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可可豆見聞録

Vol. 8 「Terroirs(テロワール)」と「Origine(オリジ-ヌ)」2006/02/01

バレンタインが近づき、茶色いショコラの世界がロゼ色に、ピンクにと、彩り鮮やかに飾られてゆく度に、何だか楽しくなり、新作ショコラのチェックをそわそ わと始める女性も多いはず。そういった、新作ショコラや新作ブランドのチェックで外せないイベントが1月下旬に行われる「サロン・ドュ・ショコラ・トウ キョウ」です。

 このコラムを書いている今は、新宿伊勢丹でのサロン・ドュ・ショコラ・トウキョウ(以下サロン)を終えたばかり。前夜祭を含めた7日間の祭りの余韻と、少し儚さを、まだ胸の中に抱いたままです。
 私の場合、パリに引き続きここ東京でも縁あって、スタンドをお手伝させて頂きました。もしかしたらこのコラムをご覧の方で、会場でお会いしていた方がいらっしゃるかもしれませんね。

 

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 Chocoholic(チョコ中毒者)なんて言葉が存在するように、やはりショコラには、人を幸せにする魔力と、惹きつけるパワーがあるようです。今回 のサロンは例年以上に業界トップのシェフ達が来日したこともあり、仕事を休んでこられる方、遠方より飛行機でいらっしゃった方、毎日足をお運びになる方な ど、多くのサロンファンの方にお会いしました。まるでショコラが融けそうなくらいの、熱い情熱。日が重なるごとに、私は疲れが溜まり、朝が辛くてしょうが なかったのですが、サロンファンの皆様は、早朝から元気な笑顔でいらっしゃっていました。期間中、朝9時半から会場内セミナーの整理券を本館B1Fの入り 口で配布するのですが、早いときは朝8時台から列が出来ていたようです。さすがは毎日スターシェフが登場するセミナー、そして驚愕のチョコパワー。圧巻で す。

 

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 圧巻といえば、今年のサロンのオープニング。伊勢丹120周年記念と重なり、「塩バターキャラメル」で有名な、フランス・ブルターニュ地方のアンリ・ル ルー氏が12mのキャラメルを引き連れて来日。これを参加シェフ全員が横並びになって持ち上げて、サロンの幕開けとなりました。“テープカット”ならぬ、 “キャラメルリフト”。

 サロン・ドュ・ショコラなのに「キャラメル」がオープニングを飾るなんて、“おやっ?”と思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、ル・ルー氏の「塩 バターキャラメル」は、今やサロンで圧倒的な人気を誇る名物キャラメル。作り手の心のこもったキャラメルがこのサロンのオープニングを飾ることは、ちっと も不思議なことでは無いのです。
 ちなみにこの12mキャラメル、実は2本(計24m)用意されていて、1本はサロンのオープニングの後テレビ局に移動し、全国ネットでお披露目されたと か。そしてもう1本はサロンの会期中展示され、最終日の閉幕30分前に20cm毎の“幻のロングキャラメル”にカットして限定販売されました。

 

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 サロンの会場内は足を踏み入れた瞬間にショコラの甘い香りに囲まれ、辺り一面に様々なショコラオブジェが見られます。アコーディオンが奏でるモダン・パ リな音楽も流れています(もっとも、混んで来ると聞こえませんけど)。フランス人を中心とした各国のシェフがあちらこちらで見られ、フランス語が頭上を飛 び交う。さながら、“新宿伊勢丹6Fショコラ特区”と言ったところです。
 新作ショコラだけでなく、初出店、初来日シェフも多かった今年のサロン。日本、フランスの他に、ベルギー、スイス、イタリア、スペイン、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダと国際色も豊か。年々ヒートアップしているのは、来場者だけでなく、主催者も同じのようです。

 

 

 

