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可可豆見聞録

Vol. 11 赤道を越えて マダガスカル -カカオ編-2006/05/17

前回のバニラ農園に引き続き、今度はマダガスカルのカカオ農園への旅をご紹介いたします。
 まずはカカオ農園がある、アンバンジャ(AMBANJA)までの小旅行に、しばしお付き合い下さいませ。

 北東の町サンバヴァ(SAMBAVA)を離れ飛行機で小1時間、今度はマダガスカル最北端の町ディエゴ・スアレス(DIEGO-SUAREZ)に到着しました。
 ここは世界的にも有名な、エメラルド色に光り輝く美しい海が広がる町。マダガスカルの中で、最も赤道に近くなるにもかかわらず、明け方にはひんやりとし た空気、日中は照りつく太陽と乾いた風が肌を纏い、町が面する湾は交易の場として栄えているため、至る所に中東・アフリカ・アジア的なものを感じることが 出来ます。それまで滞在していたサンバヴァとは気候も雰囲気もまるで異なる、独特な町の香り。第二次世界大戦のときに、日本とイギリスが戦った、私たちと も縁のある町でも有ります。

 

 

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 ここディエゴからアンバンジャまでは陸路で移動。旅路はとても単調で、青い空の下、緑の大地に挟まれ乾いたアスファルトの上を、ひたすら車で駆け抜けて 行きます。快調に飛ばせば、所要時間は約4時間。途中、幾つかの村(集落)を通り過ぎた時に目にした家屋が都会のそれと異なり、質素ながらも静かに佇み、 温かく家族を包み込んでいたことを、今でも覚えています。

 

 

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アンバンジャに近づくにつれ、次第に空気が湿気を帯びてきます。カカオが育つ環境は、通常標高0m~300mと言われていますが、ここアンバンジャは0m付近。海が近くても乾燥していたディエゴと異なり、海が見えなくてもウェット。
 少しずつ、生息する植物が変わり始め、深い緑の大地を抜けると、道路沿いにカカオ農園が広がり始めました。

 

 今回訪れたのは、「ミロ農園(Plantation Millot)」。フランスから移り住んだルシィアン・ミロ氏(1878-1943)が創設したプランテーション(大規模農場)で、現在は 1,200ha;東京ドームの面積に換算すれば、257個分もの広大な敷地を所有しています。

 

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 野生のカメレオンも生息する緑豊かな敷地内には、カカオの他、エッセンシャルオイル原料、香辛料、バニラなども栽培されており、イランイラン (Ylang Ylang)、パルマローザ(Palmarosa)、パチュリ(Patchouli)、ジャスミン(Jasmin)といった香水でお馴染みの原料は、フ レッシュなうちに敷地内アトリエで、エッセンシャルオイルに加工されます。ちなみに1Lのエッセンシャルオイルを抽出するのに必要な原料は、パルマローザ などの場合、何と500㎏。大釜で一気に原料を加熱し、丹念に時間をかけてオイル抽出を行います。

 

 

 手間隙かけて作られるエッセンシャルオイルの香りもさることながら、ミロ農園のカカオ豆で作るチョコレートも、同様に素晴しい特徴を持っています。

フルーティーな香り
繊細で上品な苦味
力強くもキレのある酸味

 

他に真似出来ないこの風味は、やはり丁寧に作られるカカオ豆に秘密が有ります。
 ここミロ農園ではチョコレートは作っておりませんので、ここで作られるカカオ豆は、輸出の後、各国のユーザー(チョコレートメーカー)によってそれぞれのチョコレートにかたちを変えます。

 それでは、美しいミロ農園の風景と合わせて、“ミロ式カカオ豆の作り方”をご紹介いたします。一般的なカカオ豆製造論も補足に加えて参りますので、少し難しい言葉も登場するかもしれませんが、気長にお付き合い下さいませ。

 ご興味ある方は、富澤商店でも取り扱っている、ヴァローナ社のマンジャリなどをお召し上がりながらご覧頂きますと、尚一層ミロ農園のフルーティーなカカオを身近に感じて頂けることでしょう。

 

