- Vol. 3 キリグア村とマリアおばさんのチョコレート2005/08/16
前回ご紹介したグアテマラ・キリグア村とマルセロおじさんのカカオ。今回はこのカカオを使った、キリグア式チョコレートについてご紹介いたします。

ご存知の方がいらっしゃるかも知れませんが、チョコレートは長い間“飲料”として飲まれていたものでした。中央アメリカのチョコレート史では、16世紀前半にスペイン人の“エルナン・コルテス“がアステカ帝国の都(現在のメキシコシティー)を訪れた頃、アステカ王の“モテクソマ”を筆頭に、アステカ貴族達がチョコレートを飲んでいたことが良く知られてい ますが、彼らが帝国を築く以前から、メキシコ南東部、ユカタン半島、グアテマラ付近に居住していたマヤ族の間では、既にチョコレートは存在し、様々なシー ンで飲まれていました。
キリグア村はマヤ文明の遺跡、石柱など、歴史の爪痕が残る場所。今回のチョコレートはそんなマヤ文明の名残のもの、とご紹介したいところですが、実はキリ グア村だけでなく、メキシコ、グアテマラで現在飲まれているチョコレートは、アステカ・マヤ文明などの文化遺産の見られる地域でさえも、過ぎ行く時間(と き)の中で大半は、
“オリジナル”(砂糖が入らず、トウモロコシ粉やスパイシーな香辛料を加える・・・など)
↓
“スペイン風(スペインアレンジ)”(砂糖や甘い香りの香辛料も加える・・・など)
へ、その姿を変えています。また、同じスペイン風チョコレートでも、各地域による地域色も存在します。それはかつて、この国々がスペインの占領下に置か れ、長い時間をかけて、文化や民族間での様々な「融合」が行われた結果と言えるでしょう。キリグア村の場合、マヤ文明の物質的痕跡はあるものの、マヤ族の 末裔である民族は殆ど見当たらず、むしろスペイン系(スペイン移民のその子孫)の方々が多く見られます。ですので、今回のキリグア式チョコレートは“マヤ 文明の跡地で飲まれるチョコレート;スペイン風、キリグア村バージョン”とご紹介させて頂きます。■ ■ ■

さて、前置きはこの辺で、早速キリグア式チョコレート作りのご紹介に進みましょう。先生は、ご近所のマリアおばさん。とてもチャーミングな方なのですが、 エプロンをつけたとたん、マリアおばさんは先生に大変身です。今回は2タイプのチョコレートを教えて頂きました。1つは混ぜるだけのチョコレート(Aタイ プ)、もう1つは煮込むチョコレート(Bタイプ)。教室は、マルセロおじさんのキッチン。“えっ、野外?”と驚かれる方も多いはず。私も最初見たとき、 “ここ?”と思いました。でもこのキッチン、相当の優れものです。釜戸の火は薪で点けるのですが、火力は強いのに火のあたりがやわらかいのが特徴。そうい えば、昔の日本もそうでしたよね。

Aタイプ手順(1):カカオの実から取り出したカカオの種と果肉を一緒に醗酵させ、乾燥させたカカオ豆を焙煎します。焙煎は釜の上に直接広げ、直火で皮が 程よく焦げるまで行います。この焙煎、驚いたことに機械でカカオ豆を焙煎するときに比べ、かなりの短時間。こんなに短くて大丈夫・・・?と思いながら中を 確認すると、心配ご無用、中までしっかり焼けていました。かなりアツアツなのに、マリアおばさんは慣れたもの。さすがです。

Aタイプ手順(2):次は焙煎したカカオ豆の皮むき。この皮むきはすべて手作業で行うので、とても時間のかかる作業。焼き立ては熱いので、少し冷ましてか ら行います。直火で焼きたてのカカオ豆は、中身(ニブ)の水分がグッと蒸発し、皮と身の間に空気の層が出来て、スルッと皮が剥がれます。オーブンなどでカ カオ豆を炒ると皮が剥き難いときがあるのですが、さすがは直火の力。地道に皮剥きした後は、指先が真っ黒に。