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 スタンドの配置も昨年とかなり変化しており、特にコンフィチュールブームの火付け役、クリスティーヌ・フェルベール女史のスタンドが、移動して大きく なっていたことが印象的でした。聞けば“クリスティーヌの部屋”をイメージしてデザインされたとか。アルザスの新鋭アーティスト・ベロ女史の作品や、バカ ラの復刻コンフィチュールポットなども展示(販売)され、“あぁやっと、クリスティーヌ・フェルベールらしいスタンドに整った”と思われた方も少なくない でしょう。
 そういえば、クリスティーヌ女史のコンフィチュールが購入出来る某サイトでは、サロン・ドュ・ショコラの数日前に新しいコンフィチュールの入荷をメルマ ガで案内したところ、速攻で注文が殺到し、サーバーがダウンしておりました。直ぐに復旧しましたが、コンフィチュールブームが数年たった今でも、「ジャム の妖精」と異名を持つ彼女の人気に、一寸の衰えが無いことを痛切に感じます。

 

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 昨年あたりからサロンでは、「テロワール(“郷土”“その土地の”を指す)」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。ショコラの場合“その土地の ものを使って、その土地を表現する”という意味で多くは用いられます。こういったショコラティエと言えば、ブルターニュ地方のアンリ・ルルー氏、アルザス 地方のクリスティーヌ・フェルベール女史、ジュラ地方のイルサンジェー氏が有名ですが、今年足早に完売となったショコラの中に、ファブリス・ジロット氏の 「テロワール・ドゥ・ブルゴーニュ」が挙げられます。

 

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 ジロット氏のお店は、ブルゴーニュ地方の中心地、クレーム・ド・カシスで有名なディジョンに有ります。ブルゴーニュと言えば、「シャブリ」「ボジョ レー」といったお馴染みのワイン地区や、有名な「ロマネ・コンティ」が造られる、世界屈指のワイン産地。今回のショコラはその名の通り、ここブルゴーニュ で取れた果実(カシス、フランボワーズなど)をガナッシュとゼリーに閉じ込めたボンボンショコラの詰め合わせ。この薄いダークのショコラに包まれたベール の中には、驚くほどにフレッシュな果実の旨味がギュギュッと詰まっていました。口に入れる前に香りを頂くだけで、とても幸せな気分。早々の完売にも納得の 逸品です。

 

その土地の産物を使用するということには、素材の鮮度管理、品質管理といった、多くの技術的なメリットが考えられますが、そ れ以上に慣れ親しんでいる風味をショコラに閉じ込めることが、地元への愛情と等しい美味しさに繋がるのだと思います。鮮度と愛情の分だけ美味しくな る・・・「テロワール」に込められる作り手の想いを探るのも、ショコラを愉しむもう一つの方法と言えるでしょう。

 ちなみにジロット氏は今回始めてお会いしたのですが、とてもベビーフェイスで、頬っぺたがこのブルゴーニュの果実のように赤い、かわいらしい方です。多分、心のやさしい方なのでしょう。瑞々しく、ピュアな香りのショコラが、それを語っています。

 

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 「テロワール」と言えば、やはりこの方、ジュラ地方のイルサンジェー氏。とっても素朴で密かにイケメンの彼が、今回行ったセミナーの中で興味深かったの は、秘密のナイトサロン「男のためのショコラセミナー」。紳士のための雑誌「GENTRY」が1/25の夜に伊勢丹館内で行った20名の男性限定セミナー です。何とこの企画、事前の予約には定員の15倍の応募があったとの話し。このところ男性誌でもショコラ特集が組まれるようになり、男性が“嗜好品”とし てショコラを嗜むように変わってきているのは事実ですが、これ程までの人気には、正直私も驚きました。

