をすることとなりました。まだ設置したての機械を動かす、工場デビューの立会いです。

 

■ ■ ■
 
c-17-04.jpg 前にも申し上げましたが、マダガスカルのカカオには黄色いフルーツを連想させるような、爽やかで力強い酸味と、華のような可憐な香りを持ち合わせています。カカオの品種とその混合割合、醗酵方法、この土地の土壌成分や自然環境などが大きく関与しているのですが、特にミロ農園で作られる最高級クラスのカカオ豆にはその傾向が強く見られます。

 こういったカカオ豆が日本へ来る場合には、通常コンテナに詰まれ海上輸送されます。1コンテナにカカオ豆を満載すると約12.5t。これはカカオ 70%・50gの板チョコレートで30万枚以上生産できるカカオ豆量に値します。飛行機でも輸送は出来ますが、そうするともともと付加価値の付いているマ ダガスカルのカカオ豆で作るチョコレートは、結果的にびっくりするようなお値段になってしまいます。

 
c-17-05.jpg そういう訳で一般的にはカカオ豆は海上輸送をするのですが、マダガスカルを含むアフリカ船から日本への到着には意外に時間を要します。途中悪天候に見舞 われたり、インドネシア海域の荒波にもまれたり、カカオ豆にしてみれば、随分な長旅です。コンテナの中で一番下に詰まれたカカオ豆の袋は、余りの重さと航 海の長さにぐったりしているかも。
 これはなにも日本に限ったことではなく、カカオ豆を輸入してチョコレートを作る欧米各国でも同じことが言えます。避けては通れない航海なのです。

 対してCINAGRAのように現地で作られたカカオ豆を使用するということは、比較的カカオ豆をフレッシュな状態でチョコレートに加工できるというメ リットが有ります。それがどの程度チョコレートの風味や品質に影響してくるか、厳密なところは私にはわかりかねますが、少なからずともここで作るチョコ レートの酸味には、瑞々しい果実のような、とてもシャープで繊細なものが感じられます。ミロ農園の最高級クラスのカカオ豆で作るグレードの高いチョコレートには、その印象が如実に表れます。温度や湿度の変化が少ないということは、少なくとも、それがカカオ豆にとってプラス要因であることは考えられるでしょう。

 

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 カカオ生産国でチョコレートを作るメリットは、その国の経済にもプラス要因として働くと私は考えます。前にも申し上げたとおり、マダガスカルは経済的に 高い水準にある国では有りません。むしろその対極にあります。首都といえども、様々な工場などの前に、職を求めて並んでいる人たちを見ることが有ります。 日本でミニバンに値するバスには、すし詰め状態で扉が閉まらなくても路上を走っていることなんて日常茶飯事。

 カカオ豆というのは農産品です。ですから幾ら付加価値がついても、その輸出価格には限界が有ります。ところがカカオ豆を現地でチョコレートに加工するこ とで、その輸出価格の引き上げが当然行われます。現地雇用も増えますし、そこで作ったチョコレートを国内で販売すれば、国内の経済循環にも繋がります。
 必ずしもプラス要素ばかりでは有りませんが、個人的にはそういったことから、チョコレートを現地で加工することには、総体的に大きな意味があると思います。

 

 ただ、気を付けなければならないことは、チョコレートの温度管理や、輸出時の破損、製品の品質レベルを先進国クラスまで上げることなど、細かな注意点が沢山あることです。

 

■ ■ ■
 
 
c-17-07.jpg CINAGRAの工場で働く人たちは、皆温厚な人ばかり。もともとマダガスカルは治安が比較的良いせいか、人々も温厚な方が多いように感じます。若いスタッフが多いせいか、活気にも溢れています。

 最年少のウッグ、いつもニコニコしている工場のムードメーカー役の彼は、現在成長株で技術の進化を遂げているスタッフのひとり。彼が焼くカカオ豆からは、爽やかな酸味と香りが感じられます。

 

 

 