Aタイプ手順(3):皮をむいたカカオ豆(カカオニブ)を挽きます。昔は“メタテ”と“マノ”という道具を使って挽いたそうですが、今はもう少し便利な器 具を使います。丁度、ソーセージを作るときに使用するような器具で、材料の投入口(ホッパー)があり、ハンドルが回るとその中のクラッシャー(磨砕部)で 挽く仕組み。ちなみに、本来はトウモロコシを挽いて、トルティーヤなどを作るための器具です。“メタテ”と“マノ”も、もともとトウモロコシを挽く道具。 こういったトウモロコシ文化のある地方だからこそ、「カカオ豆を挽く」という発想が生まれたのでしょうね。
この中に、少量ずつカカオニブを入れて挽いていきます。これが思ったより重労働。ひたすらグルグルとハンドルを回し続けます。挽いたカカオニブは、皆さん よくご存知の機械で作るチョコレートより粗めの粒子で、口の中で少しザラッとします。時々シナモンスティック(セイロンシナモンと思われる)を千切って入 れ、これも合わせて挽いていきます。計量も無く、マリアおばさんの長年の勘でホイホイ入れていくのですが、これが絶妙なバランス。
Aタイプ手順(4):今度は砂糖を挽いていきます。砂糖はサトウキビから作られたもの。スッキリとした清涼感のある甘さが、マルセロおじさんのカカオと良く合います。
A タイプ手順(5):挽き終わった材料を一混ぜし、少量の水を加えて生地をまとめます。通常のチョコレートであれば、ココアバターでこれらを練るのですが、 何しろここは熱帯雨林。高い気温でココアバターは完全に溶けてしまいます。ですので、水を加えて生地をまとめます。本来チョコレートに水はタブーですが、 これは“ドリンク用”のチョコレートですし、水を少量入れることで砂糖が溶け、生地にまとまりが出ると同時に耐熱性も付きます。

さて、まとめたチョコ生地を今度はお団子状にまとめていきます。砂に水を加えてお団子にする、昔懐かしい砂遊びを想像してみて下さい。丁度あんな感じで、意外と楽しい作業。
最後にとうもろこしの皮で巻いて、出来上がり。これを沸かした湯で溶いて飲むのですが、作ったその日より2~3日置いた方が美味しいとか。■ ■ ■

次はBタイプ。今度はカカオ溶液を作り、煮込む作り方です。
Bタイプ手順(1):カカオ豆を焙煎し、皮をむき、シナモンと共に挽きます。ここまではAタイプの手順(1)~(3)と同じ。Bタイプ手順(2):挽いたカカオニブに砂糖をそのまま入れ、多めに水を加えます。掻き混ぜると、濃厚な砂糖&カカオ水。砂糖の量はAタイプより多く、舐めると“苦い”というよりむしろ“甘い”印象。甘さが強い分、シナモンもAタイプのときより強めに感じます。
Bタイプ手順(3):釜戸に火をつけ、(2)を煮詰めます。煮詰め加減はマリアおばさまの匙加減で決まるのですが、これまた絶妙。徐々にとろみが強くな り、ココアバターと水分の乳化が進むためか、ツヤツヤと輝いた液体になります。最後にはポッタリと粘性のあるカカオ溶液に。これがまた、今まで見たことの 無いチョコレートの姿だけに、何とも不思議。

Bタイプ手順(4):熱いうちにアルミを敷いた型に流し、自然冷却します。冷えてくると、不思議と固まってくるのですが、冷めたものをかじってみると “シャリッ”とした食感に変わることから、砂糖が再結晶化するようです。これを四角く切り分けたら出来上がり。こちらも沸かした湯で溶いて、ドリンクにし ます。
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早速その夜、作ったチョコレートで“チョコレートドリンク”を頂きました。苦みより爽やかな甘さとシナモンが利いていて、こ れがチョコレート?といった印象。キリグア産クリームを足すと、コクが出て、これもまた美味。冒頭でお話しした通り“飲むチョコレート”にも地域差が有 り、同じグアテマラでも“インディヘナ”と呼ばれる民族が居住する西側(メキシコに近い地域)では、チョコレートに唐辛子などの香辛料を入れて飲むそうで すが、キリグア村ではシンプルにシナモンのみ。でもその分落ち着いた風味で、リラックス出来る華やかな香りにうっとりです。挽いたカカオが粗いために、飲 み終える頃カップの底にカカオの黒い粒々が残るのですが、最後のそのほろ苦が、この不思議な美味しさをグッと引き締めます。
今まで口にしてきたどのチョコレートとも違う、衝撃的な風味。チョコレートの原点に触れた感動と共に味わうから、余計に印象的なのかも知れません。「ところ変わればチョコレートも変わる」。チョコレートの奥深さに触れ、ますます虜になったことは言うまでも有りません。キリグア式チョコレートにご興味 ある方は、是非現地へ足を運んでみて下さい。私もまた来年、今度は村が甘いカカオの香りに包まれる収穫時期に行こうと、密かに計画中です。
2005/08/16