■ ■ ■
 
 
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第1工程 収穫(recolte)
 カカオは1年中その実をつけますが、通常はメインとセカンドの2収穫期が有ります。ミロ農園の場合、メインの収穫期は6~7月。私がうかがったのは4月 初旬なので、丁度シーズンオフの時期。一見実っている様子のカカオも、まだまだ未熟ものが沢山。未熟カカオの白い果肉には硬さがあり、口に含むとかなり 酸っぱめ。逆に熟したカカオは、果肉がとろりとやわらかく、甘酸っぱい美味しさに包まれます。何しろ、熟した果肉固形分の半分以上は、糖分なのですから。

 

 

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 収穫したカカオは、実(莢)から果肉と種を取り出します。果肉と種を傷つけないように、丁寧に実を割り、素手で胎盤の芯をこそぐ様にしながら、スルリと 中身を出します。男性は力任せに作業して、中の種を傷つける危険があるので、この作業は女性が専門。傷の付いたカカオは、後の醗酵に悪影響を及ぼしてしま うので、やさしく取り扱わなくてはなりません。

 

 

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 中身を取り出した後のカカオの実(莢)は廃棄処分となりますが、ミロ農園では牛(ゼブュ)がこの“抜け殻カカオ”を食べるのだとか。ミロ農園で栽培しているカカオは、すべて「オーガニック」。牛にも、人にも優しいカカオなのです。

 ちなみに長い歴史を持つこの農園では、年季の入った「おじいちゃんカカオ」の木も時々見られます。歳を聞くと60歳とか、70歳とか・・・。アフリカの 例外的な品種を除き、通常カカオの木は植えてから約6年後に実が収穫できるようになり、収穫量は年々増えていくのですが、ピークを迎えるとそれが減少する 傾向に有ります。

 ミロ農園の場合、毎年収穫量の調整を行うために、計画的にカカオ苗の作付けや、古いカカオの小枝を伐採して新たな芽を育てるといった再生(egourmandage)が行われています。隅々まで行き届いた収穫管理の厳格さには、ただただ驚くばかりです。

 

 

 

 

第2工程 醗酵(fermentation)
 実の中から取り出したカカオ果肉と種は、その日のうちに醗酵作業に移ります。
 醗酵は、チョコレートの香りの素を作る上で、無くてはならない工程です。

 

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 一般的にカカオ果肉の醗酵には大きく分けて3種類有りますが、ここミロ農園では階段式の木箱を使った醗酵を行います。木箱は4段。一番上の箱に果肉と種を入れて醗酵させながら、日ごとに下の箱に移します。

 

 

 

醗酵中は微生物の力により、主に次の反応が起こります。

酵母菌と果肉の糖が反応してアルコールと炭酸ガスに変わる
酵素の作用で果肉が種の表皮部分から剥がれやすくなる
酢酸菌の働きで、アルコールが酢酸に分解される

 

もちろん、酪酸菌など他の微生物による様々な複雑な反応も同時に起こり、こういった変化がその土地のカカオ豆の風味を左右します。

 

 

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 実際にミロ農園で醗酵中のカカオ果肉を、2日目→4日目と順を追って比べてみると、4日目のものは2日目に比べ、深みのある酢の香りを強く感じ、酸度も上昇していました。味見したところ(注:醗酵中なので本来は勧められません)、甘さも減少。

 木箱の中のカカオ果肉と種を次の木箱へと移し替える際は、一定条件で行うため、安定した空気の流入とともに、醗酵中に活躍する微生物の入れ替えや炭酸ガスの発散が、スムーズに行われます。

 ここはとても大事なポイントで、小農家でのカカオ果肉の醗酵では、このような管理が難しく、安定醗酵のカカオ豆は得られ難い状況に有ります。醗酵が安定 しないと、最終的にチョコレートの風味も安定しません。細やかな醗酵管理がなされているか否かは、プランテーションの信頼の証と言っても、過言ではないで しょう。

 余談ですが、醗酵中は様々な化学変化と同時に、醗酵熱も発生します。最終醗酵中の木箱に手を入れたところ、モワンと温かく、43℃を示していました。お酢の香りが強烈に漂う、ヌルヌルしたカカオ風呂・・・といったところでしょうか。

 

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第3工程 洗浄(lavage)

 醗酵後のカカオは、一度水で洗浄します。プランテーションや農家によっては洗浄しないところも有り、この作業は生産者によってまちまちです。

 ここでは、醗酵後のカカオ種は水を入れた専用タンクでガラガラと洗浄します。洗浄後のカカオは濡れているので、本乾燥に入る前に地熱で1日予備乾燥をします。この予備乾燥を行わないと、後でご紹介する木製の乾燥台(プラットホーム)が湿気で痛んでしまいます。

