- Vol. 7 "高カカオ分"のチョコレート2006/01/02
インターネット上の公開日記である「ブログ」。2005年は流行語大賞のトップテンにランクイン、ブロガー人口は破竹の勢いで増え、今や500万人に迫る勢いとか(2005年9月末現在473万人)。その中から書籍化されるもの、TVドラマ化されるものも登場し、現代日本におけるひとつのサブカルチャーとして確立しつつ有るように思います。個人的なお 気に入りのブログ「生協の白石さん」もそのひとつ。
東小金井にある東京農工大学内の生協職員「白石さん」と生徒さんとの、“ひとことカード(生協への要 望、感想、意見カード)”を通じた、ほのぼの対話を綴ったものなのですが、最近ではあの杉村太蔵議員や、“ブログの女王”と異名の高いタレントの眞鍋かを りさんのブログの中でも話題にあがる人気ぶり。11月には単行本も販売され、すでに発行部数70万部を突破したとか。
そんな「生協の白石さん」。単行本版をパラパラと読んでいくと、沢山の生徒さんのリクエストの中に、こんなリクエストが見つけられます。チョコの種類をもう少し増やして下さい。
特にカカオ量が多いビターチョコがたべたいです。
([お名前]生茶パンダ)確かに、これは直ぐに対応して頂きたいリクエストです、白石さん!
私が心配するまでも無く、このリクエストに対する白石さんからの返答では、カカオ量2倍のチョコレートを再入荷する旨が、とても丁寧に伝えられていました。実はこの白石さん在勤の大学生協に限らず、今シーズンのチョコレート市場では、“高カカオ分”のチョコレートに人気が集まってきています。例年に無く 「カカオ80」や「カカオ99」などの“高カカオ分”の板チョコを目にする機会が増えています。以前からこの種の板チョコは明治屋や成城石井など、輸入食 材が中心のショップでは取り扱いがあったものの、大多数は特別な販売戦略など組まれていない、普通に販売されているものばかりだったのですが、どういうわ けか今年は「カカオポリフェノール」の健康効果を板チョコの値札横に添えたり、陳列棚でも目立つポジションに置かれたり、商品群を強化したりと、例年とは 違った販売方法がとられているのが目に付きます。量販店(スーパーなど)でも取り扱う店舗が増えてきているようですし、国内チョコレートメーカーの新商品 も“高カカオ分”関連に人気が集まっているようです。やはり、某エッセイストが提唱された「チョコレートダイエット」が影響しているのでしょうか?
さて、そんな“高カカオ分”チョコレートに関して今回は少し専門的な内容も含めてお話したいのですが、その前に前提をお伝えします。実はビターチョコ レートの規格と一緒で、“高カカオ分”に明確な定義は有りません。カカオ60%以上という人もいれば、カカオ70%以上という人もいます。日本の一般的な チョコレートをベースに考えれば前者、欧州のチョコレートをベースに考えれば後者に分かれるかもしれませんが、ここではカカオ70%以上と仮定して、話を 進めたいと思います。
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“高カカオ分”チョコレートの魅力は、何と言ってもカカオ本来の風味を楽しめるところ。通常チョコレートには砂糖が入ってい ますが、実は砂糖の含有量によって、同じカカオでも風味の感じ方が大きく変化します。砂糖が増えると、特に苦味が押さえられ、酸味がまろやかになるなど食 べやすく感じられる傾向にありますが、度を越すとカカオの風味を抑えすぎてしまうこともあるのに対し、砂糖が少ないとカカオ本来の風味は楽しめるのです が、カカオ豆の品種によってはカカオの個性が強すぎたり、バランスが悪く感じられたりする場合も有ります。それだけデリケートなゆえに、チョコレートを作 るときはそのカカオの風味に合わせた、ベストな砂糖量と砂糖の質を探ることが求められます。
“高カカオ分”チョコレートになると、次第に砂糖が減るため、そのカカオの品質の良し悪しがダイレクトに表れるようになります。つまり、より高品質なカカオを使うことや、風味をバランスよく調整する技術が要求されるということです。“高カカオ分”のチョコレートには、実は2つのタイプが有ります。ひとつは“高カカオ分”でも食べやすいように数種のカカオを混合した「ブレンドカカオ」タイプ。もうひとつは、カカオの個性を味わってもらうための「シングルカカオ」タイプです。
「ブレンドカカオ」は数種のカカオを混合して調整しているので、風味に奥深さがあったり、香りに広がりや起伏があったりと、チョコレートの中に様々なカカ オのドラマが見られます。そこにはカカオブレンドをする匠のセンスや、メーカーの特徴 ─例えば焙煎の特徴や、酸味の強弱など─ が、こっそりと隠れてい ることが多々有ります。かなりマニアックな内容ですが、食べ慣れてくると意外と容易にわかるようになり、これを探すのが密かな楽しみに変わってきます。

そして最近、驚く程に増えているのが、シングルカカオタイプ。数年前は、原料用クーベルチュールチョコレートや、一部の高級ショコラトリーでしか見かけなかったのですが、最近は流通チョコレート市場でも見られるようになってきています。
このタイプは一つの国のカカオ豆に絞ってチョコレートを作るので、カカオの個性と地域差がダイレクトに伝わります。例えるなら、「日本のリンゴで作った ジャム」「フランスのリンゴで作ったジャム」のような違いです。中には「青森県○○村のツガルリンゴで作ったジャム」のように、産地(または農園)や品種 まで限定しているものも有ります。