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 前述で述べたとおり、マダガスカルのカカオ豆からは特徴的なフルーティーな香りと、フローラルな香りが感じられます。これはカカオ豆の品種と、加工する 際の醗酵技術が大きく関与するのですが、このカカオ豆をチョコレートに仕立てる時には、この他に焙煎の技術も大きく起因します。他のガーナやコートジボ アールといったお馴染みのフォラステロ種のカカオのように、しっかりと香ばしく炒り過ぎてしまうと、この繊細な香りが押されてしまいアロマティックな印象 が薄れてしまいます。ですからマダガスカル豆を取り扱うときは丁寧に焙煎しなくてはいけませんし、焙煎の技一つで、チョコレートの風味がいかようにも変わ るのです。

 焙煎の後にカカオ豆を砕き、今度は砂糖などと混合して粒子を細かくする作業(リファイニング)に移ります。この粒子サイズもチョコレートの風味に影響す る大きなファクターで、細かすぎても、粗すぎてもいけません。また、どうやって細かくするかというテクニックによっても、風味の感じ方が変わってきます。

 更にはこの細かくなった粒子と、カカオバターを混ぜていきます(コンチング)。日本や世界の大手チョコ レートメーカーではこの二つの作業を通常分けて行ないますが、こちらの工場ではこれを2つ合わせて行ないます。使用するのはフランスやドイツ、イギリスな どのヨーロッパの中小規模のチョコレートメーカーが使用する「ブロイラーコンシュ(リファイニングコンチ)」と呼ばれる機械。もちろん、日本でも一部の メーカーは使用している機械です。

 CINAGRA社の工場で作る輸出向けのチョコレートは、このブロイラーコンシュを上手く調整して、エグ味を取りつつ特徴的な酸味を生かす練り方をする のですが、実のところマダガスカル国内の人はこの酸味が好きではないのです。ですから国内向けと輸出向けではチョコレートを作るときの様々な条件を変え て、それぞれの好みに合ったものを作るようにしているのです。

 酸味系のチョコレートが苦手なアジャは、「このチョコは酸っぱくて甘くない!!本当にこれでいいの?」なんて、ヨーロッパ向けのタブレットチョコを食べ ながら、私にもらしていました。マダガスカル国内用のタブレットは、砂糖たっぷりの甘系で、控えめの酸味の方がどうやら口に合うようです。

  

 

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 工場の中では女性陣も働いています。ここではチョコレートを作るのは男性陣の仕事、最後の包装は主に女性が担当します。日本でもどこの国でもそうですが、女性のパワーは工場の大きな原動力。白のユニフォーム姿で、チャキチャキ、テキパキと仕事をこなして行きます。
 ミロ農園の女性達はアフリカ系の人が多いのですが、バニラ農園のあるサンバヴァ、首都アンタナナリボの女性達はアジア系の血を引く人が多いためか、その働くときのテンポや動きに大きな違いが見られます。これもマダガスカルの面白さの一つと言えましょう。

 そんなこんなで皆の力が一つになって作り出されたCINAGRAブランドのタブレットは、先日のサロン・ド・ショコラ・パリで海外デビューを果たしました。ミロ農園の最高級カカオから作り出された「Eklat」と、スタンダードカカオをベースとした「Tsar」。まだ日本では代理店などが無いので販売されていませんが、いつか皆様にお披露目される日が来るかもしれませんね。ちなみにレシピは、この私が担当しました。

 

 

 

 

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 この冬は、出版系のお仕事をお手伝いすることが有りました。カカオのテイストを愉しむ「利きカカオ」について、いろいろご質問を頂戴したように思います。市場がチョコレートからカカオに、少しずつ興味の裾野が広がってきたからでしょう。
 そんな中についマダガスカルのカカオ豆をオススメしてしまうのは、国際的にその個性が評価されていること以外に、年に2回も訪れてすっかりこの国に愛着がわいたからかも知れませんね。

 来年もまた色々なお話をお届け出来ればと思っています。
 今度はどんな国で、どんな方々にお会いできるでしょうか?

 

2006/12/22

 

* Cinagra
* 現在は立ち上げ当時と状況が異なり、

CINAGRAとミロ農園間の取引きは行なわれておりません。(2008年4月)

* Cinagraのタブレット Eklat lait 44%(ミルクチョコレート)が世界最大のチョコレートの祭典

サロン・ド・ショコラ・パリ2007のチョコレートアワード 板チョコ部門で2位を受賞しました。
 
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