 

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第4工程 乾燥(sechage)

 予備乾燥を終えたカカオ種は、約5日間の本乾燥に入ります。
 一般的にこの乾燥は、天日乾燥と機械乾燥の2種類に分かれますが、ここでは木製の大きなプラットホームに、カカオ種を散らすように広げて屋外で乾燥させる、天日乾燥が用いられています。

 乾燥中は同時に風味の熟成も進むので、天日乾燥の方が良いと言われていますが、屋外で行うが故に、突然の雨による危険は回避できません。また夜間はカカ オ種を屋内に収納しなければならず、いつでも迅速な対応が取れるように、プラットホームは車輪とレールが設置されています。

 それにしてもこちらの農園は、とても贅沢な乾燥方法。きっちり乾燥するように間隔を開けてカカオ豆を散らすのですが、これは作業面積を要するため、敬遠されがち。これだけゆとりがあれば、良い乾燥が行えます。
 乾燥を終えたカカオ種は、カカオ豆としてチョコレート原料に用いることが可能となります。

 

 

第5工程 選別・検査(triage)
 最後に手作業によるカカオ豆の選別と、カカオ豆の品質チェックが行われます。

 

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 品質チェックは水分量の他、100粒のカカオ豆をカットして、その断面を確認します。色調、香り、不良豆の有無など。右の写真をご覧頂くと、カット豆の 断面には、濃い茶色、薄い茶色、その中間色の3種が混在しているのが分かります。ここミロ農園ではトリニタリオ種のカカオがメインなため、中間色の断面を 持つカカオ(写真上部)が9割を占めますが、稀に薄い茶色のクリオロ種(写真中部)、濃い茶色のフォラステロ種(写真下段)も見られます。

 

 

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 カカオの品種はお話しすると長くなるので、またいつか、ゆっくりご説明申し上げたいと思いますが、希少価値の高いクリオロ種の存在は、農園管理の高さを物語っています。もともと病害虫に弱いクリオロ種。管理が悪ければ、ここには存在していないことでしょう。

 こうして、チェックを通過したカカオ豆のみが「ミロ農園のカカオ」として袋に詰められ、ヨーロッパを中心とした世界各国へ旅立って行きます。

 

■ ■ ■

 

 

 チョコレートを作るには沢山の機械が必要で、そのためにチョコレート作りは「装置産業」とも呼ばれることがあるのですが、カカオ生産に関しては未だ人力に頼る作業が多分にあり、現地の人々の労働無くして語ることは出来ません。

 そういったカカオ生産者の中には、チョコレートを知らない、あるいは知っていても高くて食べられない人々が沢山居ます。カカオ生産地域は気候の影響で、 チョコレートが融けてしまうといったデメリットも、彼らがチョコレートを口に出来ない要因のひとつですが、それ以上に、カカオ生産国は金銭的に貧しい国が 多いことが理由として挙げられます。それはここマダガスカルも例外ではないことを、最後に添えておきたいと思います。

 ご紹介したように、「ミロ」は美しく、クオリティーの高いカカオ豆や香辛料、エッセンシャルオイルを生産する農園です。管理者は勉強熱心で、品質向上にいつも力を注いでいますし、働いている人々は笑顔で明るく、心豊かな方ばかり。
 前回のバニラにしても、製品の品質はトップクラスです。そんな彼らの母国が、世界最貧国のひとつであるという現実に、少し物寂しさを感じます。

世界から高い評価を受けている、彼らが作るカカオ豆、
そんなカカオ豆で作られたチョコレートを、贅沢に頬張る私たち。
だけれども最貧国から抜け出せない、アフリカの島国「マダガスカル」。

 

 チョコレートは「世界の縮図」となぞらえることが有ります。
 心に感じる違和感をチョコレートに代えて、しっかりと味わおうでは有りませんか。

 

* 最貧国とは、
 1.1人当たりGDPが285ドル以下の場合、
 2.GDPに占める製造業のシェアが10%以下の場合、
 3.識字率が20%以下の場合、
の3基準を組み合わせて認定されます。
現在、日本とマダガスカルの間では政府間の技術協定が結ばれており、 様々な支援がなされています。

 

2006/05/17

 

* 富澤商店直営店やオンラインショップでは、マダガスカル産カカオの原料クーベルチュールを購入することが可能です。

 

 

 

 
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