実はこのシングルカカオのチョコレートは、カカオ生産の過程まで遡らなければ本当に良いものは出来ないので、簡単なように見えて、“最も難しいチョコ レート”であるとも言えます。品種やその年の気候などの条件によって、同じカカオ分、同じレシピで作ったチョコレートでも、微妙に苦味・渋み・酸味などの 風味・様々な香りが異なり、その中で安定したものを供給することは、チョコレート製造者とカカオ生産者の相互努力無くしては語れません。カカオは農産物で すから常に自然との闘いです。だからこそ、沢山の人々の“人生”と“こだわり”の詰まった、シングルカカオのチョコレートを頂く楽しさが有ります。まずは 一度、同一カカオ分での各地域カカオの食べ比べ“利きカカオ”を試して頂くと、カカオの深い世界を体験して頂けて、とても面白いと思います。“ベネズエラ は好きかも?”“エクアドルって香り が華やか?”“ジャワは強烈!”など、様々な発見があると思います。更には、お付き合いしているカカオ生産国にまで興味を持って頂くと、もっとカカオワー ルドが楽しく広がることでしょう。
中には砂糖の無い、“カカオ100%”でも充分美味しく頂けるものも有ります。イタリア・ドモーリ社の 「PURO」、フランス・リシャール社の「ウルトラマンス・カカオ100%」などはまさにそれです。前者は希少価値の高いクリオロ種のカカオの中でも、本 当にアロマのやわらかでマイルドなものを使用、後者は程よくクリオロ種とトリニタリオ種のかけ合わさったカカオを使用しています。苦味がやわらかく、カカ オそのものに甘味があるので、砂糖が無くても充分愉しめます。もちろん、ビターチョコレートに食べ慣れていない方には少々強いかもしれませんので、ご注意 下さいませ。
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“高カカオ分”のチョコレートは、「カカオポリフェノール」による健康効果も同時に期待できます。ところで、同じ「カカオポリフェノール」を含む“ココ ア”と“チョコレート”では、一体何が違うのでしょうか?ここで、よりカカオについて知って頂くために、簡単にご説明いたします。
ココア・チョコレートのもとは「カカオの種」です。カカオの種は以下の工程を経て「ココア(ココアパウダー)」と「チョコレート」になります。

「カカオポリフェノール」とは、カカオの苦味成分、色素成分などを総称して指すので、上記青字の成分に含まれ、「カカオバター」には含まれません。余談ですが、ホワイトチョコレートはカカオバター、砂糖、粉乳を主原料に作るので、「カカオポリフェノール」が含まれておらず、苦味も無く、色も白いものに仕上がります。
“高カカオ分”チョコレートに表記されている「カカオ分」とは“カカオ由来の成分”ですので、上記でご説明した青字及びカカオバターはすべてそれに当てはまります。このうち、カカオニブやココアパウダーは通常は板チョコレートを作るときに使用しません(例外は有ります)から、一般的なカカオ70%の板チョコレートの場合、
カカオマス+カカオバター=70% (+砂糖など30%) となります。“高カカオ分”チョコレートは「カカオポリフェノール」を多く含みますが、同成分を含むココアと異なる理由がこれです。ココアはカカオマスを更に絞って作るため、カカオバター含有量が“高カカオ分”チョコレートと比べると少ないのです。
ちなみに、同じカカオ70%でもその内訳は様々で、例えば次のようなものが挙げられます。
A)カカオマス70%+カカオバター 0% = カカオ分70%
B)カカオマス65%+カカオバター 5% = カカオ分70%
C)カカオマス60%+カカオバター10% = カカオ分70%カカオマス、カカオバター以外の原料は砂糖、レシチン、バニラのみ使用し、すべて同一原料との条件下であれば、このA~Cのチョコレートは
カカオの風味:A>C 甘さ:A<C 口溶け:A<C が予想されます。カカオ分を表示するチョコレートメーカーはかなり増えましたが、通常その内訳までは表記されていません。何故なら、この内訳こそが“風 味”や“口融け”を決める重要なファクターだからです。企業秘密と思うと、何だか余計に探りたくなるのは、私だけでしょうか?
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スペイン人がメキシコと出会った16世紀初頭のチョコレートには、砂糖が入っておら ず香辛料を添えた、苦くてスパイシーなものだったことが伝えられています。時代を追ってスペインからヨーロッパ諸国へとチョコレートが伝えられていく過程 で、砂糖やバニラが加えられるようになり、苦いものから甘いものへとその姿を代えてきました。
ところが今、一部のチョコレートは再び砂糖を減らした、カカオ本来の風味へ戻りつつ有ります。「高カカオ分のチョコレート」・・・ 一見目新しく感じますが、実は遥か古代の人々が、長年に渡り飲用していた基盤でも有ります。“時代はまた繰り返す”そんな風に考えながらチョコレートを頂 くと、現代チョコと古代チョコの意外な共通点が見つかってくるかも知れませんね。ちなみに、“高カカオ分”原料チョコレートは富澤商店の店舗やオンラインショップでもお取り扱いが有りますよ。私も良く、1kgの板チョコを削っておやつにしています。分厚い板チョコを削る豪快さが、何故か美味さに“一味”加えてくれるんですよね。
2006/01/02