 江戸時代から続く老舗ショコラトリーの4代目であるイルサンジェー氏。前述の通り彼もまた、パリに店舗を持たず、その地方で、その土地で取れるものを使 い、ショコラやガトーを作り続ける喜びを、「テロワール」という言葉に託している一人です。セミナーのテーマは「ショコラとお酒とジェントルマン」。一見 似合わなそうで、良く似合っている言葉。それは根底に「テロワール」があるからなのではと私は感じます。スーツや葉巻といったアイテム的なものでなく、男 性としての芯と、包み込むようなやさしさ、ダンディズムが、彼の人柄からは感じられます。それはきっと、彼が自分の土地を愛し、そこに住む人々のために ショコラを作り続けるという、確固とした理念が生み出すものなのでしょう。

 イルサンジェー氏のお店があるフランス・ジュラ地方は、「ヴァン・ジョンヌ」と呼ばれる黄色い、男性的な風味のワインが特産にあり、彼のスペシャリテの 中には、そのワインに合わせるショコラも存在します。あの夜はきっと、得意のショコラとワイン談義を、日本の男性たちと熱く交わしたのでしょう。まさに、 今年のサロンならではのセミナーです。

 

 

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 もう一人ご紹介したいのが、“カカオ職人”とも呼べるフランソワ・プラリュー氏。彼はフランスでも数少ない、カカオの焙煎からショコラを作るショコラティエ。Vol.6でも簡単にご紹介いたした、あの白のショコラドレスの製作者です。

 フランス・ロアンヌにある工房は一度拝見させて頂いているので、またいつかご紹介したいと思いますが、現在はマダガスカルに農園を持ち、カカオ栽培まで 着手している筋金入りのカカオ職人。いつお会いしても、この方から感じるエネルギーは、非常に強いものを感じます。彼の作るショコラには、活き活きとした カカオと、大地の香りが宿っていて、食べ手がその国、その土地の風を感じられるようなショコラに仕上げられています。

 今回初来日のプラリュー氏。セミナーではカカオからショコラになるまでを、詳細まで撮影された映像と、熱いトークで語っていました。実はこれまでのサロ ン・ドュ・ショコラでは、ボンボンショコラを仕立てるショコラティエの参加が多かったため、こういった「カカオ」の分野についてはあまり触れられることが 無かったのですが、今回この一線を画すプラリュー氏のセミナーに100名近くの聴講者が集まったことで、広く一般へのカカオの認知が、少し広がったのでは ないかと感じています。2005年のサロン・トウキョウが「テロワール」という言葉をショコラに乗せて伝えた年だとしたら、2006年はそこに「オリジー ヌ(原産地)」が加わったと言っても、過言ではないでしょう。

 ドイツ・コッペニア(コペヌール)のベルナルディーニ氏も「オリジーヌ」を伝えるその一人。今回は少々のタブレットのみの取り扱いだったので、会期中に ドイツに帰国されましたが、聞くところによると、大変な日本好きだとか。オーガニックで作られるエクアドル・ロスリオス州のカカオのタブレットは、無言で その華やかな香りと、上質の美味しさを語りかけます。来年のサロンでは、プラリュー氏と共に、熱くカカオについて語る姿が見られるかも知れませんね。

 

 

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 毎日が刺激的だったサロン・ドュ・ショコラ。
 パリやニューヨークのサロンと異なり、日本のサロンは規模的には小さく、サロン名物のショコラドレスのファッションショーも有りません。それでもシェフ と触れ合う場や機会が随所にあり、東京のみ出店するお店もあれば、パリよりこちらの方が好きというシェフもいるようです。受け止め方はそれぞれだと思いま すが、作り手のメッセージに多くの方が耳を傾ける、そういう意味では東京のサロンはNo.1かも知れません。“ショコラ熱”の過熱度もしかり。TVやラジ オ、雑誌の取材の多さにも、その様子は現れています。

 あと少しでバレンタイン。最後の週末は、更にヒートアップしたショコラの競演が、全国で繰り広げられることでしょう。どうぞくれぐれも、買い過ぎと食べ過ぎにはご注意下さいませ。

2006/02/01

 

* 富澤商店直営店やオンラインショップでは、プラリュー氏の原料クーベルチュールの一部を購入することが可能です

 

 
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